第17話 櫛引家に行こう

 夏休みになって一日目――。

 今日はのんびり家で過ごそうかと思っていたのだが、朝から叩き起こされてお使いを頼まれた。


 お使いの内容は、取り寄せたお菓子が想像以上に多かったから、櫛引さんのところに持っていって――というものだ。

 俺と夏実は幼馴染だから、当然親同士も仲がいい。

 子供たちがあまり関わらなくなっても、時々お茶しているらしいし、恥ずかしいが息子・娘の近況を報告していたりするらしい。

 そこで俺たちが再び話すような関係になったと伝わって、それなら櫛引家まで行ってくれと言われた次第だ。


 暑い……。

 直射日光に照らされた、落ち着きながらも小学生の遊んでいる声が聞こえる住宅街を歩いていく。


 10分ほど進んでいけば、昔は何度も遊びに来ていた夏実の家が見えた。

 懐かしくて、小さい頃の思い出がよみがえってくる。


 ピンポーン――。

 チャイムを鳴らしてから、玄関の扉の前で待つ。


「はいはーい」


 そう言いながら出てきたのは、私服姿の夏実。

 制服とは違った雰囲気がある。


「おはよう、夏実」

「おはよ。――じゃなくて、なんで晴路がいるのっ?」


 あれ、俺が来ることを聞いていなかったのだろうか。

 母は連絡した、と言っていたけど……。

 そう考えていると、玄関の奥――廊下の突き当たりのドアが開いて、夏実のお母さんが顔を出した。

 確か、あそこはリビングだったと思う。


「晴路君、いらっしゃい。ぜひ上がってってちょうだいっ」


 夏実母が、ニコッと温もりのある笑みで言った。

 俺が「はい」と返事すると、夏実が話す隙もなくリビングの扉が閉められた。


「どういうこと? 晴路」

「お母さんに、これ持ってけって頼まれてさ」


 俺は手に持った手提げを掲げて見せる。


「なんだ、それだけ?」

「まぁ、それだけだ――」

「なんか面白いことでも起こったのかと思ったじゃんっ」

「面白いってどんなことだよ」


 つまらなさそうな顔をする夏実。

 俺になにを求めているというのか……。


「風花と何かした――とか、そういうの。そんなのならむっちゃ聞きたんだけどねー」

「残念ながら、あれ以降特になかったよ」

「んー、そっかー」


 こんな暑い玄関で話していてもとなって、家に上がらせてもらう。

 そしてリビングに行き、夏実母にお菓子を渡す。

 すると、若者は若者で話したほうがいいと、夏実に俺を部屋に入れたらどう――と聞いた。


「晴路来る?」

「まぁ、見てみたいのはある」

「ならいいよ。行こっ」


 やけに簡単にOKが出た。

 普通女子は躊躇うものだと思うが、これが幼馴染なのだと実感する。


 階段を上がり、廊下を少し進んだところにある部屋。

 小学生低学年ぐらいからずっと付いている覚えがある、『なつみ』と書かれたネームプレートが掛かっている。


「どうぞ――」


 ドアを開けた夏実はそう言って、俺を部屋に通してくれた。

 入ると同時に、中を一瞥する。

 なるほど――。

 大きなレイアウト自体は変わっていない。

 だが高校の教科書や参考書が置かれていたり、メイク用品のケースがあったり、あの頃からは成長しているというのが分かる。


「そこにでも座って」

「あぁ、ありがと」


 夏実が指差した床は、昔いつも俺が座っていたところと全く同じと気づいて、なんだか嬉しくなる。

 俺が座ると隣に夏実がやって来たと思えば、手にゲームソフトをいくつか持っていて、どれをしたいか聞いてきた。


「これかな」

「おー。いいよね、それ」


 ソフトをゲーム機に差し込んだ夏実は、俺にコントローラーを渡し、俺の隣に座った。


 このゲームは二人で戦う系のやつだ。

 それぞれ使うキャラクターを選び、試合ゲームが始まる。



   / / / / /



 ゲームを一時中断して、一休みしようということになった。

 夏実の腕前は、小学生のときから相変わらず下手だ。

 高校生になって変わったかと思ったが、案の定。

 俺が手加減して勝つと、そんな真実をつゆ知らず歓喜するのも同じだった。


「そうだ、晴路って風花の誕生日どうするの?」

「誕生日――?」

「そう、だって次の火曜じゃん」

「ぇ……」


 初めて聞いた。

 しかも、あと3日しかないという。

 でも、俺も掛田さんに何かプレゼントを渡さないとなのか?

 そこまでの関係なのかが分からない。


「まさか知らなかったとか……?」


 恐る恐る聞く夏実。

 俺は「うん」と、小さく頷いた。

 夏実も「去年も夏休み中だから、わざわざ聞かないとしらないよね」とは言ってくれた。


「でもさ、多分、風花期待してると思うよ」

「そうかな?」

「だって友達でしょ。何かくれるんじゃないかと思ってるはずっ」


 夏実に言われると、そうなのだと納得してしまう。

 でも、そもそも渡さない理由がないし、誕生日を知ってしまったから、渡してしまっていいのかもしれない。


「なにか買おうかな――」


 俺が呟くのを聞くと、夏実は立ち上がった。


「そうと決まれば、さぁ行こうっ」


 夏実はグーにした手を真上に上げて、元気に言う。


「どこに?」

「ショッピングモールだよっ。どうせ晴路、何買うか迷っちゃうでしょ」

「まぁ……」


 女子高校生はどんなのをプレゼントするのか――。

 貰って喜ぶのか――。

 とんと見当もつかない。


「だから一緒に見てあげようかなーって」


 夏実がありがたい存在に見えた。

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