第20話おばばからの提案
「その……だ。
場の雰囲気を一切考えずに、声を掛けた私が言うのもなんだが。
女心ってもんをもう少し考えてみたらどうだい」
おばばの呆れた声が俺に投げかけられた。
解せぬ。
というかさ、不満なら用事を後回しにしてくれよ。
「で、いったい何の用なんだ」
「洗礼について話をしたかったんだよ」
「……?
何か特別なことをするのか?」
ディオニュソス様の加護を得ているのだ。
それ関連で、特別ボーナスがあるのやも。
「逆だ。
もう、神の加護を得ているから、アルテミスさまの加護を貰う必要がないと思ったんだよ」
「それだと、かっこいい魔法を使えないいんだよ」
「あんたには、信仰心がないのか!」
いてっ! おばばの杖が俺の脳天を直撃した。
「私としてはこの町の皆にアルテミスさまの信仰に目覚めてほしい。
なにせ、狩猟と開拓。この二つによってこの村は発展してきた。
その流れを断ち切らせるわけには断じていかないと私は思っている」
おばばは逆にアルテミスさまへの信仰心がありすぎだよ。
「とはいえだ。
番外の神だと捧げものをしなくても済む。
アルテミスさまの加護を得るためには毎月の祈りと捧げものをしなければならない。
孤児院育ちのお前には経済的に大きな負担になるだろう」
そうか!
もう神の加護を得ているのから、スキルも魔法も使えるのか。
「それにだ。成人の通過儀礼にしているが、神の加護なんてもの、その気になればいつでも身に付けられる。
洗礼を授けるのを後回しにするのも一つの手だ。
捧げものをささげることが出来なければ神罰が下ることもある。
だから、気を付け考えるんだよ」
正直な話。
神様が魔法の使用量を取ることはどうなんだと思う。
払う以上に実りが多いので元は取れるが。
前世では、金こそが神として崇め奉る狂人が大勢いた。
その神が金を欲しがるのだ、笑い話にもならない。
しかし、金か……。
そんなもので、派手な魔法を使って俺Tueeeをやるという、俺の夢がついえるかもしれないというのか。
前世と同じで世辞辛いことだ。
というか、マジでどうしよう。
と、俺は悩んだ。
そんな俺をおばばは成人式までに答えを出してくれればいいと背中を押してくれた。
ついでに、早く彼女を迎えに行ってやれと背中を押された。
俺は彼女じゃないと否定したのだが。
「さっき、ハニーと呼んでいたじゃないか」
と、指摘されてしまう。
もしかしてだけど、さっきのやり取り聞いてたの!
人を待たせているのだ。
別れてからそれほど立っているわけではない。
急げば合流できるだろうが、俺の足取りは重い。
周りを見つめる余裕がないからこそ、何度も人とぶつかりそうになる。
そのせいもあって、ますます歩く速度が遅くなっていく。
最終的には、自身の問題に集中したいと足を止めた。
前提として、俺はこの世界に転生した。
でも、よわっちぃ。
おかしいよな。
異世界から転生した奴は大抵チートって決まってるのに。
最強無敵のチート能力を持っていて、誰からも頼られて、ハーレム作って……。
とは思いつつも。俺にはネトラがいると思ってしまう。
容姿もよいし、少し悪戯好きではあるけれど、そこがかわいい。
ただ、弟の思い人なんだよな……。
そのこともあって、恋愛対象外にしていたのだが……。
今日のポッキーゲームならぬ、チェロスチャレンジを見れば、彼女の気持ちは嫌でもわかる。
サキスのことがあれど、告白されたら受けてもいいと思ってる。
結婚生活だと、片方の思いだけではなく、両者の思いが重要だしね。
おたがいに支えあって、前世では想像もできなかった、穏やかな家庭を築いていけば……。
と、人間関係で悩んでいるが、そんな余裕今の俺にはない。
どうすればいいのか分からない問題に行き当たり、思考がわき道にそれた。
成人式どうしようかと考えていると、再度、俺はわき道に足を踏み入れることとなる。
「それで、お姉さまはケイデスお兄様のことをどう思ってるのですか。
さっきのキスまがいの行動。あれはどう見ても告白なの」
静かに考え事をしたいから入った脇道で、なんか重要そうな会話をしてるんですけど!
「ケイデスには何度も命を助けられたから好きだよ」
ネトラとナトラ姉妹が話し合ってる。
やっぱり、俺のことが好きだったんだ。
でも、これ俺が聞いちゃダメな奴だよな。
でも、聞いてしまったのだから仕方がない。
サキスには悪いけど、これだけ真っすぐな思いをぶつけられたのだ。
俺も、もう覚悟を決める所かな。
「でも、今はキープだね」
と思ったのに、なんか衝撃発現!
「お姉さまはお兄様を愛しているのですよね。
ならば家族になればいいの。私も、お姉様とお兄様が結ばれるのなら、その……、納得できますし」
「甘いぞ。
受け身では婚活サバイバルを生き残れないぞ!」
優しくも厳しい姉として、ネトラは妹に真摯に向き合っている。
「ナトラだって感じてるんじゃない。
両親が死んでおじさんに引き取られたけど、なんとも言えない居心地の悪さを」
「それは……」
「いい、結婚相手なんてもの単に好き嫌いで選べるものじゃないの」
すごい、まだ13歳だというのに。
アラフォーのおばさんみたいなこと言ってる。
「でも、このままだとケイデスで決定だよ。
頭もいいし、何度も何度も助けられた、まるで王子様だもん。
ディオニュソス様の加護を持っているのもいい。
何せ、危険な狩りをしなくても、レストランなり出店でくいっぱぐれることはない。
おばばに気に入られているから、スキルで結婚相手から外されることはないだろうしね」
「うちは特にスキルによる婚姻統制が厳格なの」
ナトラはこの文化に不満を持っているのか、足を細かく揺らしている。
「まぁ、スキルは重要な産業基盤だし。
一人でも多くの強力なスキルもちが欲しいのは分かるんだけど」
一方で、ネトラは納得しているのか、落ち着いた様子だ。
スキル選別。
これはこの村で行われている風習だった。
すなわち、強力なスキルを持った子供を創り出すべく、結婚相手を制限しているのだ。
「うちとしても、流石にハーレムの一因になるつもりはないんだ。
魔獣との戦いの上に、弱スキルの奴に結婚を許さないから一人の男に複数の女が集まるけど、村を生かすための歯車みたいでいやだし」
「だったら、もうケイデスお兄様でいいのでは」
「この村だよ。弱いスキルを受け継いだら、子供が苦労することになるじゃない」
ネトラがここまでスキルに注目しているのには理由がある。
血縁によって遺伝するからだ。
両親どちらかのスキルが継承される確率が40パーセント。
おじいさんおばあさんが30パーセント。
それよりも遠い親戚が20パーセント。
未知のスキルが10パーセントといったところ。
つまり、優秀なスキル持ちを交配させていけば90%の確率で、優秀なスキルを保有した子供が生まれる。
「生まれてくる子供と、村での地位を考えると……。
ケイデスだと不安なんだよね」
「では、愛がないというんですか」
「それが最重要項目じゃないって言ってるんだぞ。
ただ好きなだけで、一生を歩むことなんてできないの。
そうね、強力なスキル持ちが好条件出してくればそっちに乗り換えることもあるかもしれないんだぞ」
この子の真っすぐな愛にこたえようと思っていた俺が間違ってた。
ひねくれているうえに計算高かった。
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