第22話スキル確認
「すげえ、火が出たぜ、火が!」
「俺は空中で球を動かせる」
「こっちは弾みたいのが出たぞ」
「周りに被害が出ることもあるから、しっかり狙えよ」
騒ぐ新成人を、年長者が注意する。
洗礼を終えれば、俺たちは庭に出た。
あらかじめ準備していた人形にスキルを向ける。
あるものは人形を燃やし尽くす。
あるものは、拳くらいの大きさの岩を空中で浮遊させる。
あるものは、指先から弾丸のようなものを放出した。
「Bランクだね」
「もう一声、もう一声ないのかよ!」
「何度やろうと、判定が変わることはないよ!
あんたらのスキルはBランクだ。しかも下の方」
スキルがもたらす結果を、後ろから眺めているおばばが審査していく。
派手な試験が行われている横で、
「僕みたいなモブにはできない。そもそも才能がないんだ」
サキスは持ち前のネガティブ思考をはっきしていた。
皆は3つのグループに別れていた。
要領がいい子は、試し打ち。
要領が悪い子はスキルの確認。
俺は皆に指導していた。
オークに襲われたあの日から、毎日瞑想したり、魔力を放出したりして特訓したのだ。
村の中でも、魔力の扱いはおばばに次ぐ。
「というか、なんで俺のところに人が集中してるんだ。他の人のところに行けよ」
その事実が足を引っぱる。
皆が俺のところに来るせいで、目が回りそうだ。
集まったモブに話を聞く、
「その、同年代で、話しかけやすいし」
それでか!
「これからも指導お願いね」
「指導も丁寧でわかりやすいし」
「失敗しても叱られることないしね」
「こんなことなら、指導役なんて引き受けるんじゃなかったよ」
みんなみたいに気楽に作業したかった。
でも、俺ももう大人。
サボるわけにはいかない。
「心を落ち着かせて。丹田。へその少し下あたりに意識を集中させる。
そこから全身に力がいきわたるように」
――スウッ、フウッ。
指導に従い、皆が深呼吸を続ける。
(本当、俺は指導役に向いていないよな)
できるのは軽い助言くらいだ。
(そもそもの話。スキルの指導なんて可能なのかよ)
スキルは人によって異なる。
遺伝するので、村の中では同一のものが多いが、自分が使えないものを他人に教えられるとはどうしても思えなかった。
それが、あきらる理由にならないので、どうするべきか考える。
すると、見えてくるものがあった。
失敗のパターンは2つだ。
1つは、燃料となる魔力をうまく扱えていないタイプ。
もう1つが、
「ダメだ。どうやっても発動しないんだけど。
魔力に問題があるのかな」
「いや、魔力には問題ないよ」
サキスのように、魔力はうまく扱えてるのにスキルが使えないタイプ。
「でも、何も起きないんだけど。
そもそも、僕みたいなやつがスキルを使えるって方がおこがましかったんだ」
諦めかけているサキスの両肩に、俺はそっと手を置いた。
「大丈夫、俺がついてる。
死ぬ気でやれ、きっとうまくいく。
でも、失敗しても気にするな。
また試せばいいんだよ」
「兄さん。短い話の中で矛盾が生じているんだけど」
「俺が言いたいのはとにかく頑張れってことだよ」
篝火にあおられたせいだろうか。
俺たちの影がゆれ動いている。
「村で2番目に魔力の扱いがうまい俺がずっと指導してきたんだ。
魔力操作はもう1流だよ。
それでも自分が信じられないなら、お前に魔力操作を教えた俺を信じて見ろ」
うまくいかないのは精神面での問題のせいだろう。
そう考え、俺はサキスを励ます。
「やってみるよ」
火が安定したおかげか、影はまっすぐ、大きく伸びていく。
結果。
また失敗。
俺たちは首を斜めにするのだった。
「こういう場合はスキルの発動条件を満たしていないと考えた方が自然だね」
ああででもない、こうでもないと失敗の理由を探っていれば、おばばが助け舟を出してくれた。
「そうだね……。
自分が好きなもの、やってみたいことから始めてみるのはどうだい」
ふわふわなアドバイスだが、今は一切のとっかかりがない状態だ。
藁でもつかむつもりで、やるしかあるまい。
「好きなものか……、やってみるけど、期待はしないでくれる」
サキスは固く目を閉じた。
――すぅ、はぁ。
俺が教えた呼吸法を実践している。
深呼吸を4サイクルほど続けたところで、サキスは刮目した。
「神殿の外、クヌギの……。
待って、今のなし。
物置、薪束の裏にネズミの親子がいる」
「まじかよ」
「探してみようぜ」
「持てよ」
数人が確かめに行き、ネズミを持ってきた。
「なるほど、サキスの能力は生物感知だね?」
「違うと思うよ……。薪だとか、構造物の位置も当てたんだから」
おばばの考察を俺が補強していく。
「試してみるか」
おばばはコインをはじいた。
両手を重ね、左右に分け。
「右か左かどちらだ」
「……えっと、拳の中にはコインなんてないんだけど」
いやいや、そんな訳。
と思ったのだが、おばばは袖からコインを取り出した。
左右どちらかって条件なのに。
大人ってずるい。
再度試験を実行する。
「右か左かどちらだ」
「左にある」
「なら、裏か表かどっちだ」
「……分からない」
手を開けると、左手にコインがあった。
ついでに裏だった。
「この距離でも分からないか。
精度に関してはやや粗いようだね」
これではっきりした。
サキスの能力は生物、無機物を問わない探索能力だ。
「便利そうだけど、地味」
「もうちょい派手な能力のほうがね」
「でも、俺のスキルより確実に使い勝手がよさそう」
子どもは本能で生きているから、残酷だ。
確かに、地味だけど。
面と向かって言うか普通!
「まぁ攻撃能力もないし……」
サキス自身の評価も低いのだが……。
「何を言ってるんだ。
あんたの能力はAランクだよ」
「本当!」
おばばの評価は高かった。
「でも、どうしてこんな地味な能力が?
みんなの能力のほうがもっと凄いと思うけど」
「何を言ってるんだい。
どこに何があるのか分かる。
狩猟中心のうちには必要不可欠な能力だよ。
うっそうと茂る森の中でも、高い草原の中でも、問題なく獲物を捜索できるんだから」
「ど、どうしよう兄さん」
いや、知らんし。
というかさ。お前は俺に何をしてほしんだよ。
でも、弟の晴れ舞台だ。
雰囲気を台無しには出来ない。
「ここは胸を張ればいいんだよ」
「で、でも……、兄さんだって凄いスキルが持ってるし。僕のがそれよりも優れているなんて思えないし」
「俺の能力は狩りでは役に立たないんだよ。
夏でも動けるのは利点だけどな。
でも、狩りの季節は冬だ」
俺は弟に優しく語りかけた。
もちろん、内心は笑えていない。
表面はとりつくろっているが、弟に追い抜かれたのはショックだ。
でも、情けないところを見せられない。
「よかったな。
俺の兄として鼻が高いぞ」
「そうか。そうなんだよね。僕に兄さんに勝ったんだ」
「そうそう、俺たち世代で唯一のAランクだ」
「ものすごい便利な能力だったぜ」
「お前がNo.1だ」
方々から聞こえてくる景気のいい言葉。
これで、いつも自信がないこいつも変わってくれれば……。
「に、兄さん。僕さ、そう僕……。
Aランクのスキルを手に入れたんだ。
すごいだろ、兄さんよりもすごいスキルを手に入れたんだ」
「おめでとう。
こういうのは狙って手に入れられるもんでもないしな。
マジですごいよ」
正直、めっちゃうらやましい。
転生系主人公である俺よりも数段上のスキルを獲得するなんて。
でもさ、人がすごい能力を持っているから嫉妬して、嫌味を言うのはもう前世で卒業してるんだ。
ネットで、他人をあおったせいで大炎上したあの時。
ほんと、大変だったなぁ。
「……そうか、兄さんは本当にすごいよ」
「まったく、また陰気そうに下を向いて。
今日はめでたい日で、めでたい出来事が起きたんだ。
今だけでもいいから上を向いていろよ」
「ああ、本当に、妬ましい」
「……?
何か言ったか」
「なにも」
俺は、初めて見たサキスの表情に衝撃を受けた。
顔をぐしゃぐしゃにゆがめ、悲しみながらも怒る姿を。
明らかな違和感。
だというのに、自分のことしか見ていなかった俺は、次に見た弟の顔がいつも通りだったので、さっき見た光景は気のせいだと決めつけた。
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