紺でいちばん陽が不機嫌!

 放課後、図書室のすみっこ。

 静かな空間に、2人分のペンの音が響いていた。


 「ひなちゃーん、これ、どう解くの?」

 「……また同じ問題」

 「へへっ、だってわかんないんだもん」


 そう言って甘えるように寄ってくる風。

 顔が近い。距離感がいつもおかしい。


 「……教える。だから、もう少し離れて」

 「ん〜やだ〜、ひなちゃんの匂いが一番集中できるもん」


 「風、ほんとに……」


 呆れながら、私はペンを動かす。

 でもふと、机の上に置かれた風のスマホの画面が、ちらっと光った。


 ──ロック画面。

 それに設定されていたのは……。


 「……えっ」


 目が止まった。


 画面に映っていたのは、見覚えのある制服の後ろ姿。

 そして、しゃがんだ拍子にスカートがめくれて、紺色のパンツが――。


 「…………は?」



---


 「風」

 「ん? なに〜?」

 「これ、なに?」

 「え?」


 私は風のスマホを指さす。

 風は一瞬きょとんとして、それから「あっ」と小さく声を漏らした。


 「わ、わわ、あっ、ちがっ――」

 「ちがくない。これ、私のパンツじゃん」


 「ひなちゃんっ!? しーっ! 図書室っ!」

 「いやそれどころじゃない」


 「ち、ちが、これはほんとにっ、事故なのっ!」

 「事故でロック画面にするやついる?」


 「だ、だって、撮ったときはほんとにスカートだけだったのっ! でもちょっとだけ……こう、角度がずれてて……」


 「……紺のリボン、ついてるよね。私の、今朝のパンツ」

 「そ、それはその、たまたま、その……」


 「……風、えっち…」

 「ひなちゃんっ!? ちがっ……誤解っ!」



---


 「……ほんとに、事故?」

 「ほんとだよぉぉ〜……見直そうと思ってたら、気づいたらロック画面になってて……」

 「確認くらいしなよ」

 「だって、ひなちゃんの後ろ姿って……可愛すぎて、つい」


 「……じゃあ、意図的ってこと?」

 「え、えっと……結果的には……うん……♡」


 その瞬間。

 カタン、とペンを置いて、私は風の顔をじっと見つめた。


 「風」

 「……うん?」

 「私のパンツ見て、喜んでたの?」

 「ひ、ひなちゃんが可愛いのがいけないんだもんっ……!」


 風が顔を真っ赤にして、思わずスマホを隠す。

 その動きが、余計に怪しい。


 私はそっと、風の制服の袖を引いて、彼女の耳元に顔を寄せた。


 「……風のせいで、ドキドキ止まらない」

 「っっ……」

 「だから、責任、取って」

 「えっ……ど、どどどど、どうやってっ!?」


 「ん……」

 私は、風の制服のボタンを一つだけ、指先でそっと触れた。

 そして――小さく、微笑んだ。


 「そのぶん、今日いっぱい……甘えさせて」

 「っ……! え、えっちぃのは禁止っ」

 「言ってないでしょ、そういうこと」

 「いま、含みがあった〜っ!」



---


 その日の帰り道、私は風の腕にそっと手を絡めた。

 まだスマホのロック画面は変わってなかったけど。


 「……まあ、しょうがないか」

 「えっ?」

 「どうせなら、もっといい写真撮ってもらおうかなって」


 「ひ、ひなちゃんっ!?!?」

 「ふふっ、嘘だよ」


 そう言って笑った私を、風は涙目で見上げてきた。


 「ひなちゃん……好きが止まらないんだけど……」

 「……私も、ずっとそうだったよ」

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