第46話 神戸-2

 中華街から西へ移動して、海沿いのエリアまで来た。

 このあたりには、ショッピングモールや展望が良いタワーなどがある。

 が、まずは海沿いを歩くことにした。


「見てっ。船いるよ、船」


 子どもみたいに元気な声で風花は言った。

 風花の見つめる先には、一隻の大きな船がいる。


「デカいな。あんな大きいの初めてみた」

「いいなぁ。船で旅行とかしてみたい――」


 風花が呟く。

 まだ高校生だからできないけど、社会人になったら風花と一緒に行きたいと思った。

 海の見える部屋で、遠く離れた土地へと向かう……。

 将来を誓い合った仲ではないけど、不思議と風花と同じ想像をしている気がした。


 しばらく海を眺めて、ほどよい頃にどちらからともなく、俺たちはモールの中に入っていく。

 ここには、洋服にコスメ、レストランに喫茶店まである。

 ひとまず俺たちは、雑貨屋が並んでいるところに行くことにした。


「あとちょっとでハロウィンかぁ」

「あぁ、そうだな」


 店頭に置かれたカボチャの置き物を二人で眺めながら、そんな話をする。


「二学期もあと二ヶ月なんだね……。ってことは、高校生活、半分過ぎちゃってるっ」

「ほんとだ。言われてみればそうだ」

「えー、どうしよ。虚しい感じがしてきた」

「虚しいって……。あと半分もあるって思おう、ポジティブに」

「んー、それもそうだね」


 風花はうんうん――と頷いて、クルッと身体を反対側に向ける。

 そして次の店へと歩き出した。

 俺は急いで風花の隣に並び、離れないように歩く。


 虚しくないって言ったが、高校生活は前半の方よりも後半の方が忙しいに違いない。

 もうそろそろ、本気で進路を決めないといけないくらいだし、大学に行くなら勉強もしないといけない。

 風花と関わる時間が短くなってしまうのは、確かに虚しいかもしれない。


「ここ、見ようよ」


 そう言って入っていったのは、アクセサリーの店だ。

 高いんじゃないかと思ったが、思いの外リーズナブルな商品も置いていた。


「こういうのとかどう?」

「どれどれ――」


 風花が指さしていたのは、ピアスだった。

 しかし、ピアスはピアスでも、耳に穴を開けなくても使えるフェイクピアス。

 いや、でもなんで風花はわさわざフェイクピアスを選んだのだろう。


「風花ってピアスの穴、耳に開けてなかったか?」

「開けてるけど? どうかした?」

「だって、せっかく買うなら普通のやつにしないのかなって思って……」

「あーね……うんうん」


 風花はなにかが分かったようで、自分の考えを噛み締めている。

 俺は意味不明で仕方なくて、素っ頓狂な顔になっていたかもしれない。

 少しだけ時間をおいてから、風花は答えを言ってくれた。


「わたしは、晴路に似合うかなって思って言ったんだよ――」


 あぁ、なるほど、そういうことか。

 やっと理解できた。

 …………。


「って、俺が付けるの!?」


 大事なところに気づいて、思わず大きめの声を出してしまった。


「そのつもりだったけど」


 風花はなんでもないように言い放つ。

 そう言われても、これを付けている自分がまったく想像できない。

 もちろん、俺はこういう修飾グッズを使ったことがない。

 将とかに勧められたこともあるのだが、そのときだけは少しぐらいなら良いかも――と思うのだけれども、結局買うこともなかった。

 これを付けている想像上の自分に、まったく自信を持てない。


「俺に似合うかな……」

「買って付けてみないと分かんないじゃんっ」

「まぁ、これで風花に相応しい男になれるなら――」


 風花の目の色が変わった。

 なにか言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか。


「わたしは、わたしに相応しい男にするために、これを選んだんじゃないよ――」


 風花から、形容しがたい悲しみに似た感情を感じた。

 俺は圧倒されて何も言えずに、風花が言葉を続ける。


「ただ、晴路に付けてみて欲しかっただけ。別に、今のままの晴路でも、わたしは好きなんだから。…………ね」


 俺は間違っていたかもしれない。

 いや、かもじゃない。間違っていた。

 完全に風花の言うとおりだ。


「そうだな。風花、俺のために選んでくれてありがとう」

「いえいえ」


 風花は元通りの笑顔に戻った。


「じゃあ、これ買ってくる」


 そう言ってレジに向かおうとしたのだが、風花に止められた。


「わたしが買うよ。わたしがして欲しいって言ったんだからさ」

「いやいや、申し訳ないから俺が買うよ」

「でも……」


 このままいけば、30分以上掛かりそうな勢いだった。

 だけど風花はいい案を提案してくれた。


「それなら、これはわたしが買って、晴路はわたしに何か買ってよ」

「なるほど……そうしよう」


 俺は店内を見て回る。

 が、どれが良いのかさっぱり分からなかった。


「もしかして、決められない?」

「……そう」

「それなら、わたしはこれが良いかな?」


 風花は一つ手に取る。

 俺は風花がそれを付けている様子を想像する。


「うん、風花にピッタリだと思う」

「じゃあ、これでお願いっ」


 俺たちはそれぞれ会計を済ませた。

 風花のが、俺のと値段が同じくらいだったのは、俺への配慮なのだろうか。


 モールを歩き回っていると、夕方の少し前ぐらいになった。

 いよいよここから、今日のメインの予定に入ろうとしている。

 俺と風花は、近くの駅から電車に乗った。

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