第7話 追憶
「待ってよー、おにいちゃん!」
「早くしないと置いてくぞ!」
俺と妹は二人で星を見に行くため養護施設を抜け出して施設の裏にある丘へと向かっていた。
今日は7月7日、織姫と彦星が出会う日だ。
一年に一度、織姫に宛てて短冊に願い事を書くと願いが叶うとマザーは言っていた。
だがそんなしち面倒くさいことやってられるか。
直接願い事をしに行くんだ。
「門限破ったらマザーに怒られちゃうよー」
「もうみんな寝てる時間だって!こっそり帰れば大丈夫だ。」
そう言って俺は門限で閉ざされていた施設の門を乗り越える。
ここまで来て妹はまだ渋っているようだ。
「やっぱりまずいよ帰ろうよー」
「ほら手を貸してやるから早く登ってこい」
手を差し伸べると妹は俺の手を掴んだ。
そして一気に引き上げる。
二人とも門を乗り越え走って施設を後にした。
妹はある病気のせいで体力がないので程々に休みながら丘の天辺に辿り着いた。
空を見上げると満天の星空が目の前に広がっていた。
まるで手を伸ばせば掴めそうなくらいすぐ近くに星があるような気がしていた。
その中でもひと際輝いて見える星が3つ並んでいる。
「ほら見てみろ、あれが夏の大三角だ」
俺は東の方を指差し妹にその事を伝えるが妹はどこだか分かっていないようだった。
「どこ?みえないよ」
「よく見てみろ、あそこに天の川が見えるだろ?
川を挟んで3つの星が三角形の形をしてるのが分かるか?
あれがデネブ、アルタイル、ベガだ」
「ほんとだ!きれい」
「天の川の右側に見えるのがベガ、つまり織姫様だ。
お前もよく祈っておけよ」
そうして俺と妹は星に願いを込めて手を組み目を瞑った。
俺は妹の病気が治って欲しいと心から願った。
あれから10分くらい経っただろうか。
夏とはいえ流石に夜は冷える。
俺と雪はこっそり施設に戻り布団に潜り込んだ。
「ほらな言ったとおりだろ。みんな寝ちまってる」
「いつか怒られても知らないからね!」
「大丈夫、その時はちゃんと俺が守ってやるから。」
「絶対だよ!」
「ああ、これからも俺がずっとお前の事を守ってやる。約束だ。」
そして二人手を繋ぎながら眠りについた。
翌日、妹は高熱を出した。
マザーが付きっきりで看病をしていたが俺には何もする事ができなかった。
やがて妹は入院する事になり遠くの町の病院へと行ってしまった。
それから何日、何ヶ月、何年経っても妹が戻ってくる事はなかった。
俺は毎年七夕になると一人で丘まで行き、もう一度妹に会えるよう願った。
そうしているとカササギが俺と妹の間に橋をかけてくれるような気がしていたんだ。
まるで独りぼっちの彦星のような気分だった。
もしもあの時、手を伸ばしていれば…
「行かないでくれ!!」
しんとした空間に俺の声が反響する。
一瞬どこだか分からなかったが、段々と記憶がはっきりとしてきた。
「何を寝ぼけているんですか?
患者さんの部屋に泊まられては困ります!」
そう言った若い女性の看護師のネームプレートには"吉田"と書かれていた。
メガネをクイッと上げる彼女の姿は如何にもキャリアウーマンという感じだった。
雪が寝たのを見計らって帰るつもりだったがうっかり眠ってしまっていたようだ。
時計を見ると午前9時を回っていた。
千春には悪いが今日の仕事は完全に遅刻だ。
「すまない…眠るつもりはなかったんだがいつの間にか寝ていたようだ。
それより雪はどこだ?」
「雪さんなら診察中です。」
「そうか、邪魔したな。俺は帰るよ。」
俺はそう言って病室を後にしようとした時、病室のすぐ外で雪と鉢合わせた。
たった今診察を終えて部屋に戻って来たらしい。
「優真さんおはよう。起きたんだね。」
そう言った雪は酷く顔色が悪いように思えた。
もしかして昨日の疲れが出たのだろうか。
「ああ、おはよう。
じゃなくてなんで起こしてくれなかったんだ」
「ごめんね、気持ちよさそうに寝てる優真さんの顔を見てたら可哀想かなって思って起こせなかった。」
「そうか、まあいい。
俺は仕事があるから帰るけど具合悪いなら大人しく寝てろよ」
そう言い残し俺は病院を後にした。
それから数日後に雪の体調が急変した。
状況は切迫しているらしく意識不明のため、しばらくは面会謝絶だと聞いた。
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