n回目の夏―何度でもプレイボール―
モロ煮付け
0-1回目の夏
炎天下のグラウンドのネクストバッターズサークルから僕は声を枯らして後輩の背中を見送った。
打席には九番ファーストの坂野、5回裏2outランナーなし7点差と坂野が凡退したら僕、いや僕らの夏が終わる。
僕はせめて後輩ではなく自分の打席で夏を終わらせたかった。
けれど ―― 坂野が打った打球はサード前へのボテボテのゴロ、サードの送球が少し逸れたがファーストがしっかりキャッチして試合終了。完敗だった。
泣くほど練習してきたわけじゃない。けど、それでも悔しかった。
悔しさ堪えながらいち野球人として唇を噛み締めながらも相手校に頭を下げる。
そして目を瞑った。
「ありがとうございました!」
――次の瞬間土の匂いが消えた。
そして頭を上げ目を開けたとき、何故か視界に見慣れた光景が広がっていた。
状況が理解できなかった。バスのシートに背を預けたまま隣の席の後輩坂野のいびきが聞こえた。
「......え?」
土で汚れたユニフォームではなくまるで試合前の白いユニフォームを着ていた。まさか、と思いスマホを開く。画面には今日の日付と...八時の表示だ。
「何ボーっとしてんだよ」
突然前の座席からいつもの中学生にしては幼い声が降ってきた。
上を向くと僕の親友でもあるセカンドの鈴下の顔があった。
「これから試合だぞ、固まりすぎだ。隣の坂野なんていびきかいてるぞ。」
親友の言葉でようやく理解した。
「み、見習わなきゃな」
僕は、自分が”試合前”にもどっていることを。
その後はもう鈴下やキャプテン石岡の言葉にもまともに返せず、ずっと上の空だった。
そしてあっという間に試合が始まった。
大会四日目二回戦。
前回と同じ僕らの中学である幕張西と稲毛台の対戦だ。
僕は打席に向かいながら考える。
どこかの小説みたいでにわかには信じがたい。けれど今僕の目の前に立つ相手ピッチャーは顔も構えもすべて”前回”と同じだ。
初球、前回反応できなかったスライダー。
しめた。
僕はそのスライダーを真芯で捉え右中間へと打ち返す。
二塁へ滑り込み、セーフ。
続く二番鈴下が送りバントを三番二年生ながら中軸を担っている黒田がショートへのタイムリー内野安打とし僕がホームに帰った。
続く打者が倒れ追加点はないが先制だ。
――もしかしたら勝てるかもしれない。
僕のそんな甘い考えを打ち砕くように相手の一番が内野の頭を超えるクリーンヒットを放つ。二番に送りセーフティー気味のバントをされるも一塁でアウトを取るが、続く三番にフルカウントからフォアボールを与えてしまい、打席には千葉の強豪である習志野大付属高校からも注目されている四番の森本が打席に入った。
ショートからでも石岡が固まってるのが分かった。
初球を外して、二球目、ショートからでもわかる失投を捉えられ、轟音とともに打球がとんでもないスピードで飛んでいった。
スリーランホームラン。
四番に一発を浴びるもキャプテンがなんとか立て直し、追加点を与えない。
最終的に守備位置を調整したり僕がヒットを量産したこともあり、最終回まで戦いきったのだが、
6−3で敗れてしまった。
そして前回よりも若干厳しい顔をした相手校と審判に礼をし頭を上げると、
またしても土の匂いが消え、
見慣れた風景が飛び込んできた。
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