第7話

「ちょっと、いきなり何すんのよ」


なんで突然こうなった。


目の前が真っ暗になったのは、いきなり私をひっぱって抱きしめたこいつの服が真っ黒だったからに他ならない。


「さっさと離しなさいよ」

「あんたの震えが止まったら離してやるよ」

「馬鹿なこと言わないで」


何よこいつ。


私は震えてなんて、震えてなんて……


「落ち着けよ」


震えてなんて、いないんだから。

はっきりそう言ってやろうと、顔を少し上げたその瞬間。


私の唇に、何かが触れた。


待って、待って。ちょーっと待って。

一体何が起こっているの。

え、何これ。


目の前に変態ナルシストの顔があるんだけど。


それにしても……自分で素晴らしい顔とか言うだけあって、確かに整った顔をしているわ。

顔は小さいし、鼻も高いわね。

光に当たって黄金に輝いているさらさらとした綺麗な髪が、彼の顔をより一層引き立てている。

ただのナルシストってわけでもないのね。


でも、瞼を閉じていたら目が大きいかどうかなんてわからないじゃない。


「ひょっとひゃんた、ひぇひゃひぇなひゃいよ」


あら、ダメね。


“ちょっとあんた、目あけなさいよ”って言いたかったのに、なにかが口に触れているせいでちゃんとしゃべれないじゃない。


「へ?」


まあいいわ。私が何かを言おうとしたことに気付いた変態ナルシストが間抜けな声を出して目を開いたんだから。


「うん、確かに目も大きいわ」


あら、いきなり唇が軽くなったわ。


良かった良かった。


これできちんと言葉を発せるもの。


って、全然良くなーい!!!


「い、いい今私に何したのよこの変態!」

「フハッ!今さら?あんた本当に最高だな」


何こいつ何こいつ何こいつ!!


私が怒ってんのに反省しないどころかお腹抱えて笑い出すなんて最低最悪。ほんとあり得ない。


なんでこんな奴に、私がキキキ……キスされなきゃなんないのよ。


っていうか、っていうか……


「私のファーストキス返せ!」

「仕方ねーな」

「え、返してくれるの?」


なーんて馬鹿な私が呟いた瞬間。


ちゅっ


わざとらしいリップ音をたてて目の前の嫌な奴が私の唇を再び奪った。

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