第2話 炎上系配信者の素
三人は、見事なまでに呆気にとられてしまった。
世間の風聞も、今まで見せていた態度も。その全てをひっくり返すような、誠実な態度。
「い、いや。だまされないぞ? そうやって俺達を油断させて、逆にアイテムを盗む気だろ」
リーダーの優男は、そう言って一樹に詰め寄る。
「そ、そうよ。そもそも、顔も見せない相手を信用しろってーの?」
少女も、追撃とばかりに一樹を睨む。
対して一樹は、今までの態度からは想像も付かない柔らかな物腰で「う~ん」と唸ったあと、
「まあ、いきなりそんなこと言われても……って感じですよね」
そう言って、あっさりと身バレ防止用の、顔の上半分を覆う大きなゴーグルをとった。
「なっ!?」
「ぐっ!?」
「えっ!?」
とたん、不意打ちを食らったような顔を見せる三人。
それもそのはずだった。仕方ないというものだ。強いだけでなんの魅力もないはずの男が、身バレ防止用のゴーグルをとった素顔が、めちゃくちゃイケメンだったなんて、誰が想像できようか?
「これで、少しは信用してもらえましたか……って、どうしたんです?」
「い、いや別に?」
「な、何でもねぇよ」
「そ、そそ、そうよ!」
しかも、マツゲが長く、やや童顔で、どこか美人みのある美男子だ。
少女のほうだけでなく、男2人もまとめてやられていた。
そうとは知らない一樹は、首を傾げる。
「ふ、ふーん。まあ、少しは信じてあげてもいいわよ? べ、別にあんたの素顔にクラッときたからとかじゃないんだからね? その辺のチョロい女と一緒にしないでよ?」
「「(うわ、チョロい)」」
「ちょっとあんた達、何か言った?」
少女にじろりと睨まれた男2人が、慌ててそっぽを向く。
「それで? ほんとにお詫びのつもりなわけ?」
「はい。流石に、いきなり乱入してモンスターを狩っちゃったので、その分はせめて埋め合わせないと。お話を聞く限り、そちらはランクアップをかけた戦いの真っ最中だったみたいですし」
「それはそうだけど……って、ちょっと待ちなさい!? この量……!」
「た、足りなかったですか!? 今すぐギルティ・ビーをもう10匹ほど狩ってきましょうか?」
驚いた顔を見せる少女に、一樹は顔を青くして慌てる。
「ばっ! そうじゃないわよ。むしろ逆!」
「逆?」
「ええ、何よこの量! Bランク以上のモンスターの魔石ばかり……しかも、どれも大きい。ランクアップを逃した分としてはどう考えてもお釣りが多すぎるわ」
「ていうか、さらっとギルティ・ビーをもう10匹討伐するとか言ってたが」
「その台詞がでてきちまうのが、おっかねぇな」
男2人からもジト目を向けられ、一樹はたじろぐ。
「ほ、ほんとにいいの? こんなに貰っちゃって」
「はい。迷惑かけたお礼ですから……あ、あと、お礼ついでにひとつ助言しておきますが」
一樹は思い出したように人差し指を立てて、
「ギルティ・ビーは、極稀にスケルトン・ビーと協力して狩りをすることもある、危険なモンスターなんです。だから、戦うときはもう少し周りに気を配った方がいいですよ?」
「……え?」
少女は、呆気にとられたように掠れた声を上げる。
「うおあっ!」
「これは!」
ほぼ同時に、男2人が声を上げた。
先程まで戦っていた3人の、背後にあたる位置。そこに、さっきまではそこにいなかったはずの蜂型モンスターの死骸が落ちていて、ゆっくりと霧になって消えていくところだった。
「う、うそ……私達、さっき戦ってたとき、ずっとコイツに狙われてたの?」
「はい。とりあえず倒しておきましたが」
何気なく言った一樹の言葉に、3人は絶句する。
だって、自分たちはBランクのモンスター五体が相手で全く余裕がなかったのだ。下手したら、隙を突かれてパーティー全滅もあり得たかもしれない。
そこを、助けられた。この、迷惑系配信者に。
パーティーの戦いに乱入するフリをして、さりげなく危機から救われていたのだ。
ただのちょっと強いだけの配信者じゃない。
誰よりも周りを見ていて、人を気遣う余裕がある。それほどの、隔絶した実力者。
「あ、あなた……一体何者なの?」
「しがない炎上系配信者ですよ。演技とはいえ心苦しいですが」
あ、これオフレコでお願いしますね。イメージが崩れちゃうんで。と笑いながら、一樹は応じる。
「ふぅん。まあ、あなたがどうしても素をバラしたくないって言うなら、黙っといてあげるけど……でも、わざわざ自分から嫌われ者にならなくても」
「それはまあ、いろいろとありまして。個性の強い人が生き残る界隈ですし、このキャラが一番ウケがよかったんで、続けてるだけです。ほんと、こんなキャラの人間に投げ銭くれる方々の気持ちがわからないです。申し訳ないやら有り難いやらですね」
頬を掻きながら苦笑する一樹。
「てわけで、俺は行きますね。ご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ありませんでした。くれぐれも、俺の素のことはご内密、に……」
そこで、ようやっと一樹は気付く。
何気なく視線を横の半自律軌道型カメラに向けた拍子に。まだ、カメラが回っているマークが出ていたことに。
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