ダンジョンで迷惑配信者をやっていた俺、うっかりアイドル配信者を助けた結果、鬼バズってしまう~もう俺は元のキャラには戻れないかもしれない~
果 一
第一章 迷惑系配信者、伝説になる
第1話 炎上系配信者は暴れ回る……?
「おらぁ!」
裂帛の気合いと共に、剣が振るわれる。
「キシャァアアアアアアアッ!」
鮮やかな斬撃で腕を切り飛ばされたキングゴブリン――ゴブリン系モンスターの最上位種が、たまらず悲鳴を上げる。
それでも一矢報いようと、キングゴブリンは残った腕を振り上げ、霆のような拳を放つが。
「遅え!」
ひらりとそれを買わし、返す刀で残った腕を切り飛ばす。
「うぎっ!」
たまらず苦鳴をあげるキングゴブリン。
が、それに構わず少年は剣を振るい続けた。
「ハッ! ホントにザコだな! おらおらどうした! 反撃してみろや!」
一閃、二閃と剣を振るうごとに、キングゴブリンの身体から一つずつパーツが切り離されていく。
荒々しく乱暴で、しかし圧倒的な強さが見る者を強引に惹き付ける剣技だ。
やがて斬撃の嵐に耐えきれなくなったキングゴブリンの身体が、煙になって消える。
代わりに、小さな魔石がぽとりとその場に落ちた。絶命し、ダンジョン内の輪廻転生の和に加わった証拠だ。
しかし――
「ちっ、歯ごたえねぇな! もちっと頑張れよ!」
少年――
キングゴブリンが消えた場所に、何度も何度も剣を突き刺し、あげく唾を吐きかける。
その様子は、はっきり言って好ましいとは言えない。だから、彼は――炎上系ダンジョン配信者と呼ばれているのだ。
『やっぱ強え!』
『Bランクのキングゴブリンに何もさせずに完封かよ!』
『けど死体撃ちする必要ねぇだろ』
『唾はきやがったぞコイツ』
『汚ぇ』
『いいぞもっとやれ』
今は、ダンジョン攻略の生配信中。
チャット欄はそれなりの盛り上がりを見せており、しかしその半数以上は一樹を非難するものが占めている。
ダンジョン配信は、日本に突如として出現したダンジョンの攻略の様子をネットにアップする、一種の娯楽である。
それなりに危険の伴うダンジョンでの大冒険を、画面越しに楽しめる、そんな利点から急速に普及してきたのだ。
それゆえに、ダンジョン配信者は星の数ほどおり、競争は激しいものとなっている。
一樹は、そんなダンジョン配信者の中でも中堅どころ。登録者数10万人に届いたばかりの配信者だった。
しかし、その登録者数のわりに、世間での知名度は高い。
その理由は――
「おっ! ラッキー♪ 次のカモみっけ!」
舌なめずりをして、剣を片手に駆け出す一樹。
その先には、三人組の冒険者と――それに相対する5匹の蜂型モンスター……ギルティ・ビーの姿があった。
「ランクBのモンスターが5匹……」
「少し厳しいかもな。だが、コイツ等を倒せば俺達はランクアップできる!」
「ああ。僕達にとっても丁度いい相手だ。誰かに横取りされる前に、倒し――」
「おら! 邪魔だどけ!」
パーティーの間に強引に割り込むようにして、一樹はギルティ・ビーの群れに突撃していく。
途中、三人の背後の何もない空間を剣でさりげなく薙いで、ギルティ・ビーに剣を向ける。
そこから先は、荒れ狂う風のようだった。
まるで剣舞を舞うかのように、一分の隙も無く敵を斬り捨てていく。
――彼が、そこそこ知名度の高い一つ目の理由。
それは、複数人でパーティーメンバーを組んで対処すべきランクB以上の敵でも、難なく切り伏せるその圧倒的な強さ。
そして――
「ちょ、ちょっとアンタ! どういうつもり!?」
敵を屠ったあと、呆気にとられていた三人の男女が一樹に詰め寄る。
「あん?」
一樹は剣を鞘に収めつつ、どうでもよさそうな調子で、声をかけてきたツインテールの少女を振り返った。
「私達、ソイツ等を倒せばランクアップできたのよ!? それを勝手に横から掠め取って……マナー違反でしょ!」
「知らねぇよ。お前等がチンタラしてんのが悪いだろうが」
「なっ!」
至極真っ当なことを言った少女はしかし、一樹のそのあまりにも泰然自若とした暴論に、呆気にとられてしまう。
「無駄だぜ」
「何を言っても、意味ないって」
そこへ、同じパーティーメンバーの大男と、リーダーらしき優男が肩をすくめながら少女へ助言する。
「あんた。その顔を隠してるゴーグル……察するに、イヌガミだな? 例の、迷惑系配信者の」
「なんだ。俺のこと知ってたのかよ」
イヌガミ というのは、一樹の配信者ネームだ。
「知っているぜ。身バレが怖くて顔を隠してる臆病者の名前だからな」
「そうか。逆に、あんなザコに後れを取るお前等の醜態は、バッチリ顔つきで生配信されたがな。よかったな、今頃は世間の笑いものだぜ?」
「て、テメェ!」
大男の嘲りに、一樹は涼しい顔で答える。
大男の感情が一気に沸点を突き破るが、
「やめておけ。こんな腐った人間性を曝け出して、金を稼いでいるようなクズの相手なんてするだけ無駄だ」
リーダーの優男が、冷めた目を一樹に向けながら、大男を引き留めていた。
「コイツのことだ。どうせ、視聴者のことも金蔓としか思ってないんだろ」
「ああ。ほんと気が知れねぇよ。こんなことに金払う愚民どもの気が、な。投げ銭乙」
まったく悪びれない態度に、三人はそれぞれため息をつく。
これは関わるだけ無駄な人間だと、早々に見切りをつけたのだ。
『うわw レスバサイテーすぎるw』
『ちょっと待て! 今俺等のこともバカにしたよなコイツ』
『誰のお陰で飯食えてんだクソガキ』
『じゃあなんでお前等も揃ってコイツの動画見てんだよ』
『あ? 一応戦闘技術だけはスゲーからだよ』
『それな。けどコイツ、Aランク以上とはほとんど戦わねぇよな。自分が気持ちよく勝てるヤツだけ、好き好んでいたぶってる感じ』
『臆病者なんだよ。顔バレ怖がってんのがその証拠だろ?』
『ダセーw 確実に勝てるやつしか挑まないとか』
『じゃあお前、Bランクのモンスター瞬殺できんのかよ? 無理だろ? はい論破』
『このチャットも大概民度低いな』
チャット欄はチャット欄で好き勝手に、いつも通り炎上している。
これが、一樹が世間的に知名度の高いもう一つの理由。
他者を嘲り、誠意の無い対応をする。
悪名も名のウチなどと言うが、まさしくそれを体現した存在。俗に言う、炎上商法というヤツだった。
「んじゃま、今日の配信はザコ共の獲物を横取りしてやったってところまで。次回も俺に貢ぎやがれ豚共。じゃあな♪」
下卑た笑みを浮かべ、一樹は側に浮いている随伴式の半自律軌道型カメラに手を伸ばす。
そのボタンを押し、配信を終了した。
「……それじゃあ、あんたらとはもう会うこともないと思うけど。最後に一つだけ」
「……なに? まだあたし達に言い足りないことがあるわけ?」
ゴミを見る目を一樹に向ける少女。
そんな少女の目を見つめながら、一樹は握っていた拳を開く。そこにあったのは、さきほど倒したギルティ・ビー5匹分の魔石に、それ以前に狩ったモンスター数匹分の魔石を合わせたものだ。
「なに? 自慢?」
「そうじゃない」
「だったら何よ」
苛立ちを隠そうともしない少女に、しかし一樹は手を差し出し。
「さっきはすいませんでした。経験値の分……には足りないかもしれませんが、ご査収ください」
――そんな、誠実極まりないことを言っ……
「「「って、は!?」」」
瞬間、三人の声が見事にハモった。
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