亡魂の戦艦
科学部の長
第1話 亡魂
戦艦
全長528m、全幅83m、全高76m。
装甲は一律2000mmの厚さを誇り、リベットで接着されている。
艦尾にカタパルトを2基、艦載機には宇宙仕様に変更された九九式艦上爆撃機4機、
丙型二式複座戦闘機2機、零式艦上戦闘機五二型丙6機、銀河一一型4機、
を搭載している。
又、主砲は93cm3連装砲塔3基。
副砲は、36cm3連装砲塔7基、15mm連装高角速射砲塔18基、
43mm3連装機関砲塔108基、25mm4連装機関砲塔237基、
24cm28連装噴進砲16基。
孰れもレーザーと実包の二つに切り替える事が出来る当時の最高傑作
とまで言われた戦艦だった。
ところで儂は五十嵐 榮藏という亡者になる事が出来なかった亡魂、
享年は73歳、階級は大将で役職は元帥だった。
戦友達は皆、成仏して逝ってしまったというのに、
儂はどう言う訳か艦と融合してしまった。
玉響が轟沈され、儂がこの艦の霊になって最早2000年が経とうとしている。
本艦は、メトルト球状星団のトルキア帝國、カーナル共和国、
ウィントサラーム皇国の三大勢力が開戦した第四次メトルト球状星団内大戦末期に、
トルキア帝國によって造船された。
その後、すぐさま最終防衛線に旗艦として配置された。
だが、物量に押し切られて防衛線は瓦解。本艦以外は爆散し、本艦も中破した。
しかし、本艦は帰還するだけの余力は残っていたにも関わらず轟沈した。
何故ならば、敵の艦載砲の光速を超える徹甲弾が
リベットの接合部分に命中した事で装甲板が剥がれ落ち、
僅か100mm程度の内部装甲が剥き出しになった所へ敵の榴弾が命中。
そして、動力部の真下にあった酸素生成装置に直撃。
その反動で電気系統がシステムダウンを起こして隔壁が閉じなかった為、
一瞬にして艦内の酸素が消失、それにより全員が窒息死してしまったからだ。
そのまま本艦は星の海に沈んで現在に至る。
帝国の様子を知ろうと無線の回線を開いているが、
1200年前からうんともすんとも反応がない。
通信機に問題が無かった事から、恐らく滅んだのだと思われる。
ところで、儂はこの2000年の間何もしてこなかった訳ではなく、
約500年前に物に触れる事に成功した後、
戦死した仲間の全員を水葬、もとい宙葬した。
その合間を使って、
本艦を自力で動かす為に中途半端に融合していた魂を完全に融合させる事も出来た。
だが、中破し電気系統もダウンした本艦は航行に支障が出る事は明らかだ。
なので修理と改造を終えてから行く事に決め、修理を開始したのが200年前。
改造を始めたのが120年前。
具体的な改造は装甲の接合方法をリベットから溶接に変更し、
船底に機雷及び爆雷の発射口の設置と艦首に4対8基の魚雷発射口の設置、
カタパルトを2基増設した。
儂は、修繕が完了した今日これから帝国へ向かう。
そして、帝國の末路を見に行く。
儂以外は誰もいない艦内で、
「反転180°。玉響、帝國本星へ向け全速前進」
と言って帝国へ向けて発進した。
長距離ワープを1回、
短距離ワープを2回行って帝國本星のある星団北部の星域に出た。
そこには粉微塵に崩壊した帝國本星の破片が嘗ての惑星軌道上を
大きく円を描くようにして周っており、文明の痕跡は塵程にも無かった。
儂は溜息一つ吐いて星団中央に艦首を向け再発進しようとエンジンを吹かした。
その時だった、前方約12光年先にレーダーが艦隊を察知したのだ、
それもただの艦隊では無い、軽巡洋艦2隻、重巡洋艦2隻、駆逐艦3隻、
空母1隻、戦艦4隻からなる大艦隊だ。
ここ2000年間一度も軍艦を見ていなかった儂は試しに電信を送ってみた、
「コチラ、トルキア帝國軍所属、第一大艦隊旗艦、戦艦玉響、艦長 五十嵐 榮藏。
貴公ノ所属スル國ト名ヲ応エラレタシ。」
駄目もとで送ってみた電信だったが、返信は直ぐに帰ってきた。
「コチラ、サファントリア連邦所属、第十三大艦隊旗艦、
戦艦ウンエルシュロッケン、艦長 ケヴィン・ロックウェル。
再度、貴公ノ所属シテイル國ヲ名乗ラレタシ。」
「了、コチラ、トルキア帝國所属、第一大艦隊旗艦、戦艦玉響、艦長 五十嵐 榮藏
貴公ノ艦隊ヘノ接近ヲ許可サレタシ。」
「了。接近ヲ許可シマス。」
最後の返答が帰ってきた後、
儂は短距離ワープでケヴィン艦長の旗艦へ接近し横付けした。
それから艦尾のハッチを開き、再度電信を送った。
「歓迎スル、気ヲ楽ニシテ来ラレタシ。」
すると、横付けした戦艦ウンエルシュロッケンの艦尾ハッチが開き、
中から3機の単発複座式の双発艦上攻撃機が発進した。
そして、本艦の中に入った。
儂は、入ってきた6名を迎える為に艦橋から艦尾格納庫へ行った。
格納庫に入った儂は、
「よく来てくれた、初めまして。戦艦ウンエルシュロッケンの乗組員の諸君。
歓迎しよう。儂が戦艦玉響の艦長の五十嵐
帝國海軍大将として最終防衛線の指揮官をしていた。
最も、歓迎するとは言っても食料はとうの昔に朽ち果てて、
もう水くらいしか無いがな。」
気さくに話し掛けたが、
ウンエルシュロッケンの搭乗員は慄いて、
「初めまして、五十嵐艦長。私は、エルマー・ヴォーヴェライト中佐であります。
聞きたい事が幾つかあるのだがよろしいか?」
と聞いて来たので、
「構わんよ。」
と答えた。
すると、
「ありがとうございます。
トルキア帝國は1000年以上前に滅んだと記憶しております。
あなたはなぜ生きているのですか?」
震えた声で冷や汗をかきながら質問されたので、
「儂は生きてなどおらん。儂は亡霊じゃよ。
これから、残りの売っても余るほどの時間を冒険しようと思っての。
久しぶりに生きた人間を見つけたものでつい、電信を送信してしまったんじゃ。
まあ、そんなことは置いておいて、艦橋に案内しよう。」
と返答し歩き出した。
艦橋に着くまでも、道中に艦内の説明をし乍ら進み、
着いた後はこっちから質問をした。
「ところで、聞きたいんじゃがのう。
この大きさの艦が停泊出来る港を所有する惑星や星を知らんか?
久々に儂も陸地を踏み締めたい。もっとも、踏み締める足はもう無いがな。」
自虐混じりに聞くと、
「ここから先、350光年先に惑星メアリスタスがあります。
そこならば停泊出来ると思います。」
という至って真面目な返答が返ってきた。
「ありがとう。では、そちらの艦長によろしく伝えてくれ。」
と御礼を述べると、
「こちらこそ、トルキア帝國の将軍に会えて感謝感激です。
ではありがとうございました。又いつの日か。」
そう言って、艦尾の格納庫へ行って自身の単発複座式双発艦上攻撃機に
乗り込んで、自身の戦艦に帰って行った。
私がハッチを閉めて発進したのを確認すると、ウンエルシュロッケンも発進した。
儂は其の儘、惑星メアリスタスへ向かった。
亡魂の戦艦 科学部の長 @kinntyann0515-2023011327
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