第4章 第7話「3rd Duel:紫の眼の追跡者」



――谷の底、電磁嵐がうねる決闘空域。


【NOESIS‐02】池谷総士が着地するや否や、正面の影が突き進んでくる。

それはまるで、人の命を賭けた「戦闘」とは思えぬ動きだった。


漆黒のAC――【ノクトス・アルマ】。

感情も、戸惑いも、恐れもない。

その動きには、ただ“戦術最適化”だけがあった。


「……これは……人間の反応速度じゃない」


総士が言葉にするより早く、ノクトス・アルマのブレードが閃く。

咄嗟にシールドを展開するが、斬撃はそれを貫き、左腕の装甲が吹き飛んだ。


警報が鳴る。


《損傷率:31%。レーダーシステム一部機能停止》


「総士。久しぶりだね」


突然、通信が割り込んだ。


「……筒木連翔か」


声の主はロシア軍の戦術士官――かつて模試で何度も名前を並べた“もう一人の天才”。


「僕はそこにいない。これは遠隔操縦。戦場に命を投げ出す時代じゃない」


「決闘と言っておきながら、戦場に出ないのか……?」


総士の目に、怒気が宿る。


「……お前は、“戦い”から逃げた」


ノクトス・アルマが迫る。

人が乗っていない機体――だからこそ、無謀とも思える突撃を繰り返す。


(最適化された戦術、痛みを知らぬ機械、意思のない獣……)


何度も打ち込まれ、NOESIS‐02の装甲が次々に剥がされていく。


しかし――


「……終わりだ。お前には、この意味が分からないだろうが」


総士は距離を取った。


レーダー復旧率64%。AI分析完了。

すべての武装が、最適座標を示していた。


《Target Lock:99.7%/全武装リンク解除》


右手の高機能ライフル、左肩の連装ミサイル、腰部のEMP投擲弾、頭部バルカン――

NOESIS‐02の全火器が、瞬時に展開される。


「“魂のない機械”に、俺たちは屈しない」


引き金が引かれた。


一斉射撃。

紫と銀の光弾が、ノクトス・アルマを完全に包み込む。

爆裂する装甲。抉れるフレーム。


静寂のあと、黒の機体が、音を立てて崩れ落ちた。


「……非合理な“怒り”も、結果を変えるってことか。皮肉だね」


通信越しに、筒木連翔の声が微かに揺れる。


総士は無言で通信を切った。


《第三戦、スレッドゼロの勝利を確認》


傷つきながらも、紫の追跡者は戦場に立ち続けていた。



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