明美の過去
明美の最初の彼は高校の同級生だった
ゲームセンターに入り浸り勉学にも将来の事を考える事もなく毎日たのしければ良いと過ごす男だった
その頃、明美は就職も決まり、いつまでも子供のようにダラダラと生活している彼氏に嫌気がさしていた
「ねえ、進路どうするの?」
すると男は明美に向い言い放った
「がっかり~ぃ・・・そんなのどうでもいいよ」
「でも、進学も就職もしないで毎日遊んでるわけにはいかないでしょ?」
「いつまでも親の脛かじってるなんてできないよ」
彼氏の両親は数年前に離婚し妹は母に引き取られていた
その後、どうしようもない寂しさを仲間と遊ぶことで紛らわしていた
「お前さぁ、いつからそんなに偉くなったの?」
「就職決まったからって威張ってんじゃねえよ」
明美はそれからその彼に連絡をとらなくなったので二人は自然に消滅した
2番目の彼は就職してからで
飲んでるときに出会った男だ
他にも女がいることが発覚して別れた
3人目はやはり飲み屋でナンパされてしばらく付き合った
優しいところもあったけれど
例えば彼と違う意見を言えば暴言罵倒されてそれが数時間続くこともあった
やがて反発するようになると
髪を掴んで引きずり回され馬乗りになり、殴る蹴るの暴力に至った
それでも時間が経つと冷静になり
「ごめん、つい反論されると手が出ちゃうんだ」と男はすぐに謝って明美を抱きしめた
その後は涙ぐみ過去の悲しい生い立ちを語り始めるから明美もそれ以上何もいえなくなってしまう
その繰り返しだった
自分だって複雑な家庭で育った
母を恨むことだってあった
一歩間違えば自分も同じだと思ってしまう
そんなある日、満が仕事をしている明美の口元がわずかに腫れて変色していることに気づいて
「この娘は良くない男と付き合っているんだろう」と気になり始めた
明美は若い割に仕事は真面目で教えた事はきちんとこなし、飲み込みも早かった
気配りもできる女で満はこの娘を泣かせる男は許せないと考えるようになった
それから2週間後
また、明美は目を腫らして沈んだような表情で出勤してきた
いつもなら明るく仲間と冗談を言って場を盛り上げる役目であるのに
昼も独りで一番先に事務所を後にした
「明美ちゃん、何か心配事でもあるのか?」
「何でも俺に言ってくれよ」と肩に手をかけ彼女の目をじっと見つめた
満は子供の頃、父親に何度も暴力を振るわれた経験から明美のことも放っておくことは出来なかった
ましてやまだ、20歳そこそこの女を殴るような彼氏だとすれば何としても別れさせなければならないと
保護者のような気持ちになっていた・・・
・・・・その夜、二人は居酒にいた・・・
まだ、開店して間もなかった早い時間だったので酔っぱらいもなく店の奥の「人にあまり聴かれたくない話」をするのにもってこいの場所が空いていた
「明美ちゃん、悪いけどざっくばらんに訊くよ」
「もしかして彼氏に暴力振るわれてないか?」
明美は満の優しさに我慢していた気持ちが一気に解れて涙を一粒こぼした
誰にも言えなかった心の傷は彼女の中で大きく膨らんで不安で哀しくてどうすることもできなくなっていた
「女を殴るような男は直らない」
「その時謝ったってまた、繰り返す」
「結婚して子供が出来たら今度は子供を殴るだろう」
「結局そんな弱虫はいつになっても他人のせいにする
早く別れた方がいい」
明美も解っていた
けれど自分の子供の頃からの経験からなのか不幸から抜け出すことが出来なかった
それは泥沼から這い上がるようなもの
重く厳しい抗うことができない試練だった
明美は中学のころ、母が仕事に行っている間に母の付き合っている男にレイプされた
母も薄々、それに気づいている様で母娘は何とも気を遣う嫌な月日を過ごした
母はそのうち男とも別れ、それは救いだったが果たして母の気持ちは晴れたのか?
女として寂しくなかったのか?
娘に男を盗られた屈辱的な気持ちはなかったのか
私だって汚れてしまった体はもう好きな人に最初に捧げることもなくなってしまった
少し自棄になって青春時代を送り、何となく母にもぎこちない態度で接するようになってしまった
早く独立してよいパートナーを見つけるんだと考えていた
満は同情や心配から明美とその後も会うようになった
明美の満に対する信頼もあって、やがて自然と男と女の関係になっていった
満も浮気心というよりもこの女を守ってやりたいという気持ちが強かった
今までの浮気も同じだった
気になる女は不幸を抱えた女ばかり
暴力を受けていたり、男の借金を抱えて働きづめだったり、そういう女を放っておけない質だった
だけど水商売の女は自然と切れた
どう考えても自分の女房や家族が一番大事だった
妻はじぶんと家族のために生きてくれたまともな女だ
美雪は絶対に裏切らない
そんな気持ちから今まで遊びはしても浮気した女と所帯を持とうとは思わなかった
なのに明美に関してはどうしても守ってやりたかった
そういう気持ちにさせる女だった
まじめで心の強い美雪に比べて明美はどうにもフラフラと糸の切れた凧のようで心配でならないし、また、良くない男に騙されたり、元の男に縛られたりするのではないかと心配した
「明美と一緒になりたいんだ」
「許してくれ」
満は美雪に申し訳ないと思いながらも美雪ならば俺がいなくても生きていける女だと固く信じていた
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