第12話 意識の揺り戻しと本能の渇望
激痛は、神酒がもたらす圧倒的な快感の炎に飲み込まれ、甘美な圧迫感へと変わっていった。身体の内側を満たしていく、熱く、ねっとりとした一条慧の存在。琴音は「人である」という意識さえも失い、思考も感情も意味をなさず、ただ快感の淵へと深く沈んでいた。獣のように、本能のままに。
琴音の身体の奥深くへと、熱いものが流し込まれるのを感じる。それは、生命そのものを注ぎ込まれるかのような、甘く重たい感覚だった。熱い液体が琴音の体内に満たされるたびに、琴音の身体の中にあった「何か」が、まるで古い皮を脱ぎ捨てるかのように、ゆっくりと、しかし確実に押し出されていく。それは、琴音の古い自我の残滓であり、過去との最後の繋がりだった。
そして、一条慧の熱いものが、琴音の身体から抜けていった、その瞬間だった。
「……っ……ぁ……」
意識が、鮮明に戻ってきた。
身体から、あの燃えるような一体感、全身を支配していた激しい快楽が去ってしまった。ぽっかりと空いたような、深い虚無感が琴音の全身を包み込む。
足りない。
もっと、あの快楽が欲しい。身体が、純粋にそれを求めていた。理性は、もう存在しない。本能だけが、琴音の全てを突き動かしている。
自分が、誰なのか。
水瀬琴音、という名前が頭に浮かんだが、それが自分自身を指し示しているのか、確信が持てない。過去の記憶は一切ない。両親の顔も、友人たちの声も、琴音の意識には存在しない。そこには、「失われた過去」という概念自体がなかった。
ただ、目の前にいる男。一条慧。
彼の存在が、琴音の全てだった。琴音の目には、彼だけが世界の中心として映っていた。この男こそが、自分を満たし、自分をこの状態に変えた唯一の存在なのだ。
「もっと……っ、もっと……欲しい……っ」
琴音は、ぐらつく身体を必死に動かし、目の前で身を起こそうとしている一条慧に、無意識に、しかし必死に抱き着いた。かすれた声で、琴音は喘ぐように要求する。自分の口から、こんな言葉が出るとは思わなかった。羞恥心は、もはや琴音の意識には存在しない。ただ、あの失われた快感を取り戻したいという、強烈な欲求だけが琴音の全てだった。
一条慧の腕が、琴音の背中に回される。彼の温かい身体の感触が、琴音の渇望をさらに煽った。
「琴音さん……まだ、いけるのか?」
彼の声は、わずかに驚きを含んでいたが、すぐにその口元に、満足げな笑みが浮かんだ。彼の腕が、琴音の腰を強く引き寄せ、再び、琴音の股間に熱いものが押し当てられる。
「んんっ……!」
再び、甘美な痛みが身体を貫く。そして、先ほど味わった、あの燃え上がるような快感が、琴音の全身を再び支配し始めた。思考は再び遠のき、ただ快感の波に身を委ねる。この身体は、彼のもの。そして、この身体が求めるのは、彼が与える快楽だけ。疲れを知らず、ただひたすらに、快感と多幸感を追い求めて、琴音の身体は、一条慧の熱に応え続けた。夜は、まだ始まったばかりだった。
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