第4章 第5話「2nd Duel:孤高の狙撃者」



――標高2700m。乗鞍岳の頂上近く。

風切音すら響かない、完全なる沈黙の空域。


そこに対峙したのは2機の狙撃型AC。


【VELTINE‐03】新川綾杜。

対するは、漆黒と群青の重装型スナイパーAC【デュナメスアーク】。


その機体は、肩から背部にかけて巨大な冷却ユニットを搭載し、

右腕には通常のスナイパーライフルの2倍のサイズの狙撃砲を装備していた。


「増田来夢、ロシア精鋭“紅の牙”第2席」

通信越しに、静かな声が流れる。


「ここで死ぬなら運命。生き残るならそれもまた運命。さぁ――始めようか」


綾杜は応じなかった。

代わりに、狙撃システムを起動する。


《戦闘開始》


次の瞬間、2機はそれぞれ散開し、視界から姿を消した。



――数分経過。


“音”だけが殺気を帯びていた。


デュナメスアークの狙撃弾が岩肌を貫通し、爆風と土煙を撒き散らす。

そのどれもが“殺せる距離”で撃たれていた。


「……精度が異常だ」

綾杜が息を吐く。


(俺より先に、狙われる位置を読んでいる)


綾杜のVELTINE‐03は高精度を誇るものの、発射後の冷却時間がネック。

対して、デュナメスアークは専用の冷却ブースターにより、半自動狙撃が可能だった。


「追いつけるか?」


来夢の声が届く。


「お前のその射撃は、確かに美しい。けど、それだけじゃ――俺には届かない」


綾杜は狙撃を一度やめ、移動用ブーストで斜面を滑り落ちた。


岩陰から次の遮蔽へ。

あらかじめ読み込んでいた地形データを活用し、1.4秒先の射線を完全に計算する。


(撃て。そこだ)


綾杜が照準を合わせたのは、山肌のわずかな稜線。

来夢がそこに移動する“寸前”のタイミング。


《発射》


次の瞬間、閃光が雪を焦がした。



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