第5章 第4話「交錯する記憶」



〈フォート・ケネディ〉制圧作戦――作戦開始から7分。

眼前に現れた2機の敵ACに、スレッドゼロの各機が一斉に警戒モードに移る。


「高速接近する敵影あり、二機確認!一体は空中ホバリング状態!」

綾杜が叫んだ直後、総士がその姿を捉えた。


「……ホバリング型……違う、これは」

彼の視界に入ったそのACは、まるで鳥のように空を舞っていた。白と青の機体色。両翼を思わせる大型スラスター。


「肩に――“ALBATROSS”の刻印……まさか」

佑真が息を呑む。


「岡平、大輝……!?」


続けて、もう一機。大きな索敵レーダーを背負い、四脚で機動する重装型――ARGUS‐EYE。

その肩にも、小さく刻まれた文字が見えた。


「“ARGUS‐EYE”……」綾杜が囁く。「……安西、悠葉か」



彼らは高校時代の同級生だった。

同じ時間を過ごし、同じ戦争に巻き込まれ、今や――敵同士。


「戦う気かよ……本気で」

裕太の声に、佑真は黙って頷く。



「ZAIN‐01は支援に回る。まずはALBATROSSの空中戦力を落とす」

総士が号令を下す。即座に綾杜が位置を変え、スナイプポジションへと移動。


空を舞うALBATROSSが、音速に近い速さで突っ込んできた。

総士は即座にブースターで後退し、ライフルを構える。


「近接を拒否してくるか……なら、俺も応じよう」


機体のAIが叫ぶ。【敵AC:高熱源接近、EMP信号確認】


「EMPか!」

瞬間、NOESIS‐02のモニターが数秒間フラッシュする。

ALBATROSSがすれ違いざまに放ったEMPグレネードの効果だった。


「くっ……電子戦タイプの癖に、こんな攻撃的な動きまで」


「油断するなよ、総士!」

佑真がZAIN‐01で妨害波の発生源に斬り込む。EMPの拡散装置を破壊し、一時的に視界が回復。


総士は頭部センサーを補正しつつ、敵の軌道を予測する。


「次の一手は――上か!」


視界の上部、陽光を背にALBATROSSが突っ込んでくる。

総士は即座に肩部のファンネルを展開。脳波リンクをONに。


「誘導開始――ロック、ファンネル発射」


2つのビームファンネルが空中を旋回し、ALBATROSSの左スラスターを焼き裂く。


「……墜とせるか?」


だが敵はなおも速度を保ったまま、残ったスラスターで空中回転し、強引に態勢を立て直す。

その瞬間、総士がスナイパーモードに切り替え、ライフルを構える。


「――狙い通りだ。岡平、すまないがここで終わらせる」


ファンネルの奇襲で削った隙間を、NOESIS‐02の高出力ライフルが貫いた。


ALBATROSSの胸部、コックピットを撃ち抜かれた敵機が爆煙をあげて墜ちていく。


その名を呼ぶ声もなく、岡平大輝の機体は炎の尾を引き、海へと落ちていった。



「……次はARGUSだ」

佑真がつぶやいた。静かに、だが確かな覚悟を込めて。


そして、新たな戦闘が始まる――。



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