第2話 祭殿への昇殿

身を清める儀式を終え、真新しい制服に身を包んだ琴音は、年老いた巫女に促されるままに、祭殿へと続く渡り廊下を歩き始めた。足元に冷たい空気がまとわりつく。制服の生地が肌に触れるたび、肌の冷たさが全身に染み渡るかのようだった。琴音の瞳は虚ろで、まるで魂が抜けた人形のようだ。


渡り廊下の先には、古めかしい木造の祭殿の扉がそびえ立っていた。その扉は、琴音の未来を閉ざすかのように、重々しい存在感を放っている。巫女が静かにその扉を開くと、ひんやりとした空気が琴音の肌を撫でた。祭殿の中は、蝋燭の炎がゆらめき、独特の香が満ちている。その香りは、古くからの因習が持つ、得体の知れない重さを物語っているかのようだった。


祭殿の中央には、すでに祭主が白い装束をまとい、厳かに座していた。その隣には、一条慧が静かに控えている。彼の背筋は真っ直ぐに伸び、何一つ動揺を見せていなかった。その揺るぎない佇まいが、琴音の心を一層重くする。彼の存在が、琴音の運命を、もはや避けられないものとして、はっきりと突きつけていた。


慧が、琴音の姿に気づいたのか、静かに視線を送り、かすかに頷いた。その小さな仕草に、琴音は彼との間に横たわる、超えられない運命の壁を改めて感じた。あの優しかった家庭教師の面影は、今や厳粛な儀式を執り行う者としての、威厳に満ちた姿に変わっていた。


琴音は、両親に導かれるまま、祭殿の中へと足を踏み入れた。足を踏み出すたびに、古い木の床が軋む音が、静かに、しかし琴音の心臓の鼓動のように大きく響く。祭殿の奥へと進む一歩一歩が、琴音の自由を奪い、因習の奥深くへと引きずり込んでいくかのようだった。


琴音は、祭主と慧の前に静かに座った。身体中の震えは止まらず、呼吸は浅く、胸郭が小さく震える。祭殿に満ちる厳かな空気が、琴音の心をさらに押し潰す。琴音の瞳は、未来への絶望を映し出すかのように、一点を見つめていた。

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