第45話 神戸-1

「おはよ、晴路。待った?」

「おはよう。いや、今来たところ」

「そっかそっか」


 待ち合わせにやってきた風花は、いつも以上に可愛かった。

 男の目から見ても、気合が入っていると分かるほどの服に、俺は見惚れてしまう。

 もちろん、それを着ているのが風花だから良いと思った。

 風花に見惚れていたと言ってもいいだろう。


 そして、風花の髪に付けられた青いヘアリボンが目に留まる。

 このリボンは、誕生日にプレゼントしたものだ。

 それを身に付けてくれているなんて、嬉しくて仕方がなかった。


「そのリボンって……」


 黙って一人で喜んでいてもよかったのだが、風花から言葉がほしくて、思わず聞いてしまった。


「晴路がくれたやつだよ。汚したくなくて、大事にしまっておいたんだけど……。今日だけは、着けて行きたいなって思って」

「そうだったんだ」


 余計に嬉しくなった。

 そんなに大切にされているなんて、このリボンも幸せ者だな、なんて思った。


 …………。


 俺たちが乗る電車はどれも空いていて、二人並んで座ることができた。

 触れ合うような距離感で、自然と幸せになってしまった。


 そして、一時間も経たないぐらいで神戸の中心地――三ノ宮へと到着した。


「人、すごいね……」

「あぁ、ほんとに多いな」


 地元の人だけでなく観光客みたいな人も沢山いて、かなり混雑している。

 人混みに酔いそうになりながらも、出口に向かった。


「まずはどこに行くの?」


 風花は聞いてきた。

 今日の行程はすべて俺に任せることになっていて、秘密にしておいて欲しいと言われていた。

 神戸に着いたし、ここで一つ発表としよう。


「昼ごはんに、中華街で食べ歩きでもしようかなって思ってる」

「なるほどなるほど、いいねっ」


 風花ははにかみ笑顔でサムズアップしてきた。

 この予定で大丈夫か少し不安だったが、風花に認められて、ひとまずは良かったと安心した。


 そして、俺たちは駅前から続く商店街を歩いていく。

 目の前から、腕を組んで仲良く並んでいるカップルが来た。

 見せつけるためではない、自然ないちゃつきというのを知った。


 俺と風花は、側からは恋人のように見えるのだろうか――。

 あのカップルには俺たちと違うなにかを感じて、今まではイエスと言えていたことも言えなくなっていた。

 そう思うと、周囲の人が俺たちを見る目が、あのカップルを見る目と同じなのか、分からなくなった。


「ここを左に行ったら中華街らしいよ」


 風花にそう言われた。


「そっか。ごめん、ちょっと他のことを――」


 他のことを考えていて、まったく気がつかなかった。

 今日は俺がリードするはずなのに、どうしたものか。


「ちゃんと、わたしだけを見てよね」

「分かった。そうする」

「……っ」


 風花の顔が赤くなった。

 なにか体調でも悪いのかと思った。


「どうした? 顔赤いぞ……」

「いや、よくよく考えればクサい言葉だったなって」


 女子の言葉にクサいが当てはまるのか分からなかったが、そもそもなぜ、そう思ったのだろうか。


「そんなことない。ただただ嬉しい言葉だ」

「……そうかな」

「そうだよ」

「んー……」


 風花は考え込んだ。


「まあいいや、晴路がわたしを見てくれるなら」

「…………。あぁ」


 そんな話をしていると、中華街の中に入っていた。

 よくある繁華街とは少し違う、そんな感覚を覚える。


「おー。わたし、ここ来たの、小学生ぶりかも」

「へぇ、風花来たことあるんだ。俺は初めてだからな、楽しみ」

「わたしも楽しいよ。晴路と一緒だから」


 …………。


「ここ美味しそうだよ」


 風花が指をさしたのは、小籠包のお店だ。

 行列もできていて、人気さが伺える。


「いいね、食べるか」

「うんっ」


 俺たちはその列に並んだ。


「小籠包を8個で」


 10分も経たずに俺たちの番になり、注文する。

 小さめだから、二人でならこれくらいが良いらしい。

 メニュー表に書いてあった。


 小籠包が入ったパックを受け取り、二階にある飲食スペースへと移る。

 席についてパックを開けると、熱そうな湯気が舞い上がった。


「「おー……」」


 俺も風花も、感嘆の声を漏らした。

 風花は爪楊枝で一つ刺して、口に入れる。


「あふぃ!!」


 風花は声を出した。

 かなり熱いのだろう。

 その声を聞いて、俺は思わずクスッと笑ってしまった。

 何度も口をモグモグさせて、風花はやっと飲み込んだ。


「ちょっとっ!」

「なに?」

「なにって、笑ったでしょ!」


 風花に責められた。

 風花の反応が面白かったのだから仕方ないだろ――と言いたいのだが、言わないでおく。


「まあまあ」

「……もうっ」


 風花が許してくれたらしいことを確認して、俺は小籠包を食べる。

 噛んだ瞬間、汁が飛び出した。


「あっつっっ!!」

「――ふふっ」


 俺が悶えていると、風花は笑った。

 結局、俺と同じじゃないか。

 でもすぐに「ごめんごめん」と謝ってくれた。


「晴路が面白くてさ……」


 そう言われても、俺は言い返す言葉がない。


 少し置いて冷ましてから、俺たちはあと六つを美味しくいただいた。


 そのあとはシュウマイなども食べて、中華街を離れることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る