第41話 割り切る
次の日――。
俺が教室に入ると、なにやら騒がしかった。
そして自分の席へと向かっていく最中、ずっと誰かに見られている気がした。というよりも、完全に見られていた。
俺が席に着くと、すでに隣には夏実がいて、すぐさま話しかけられた。
「けっこうヤバいことなっているよ、晴路」
「ヤバい?」
なんのことだろうか。
まさか、またあの水族館の話ではないとは思うけど……。
「これこれ」
そう言って、スマホを見せてくれた。
その画面に映っていたのは、昨日も見た写真だった。
しかも俺たちがあーんしあっている方だ。
手を繋いでいるだけなら、まだマシだったかもしれない。
しかし、雫が見せてくれたのとは少し違う。
夏実が持っていたのは、現像された写真を写真に撮っていた。
「まさか――」
もしかしてと思って、俺のカバンの中を探ってみる。
「あっ……」
「どうかした? 確かに、この状況はどうかしちゃってるけど」
夏実のよく分からない発言に、耳を傾ける余裕はない。
とにかく、俺は雫にもらった写真をどこかに落としてしまったらしい。
「それって、みんな知ってる……よね」
「うん、結構出回ってるらしいよ。今日の朝に、昇降口に落ちてあったって聞いた」
「あぁ、そっか」
俺は返すべき言葉が見当たらなかった。
言い訳しても、それは言い訳に過ぎないし、これをただ認めるしかない。
今は夏実と話しているから、他の誰も俺に話しかけてこないが、もし一人になったら真意を問われるに決まってる。
しかし、ここにやって来たのが一人だけいた。
「おはよー。晴路、夏実」
何も知らない風花だ。
「おはよう」
「おはよ」
ちょっとこれはヤバいなと思って、俺たちは素っ気ない挨拶になっていたかもしれない。
「二人ともなにかあった? 元気ないけど」
「いや、まぁ」
「特にはないよ?」
しどろもどろの回答に、風花の顔は渋っていく。
絶対、怪しんでいる。
夏実が「ねーっ」と言って、俺の肩にでも触ろうとしたのだろう。
右手をこちらに伸ばして来た。
「夏実っ」
そっちの手にはスマホがあるだろ、しかもあの写真のままだし――。
そう言えばいいけど、そう言うとバレてしまう。
だから、名前を呼ぶしかできなかった。
夏実はなにも気づかずに、風花側に画面を向けてしまった。
「えっ、ちょっ――」
そう声を漏らした風花は、光の速さで夏実のスマホを奪い取った。
夏実はようやく自分のしたことに気づいて、口があわあわ、しどろもどろになっている。
「夏実、これは誰にもらったの?」
これに対して聞くのが夏実なのは、当たり前だ。
しかし、これが出回ったのは、元はと言えば夏実ではなく俺が悪い。
だから――。
「ごめん、風花」
俺が謝った。
「なんで晴路が謝るの?」
「新聞部の後輩がたまたま、あのとき水族館にいて、この写真を撮られたんだ。それで、それを現像した写真をくれるって言うからもらって……。今日、気づいたらなかった」
俺は要点をしっかりと伝えた。
風花はうんうん――と少し考え込んでから、喋り出した。
「じゃあ、その後輩がダメってこと?」
「いや、そういうわけでもなくて。撮られたのも、元々俺が悪いし……」
風花が、は――? という表情を浮かべる。
俺はこれ以上上手く伝えられる自信がなかった。
少しして、風花は何も言えなくなった俺の目を一度見た。
「分かった。わたし、決めたから」
風花は素っ気なくそう言った。
なにを決めたのか――。
それは聞いても答えてくれなかった。
「うん――」
自分に大丈夫だと言い聞かせるように、風花は呟いて頷いた。
そのまま自分の席へと戻っていってしまった。
「大丈夫かな……?」
夏実が風花の背中を見ながら心配の声を漏らした。
俺もそれに首を縦に振った。
………………。
…………。
……。
少しして、風花のもとへクラスメイトの女子が二人、歩いていっていた。
それを見ると、俺は何か起こるのではないかと気になってしまって、聞き耳を立てる。
横に視線を向けると、夏実も同じようなことをしていた。
「風花ちゃん、晴路くんとは付き合ってるの?」
初っ端から飛んだ質問がされて、俺と夏実は驚いた。
「晴路とはまだ付き合ってないんだよねー。わたしは晴路のこと好きなのに――」
クラスメイトが沢山いるにも関わらず、風花は大きな声でそう言った。
「風花ちゃん!?」
「ただ、それだけ」
風花に質問していた女子も、その言葉に声が裏返ってしまっている。
ただそれだけ――じゃないだろ。
言い退けると、風花は前を向いた。
本当にそれだけだという意味だろう。
夏実は、ゆっくりと俺の方を向いた。
「風花、好きなのバラしちゃったけど……」
晴路はどうするのか――?
いろんな人になにか言われないか――?
夏実の言葉にはそんな意味が含まれている気がしたが、俺は「そうだな」としか返せなかった。
これは今までで一番の予想外だ。
= = = = =
◇あとがき
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
この話で第三章は終了となります。
次回から、最終章となる第四章を投稿していきますので、お楽しみにお待ちください。
なお、今回も数日ほどの休憩をとらせていただきます。
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