第19話 ついに冒頭に追いついた!?理性崩壊☆お背中流し大作戦、その前後
「で!?」
大学の昼休み。購買のパンをかじってる私を、三人の友人が取り囲んだ。
「例の“ボタン大作戦”はどうだったの!?」
「…………」
私は机に突っ伏した。
「え、なにその反応。まさか成功しちゃった!?!?」
「うっそ!? いきなり進展きちゃった!?」
「で?で?結果は?」
「……水色ブラ全開しました」
「えっと、つまり……?」
私は昨夜の出来事を、ぽつぽつと語り出す。
そして——ボタンが弾け飛んだくだりに差しかかった、そのとき。
「「「ぶはっ!!!」」」
目の前で三人が揃って噴き出した。購買のメロンパンが一個犠牲になった。
「え、ちょっと待って!ボタン飛ばしたの!?」
「弾け飛んだ!? ブラまで!? 爆笑なんだけど!!!」
「……それ、作戦名“ボタン”じゃなくて“バクハツ”では?」
私は机に額を打ち付けた。
「ブラは飛んでない!!!……ちがうの!違うの!!計算外だったの!!」
「いや計算できるかそんなの!」
三人はもう涙を流して腹を抱えて笑ってる。うぅ……地獄。
「でもさぁ……逆に考えたら」
笑いすぎてマスカラが少し落ちかけたあかねが、涙を拭いながら言った。
「もうブラもいらないんじゃない?」
「なるほど、布の問題だ!」
「もはや人体の問題じゃなくて、服が追いついてないだけ……」
「……ブラが、いらない……?」
私はハッとした。
――ブラレス大作戦。その名も、理性崩壊☆お背中流し大作戦!!!
脳内で電撃が走る。布を取り払えば、もしかして……!
三人は「おいおいマジでやんのかよ!?」「いや冗談だったんだけど!?」「これは……文学的に言えば悲劇の前兆ね」と口々に言ったけど、私はすでに決意を固めていた。
「……次は、これしかない」
――その日の夜、私は決行した。
結果は……ご存知の通り。
◇
「――で、結局どうなったの?その“お背中流し大作戦”。」
数日後の大学の昼休み。購買のパンを片手に、再び友人三人から恋バナ裁判にかけられていた。
「ちょっ……声大きいってば!?」
慌てて机に身を乗り出す私。
でも三人はにやにや顔で、全然容赦してくれない。
「だってさ〜、あんだけ“決死の作戦”とか言っといて!気になるじゃん!」
「そうそう!で?どうなったの!? 一緒にお風呂入ったんでしょ?お背中流して♡キャー/// とか?」
「……で、進展は?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問。机の上のソーセージパンが震えてる。
観念した私は、小さく息を吐いて答えた。
「……一緒にお風呂に入る仲には、なりました」
「おおおおおおおおおおううううう!??!」
三人同時の絶叫に、購買の棚が小さく揺れた気がした。
「いやいや!? それもう、完全に一線越えたやつじゃん!!」
「それ、“した”後のやつでしょ!?」
「ふむ、恋愛小説的には、もう番外編の域ね」
わぁぁぁ……! ダメだこれ、完全に誤解されてる……!
「ち、違うの! みんなが思ってる“そういうの”じゃなくて!」
両手をぶんぶん振り回しながら、慌てて否定する。
「白州さんはね……多分、嫌なんだよ。でも断らないの。気を使って言わないだけで……」
「……ほう?」
「で、私も……これは違う、って心のどこかで思ってるのに、最初に言い出したのは私だからやめるって言いにくくて……」
「……えぇぇ……」
三人はなんとも言えない顔。半分は呆れ、半分は同情。
「……だから結局、今も気まずい雰囲気のまま、白州さんのお背中流してます……」
「つまり、どういう空気感なの・・・?」
あの日から続く、無言で白州さんの背中を流し続ける日々。
浴室に響く音は、背中をこする音とシャワーから落ちる水滴の音……。
「……白州さんにとっては拷問だねぇ」
もうやめて、私のライフはゼロよ……。
でも――。
口元がつい、ゆるんでしまう。
「でも……白州さんの背中に、合法的に触れられるから……ちょっと嬉しい私もいるの」
私がでへっと笑った瞬間、三人は声を揃えて叫んだ。
「「「おまえーーーーーーー!?!?!?」」」
◇
そして今日の夜も。
白州さんのお背中を流せる――その事実に内心ルンルンだった私。
……だったのに。
食後に白州さんから、衝撃的な発言が飛び出したのだ。
「今日からは、心愛さんが先にお風呂に入るようにしましょう」
……えっ? 私が、先に?
「あ、えっと……。いつもお気遣いありがとうございます。でも、やっぱり大人の白州さんが先に入った方がいいのかなって……」
白州さんは少し考えて――頑なに首を振った。
「いえ、心愛さんからにしましょう」
今日の白州さんは、やけに強情である。
……え、もしかして!?
「じゃあ……その……。私が背中洗ってるときに、白州さんが……」
「いえ、入りません」
真顔で、キッパリ否定されたーーー!!!
「えっえっ!? 入ってくれないんですか!?」
白州さんは難しい顔をして、しばし沈黙。
やがてため息混じりに口を開いた。
「……まさかとは思いますが、入りたいんですか?」
YES!もちろんです!
白州さんに合法的に触れられるこのチャンス、みすみす逃すわけないじゃないですか!!
……心の中で大絶叫するけど、現実の私はただモジモジしている。
「えっと……白州さんは、もしかして……嫌……ですか?」
白州さんは眼鏡を外し、目元を指で押さえた。
「……なんというか、色々と“変”ではないかと思いまして」
ふむ。ここは心愛コンピューターをフル稼働させる時!
――40歳の男性と、20歳の女子大生が同棲している。
――付き合ってはいない。
――手は繋いだことがある。
――キスは、まだ。
――シャツのボタンは弾け飛んで、ブラも見せた。
――緒にお風呂、もう3回くらい……?
…………。
「……これ、けっこういい流れなのでは?」
白洲さんは、理解が追いついていない顔でこちらを見ていた。
「……私の常識が、古いんでしょうか?」
二人してうーんとうなり続けて、数分。
「一緒にお風呂入りましょうよぉ~~!!!」
「駄目です」
お風呂に入りたい二十歳女子大生と、それを全力で拒む四十歳会社員。
リビングには、どうにも説明しづらい光景が広がっていた。
◇
昼休み。購買のパンをかじっていると――来た。例の取り囲み芸がはじまる。
3人は、にやにやしながら私の机に集結した。
「で!?昨夜はどうなったの!?お風呂継続中なの!?」
「さぁ、早く吐け!私たちに甘美でいやらしい報告をするんだ!」
「むしろ供給過多でも良いぞ」
うう……こわい。三人の圧がこわすぎる……。
私はモジモジしながら、口を開いた。
「……入らせてもらえなくなりました」
友人たちはお互いに顔を見合わせて口を揃えてこう言った。
「「「まぁ、そうだよね」」」
「なんでそんなに普通なの!?」
私はガタッと立ち上がった。購買の焼きそばパンがポロリと机から落ちる。
「一緒にお風呂に入れなくなったらどうするの!?どうやってスキンシップすればいいの!?」
三人はきょとんと顔を見合わせて――。
「……え、普通にちゃんと付き合って、キスなりなんなり出来るようになれば良いんじゃないの?」
「……え」
私の口から、素で間抜けな声が漏れた。
「うう~~。それがハードル高いんだよぉ……。」
「いや!逆逆ぅ!!」
三人同時にツッコミが飛ぶ。焼きそばパンは床で静かに跳ねる。
私は机に突っ伏して、小声でぼそっと呟く。
「キスとかは難しくても……せめてお風呂と添い寝くらいは、したいよね……」
「「「同棲から始まるとロクなことにならねえな!!!!」」」
昼休みの教室に、三人の総ツッコミが響き渡った。
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