存在の境界線
神流みもね
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僕の通う中学校には、不思議という形容が実に相応しい空間が存在している。その空間が不思議であると感じられるのは、おそらく、いや確実に、そこにいる人物による影響だろう。それは、僕の妹だ。
僕は、他人が苦手だ。もっと言ってしまえば、嫌いだ。いや、それは違うだろうか。考えてみれば、嫌いというような主張をするほどではないように思える。
他人というものは、別に僕の周囲に居ても構わないけれど、積極的に関わってきてほしくない、という程度に、厄介であり、どうでもいい存在だと思っている。
そのような僕だから、学校にいる時間の中で、もっとも苦手なのは、生徒たちに自由などという一時的な勘違いの開放感をもたらし、無駄な時の流れを過ごす機会を与える時間だ。つまり、休み時間などがそれにあたる。
そんなものがなぜ必要なのだ。そう思わずにはいられない。
その無駄な時間を排除した分授業をして、早く帰らせてくれればいいのに。そう思ってしまう。
たどりついた結論は、その時間は教師にとって必要だから設定されているのだろう、というものだったけれど、それで何かが報われた気分になれるわけもなく、休み時間が来るたびに消えてしまいたくなる。
消えろ、消えろ、と、いくら念じたところで、僕に消えることができるような能力が目覚めることもないということは、もうすでに小学生の時に幾度となく試みた経験により学習していたので、僕は教室を出る。
行くあてもなく、行く先も決めずに彷徨い歩く。教室に残っていて、万が一誰かに話しかけられても億劫だし、小説を読んでいても気が散ってしまって泣いてしまいそうになるからだ。実際に泣いた経験はないけれども。
独りで校舎内を歩いていると、どこに視線を向けてみても大抵は誰かがいるものだ。だけれど稀に、奇跡的に現実から取り残されたように、華麗に他の人間の認識から切り離されたように、綺麗に世界から忘れられてしまったように、素敵に誰も居ない場所が見つかることがある。
それはたとえば、危険なために立ち入り禁止になり鍵が掛かったままで、屋上に出入りするための機能を人為的に封印されている扉へと続く階段であったり、おそらく少子化の影響で生徒数が減少しクラスが減ったために本来の用途で使用されなくなり、予備の机や椅子を置いておくだけのスペースとして新たな道を進んでゆく教室であったり、第二保健室という不思議な空間であったり。
第二保健室とはいっても、所謂通常の保健室とはまったく異なった様子の部屋で、一般に認識され呼ばれているような保健室というものの印象とはかけ離れている。おそらくは誰かが何かしらに気を使ったために、このような名前を与えられているに過ぎないのだと思う。
第二保健室は、いわば義肢のメンテナンスルームだった。
そう、僕には何の能力もないどころか、身体さえなかった。
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