第4話
目を開けると、見覚えのある天井があった。
額に何かが乗っている気がして手をやると濡れたタオルのようで。
「……なにこれ」
つーか、何この声。カッスカスなんだけど。辺りを見回してみると、どうも私の部屋ではないみたいだし。でも見覚えはある――
「鴨川さん起きた?気分はどう?」
これ、磯辺さんの部屋だ。と思うと同時に磯辺さんの声が聞こえた。
どうやら出掛けていたらしく、買い物袋を提げて帰って来た。
「………………うわ、すみません」
磯辺さんが買い物袋から冷えピタを取り出すのを見て、全てを思い出す。
朝から調子が悪い気がしてたこと、やらなきゃいけないことがあったからそれらを全部終わらせて寝ようと思ってたら終わった瞬間力尽きるように倒れてしまったこと、しかも倒れたのがタイミング悪く磯辺さんの部屋の中であること。全部、思い出して頭を抱える。
「自分の部屋戻りますね、ありがとうございました」
思った以上に力が入らずのろのろと起き上がると磯辺さんに止められたけど、流石にこれ以上迷惑はかけられない。
「本調子じゃないでしょ?僕のことは気にせずゆっくり休んで」
「これ以上の迷惑はかけっ……あ、りがとうございます」
これ以上迷惑かけられない、と言いつつよろけて身体を支えてもらっている私。
「どういたしまして。お礼に僕の言うこと聞いてゆっくり休むこと、いいね?」
優しく笑いかけながら私をベッドに寝かせて冷えピタを貼ってくれる磯辺さんに、今度は静かに頷くしか出来なかった。
・・・
再び目を開けると、さっきと同じ天井が目の前に広がっていた。
喉はまだ少し痛いけどさっきほどではないし、頭痛に関しても同様で「この回復力、私もまだまだ若いな」なんて思っていると、耳に届く、ことごとくリズムを外した鼻唄。
「あ、おはよう。お腹空いてない?」
「……だい、じょぶです。お仕事大変なのにご迷惑おかけしてすみません」
今の鼻唄は、果たして私が聞いてもよかったんだろうか……いや、私は何も聞かなかった。聞いてない聞いてない。磯辺さんって完璧だと思ってたけど意外に音痴なんですね、なんて思ってない。
「……どうかした?あ、ゼリーなら食べれるよね?後、こういう時は『すみません』じゃなくて『ありがとう』のほうが嬉しいかな」
「……ありがとうございます」
なんとなくソワソワする私をよそに、いつもと変わらない様子の磯辺さんにほっと胸を撫で下ろす。
「ん、よし。じゃあゼリー持ってくるね」
それにしても完璧人間だとばかり思っていた磯辺さんが音痴って……萌えってこういう時に感じるものなんだなぁ…と冷静に分析しながらゼリーを心待ちにする。
また鼻唄聞こえてきたし本人は案外気にしてないみたいだ、と思うと同時だった。「あ!」とひときわ大きな声が聞こえた。
「ど、どうしたんですか?」
「い、今聞いた?」
「は?」
「き、聞こえてないなら大丈夫」
「あ、鼻唄ですか?さっきも歌ってましたよ?」
「えっ」
「あっ」
普通に歌うものだから安心しきってたけど、もしかして無意識だったんだろうか…。
しまった、白を切るべきだった…と後悔した私を「大丈夫、寧ろよくやった」と褒めてやりたくなったのは
「うわ、恥ずかしい……歌下手なの自覚あるから歌わない様に気を付けてたのに…」
そう言い、顔を赤くする磯辺さんを見た瞬間だった。なんだこの生き物可愛過ぎる。よくやった、私。
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