第2話
ようやく、
「……ふぅ。やっと
そのとき、
「
「
アリシアは書類をつまみ上げたまま、げんなりと問い
「ち、
「はぁ!? なんでよ!?
アリシアの
「そ、それが……
「はぁ〜〜
アリシアは
その
「ですが、
アリシアの
「……トロル
「
「
「ショックで
「やばい!!」
アリシアは
その
――
アリシアはそれを
「……
アリシアは
「ひ、
だがアリシアは
「
「え……お
だが
「――ただし。
アリシアの
アリシアは
(
村に
エキストラの村人が、悲鳴をあげて逃げ惑う。
すごい、本格的だ。でも、だからこそ!
「グルド・トロル
アリシアが
「
「はあ? いまさら
「どんだけ
ゴツゴツした
「このセット
アリシアは
「わ、わかります! でも……
「
グルド・トロルの
トロル会長、グルド・トロルの怒声が、山々に反響する。三メートルを超える巨体が地面を踏み鳴らすたび、大地が微かに揺れた。
「勇者様が間違ってトロル族のエリアに入っちゃったんです! このままじゃ心が折れちゃうかもしれないんですよ!」
アリシアは必死に声を張る。しかしグルド・トロルは首を振り、血走った目で怒鳴り返した。
「知るか! こっちはこのイベントにどれだけ予算かけたと思ってる! 火薬の賞味期限は今月末だし、エキストラの人件費も払い済みだ! 中止なんかできるか!」
遠く、勇者リオの姿が小さく見え始めていた。もう時間がない。
アリシアはきゅっと唇を噛み、決意を固めた。
「……じゃあ、こうしてください!」
短い打ち合わせの末、グルド・トロルは大きく鼻息を吐き、渋々頷いた。
「ったく……しょうがねぇな」
数分後。
勇者リオは、人影のない村の広場に足を踏み入れた。
「……おかしいな。さっきの地響きはなんだったんだ?」
周囲をきょろきょろ見回すリオ。その前に、そろそろと顔を出した村人の一人――トロル族の若者が人間に化けたエキストラだ――がおずおずと告げた。
「ト、トロルの襲撃がありまして! 村人たちは家に立てこもっています!」
リオは眉をひそめ、ぐっと声を落とす。
「トロルはどこに行ったんだ!?」
村人役の男は必死に演技し、村の外れを指差す。
「あちらの関所の方へ行きました!」
「なにっ! なら俺が追いかけて、食べ物を取り返してくる!」
リオは目を輝かせ、くるりと踵を返した。
すると家々の戸が一斉に開き、中から村人役のエキストラたちがぞろぞろと飛び出してきた。
「勇者様、最高ーッ!!」
「がんばれー!!」
ドン! ドン! ドドドン! 火薬の花火が次々に打ち上がる。夜空にぱっと光の華が咲き、勇者リオは目を丸くした。
「えっ……?」
歓声と拍手が村を包む。勇者祭りのような熱気が溢れ、リオは頬をかきながらも意気揚々と関所の方へ駆けていった。
その背を、アリシアは物陰からそっと見送る。
(今来た方向に逃げたんなら、すれ違ってるはずじゃない? なんて思うだろうけど……まあ、いっか!)
リオの姿が見えなくなると、アリシアは安堵の息を吐き、ぐったりと肩を落とした。
「何とか、うまくいったわね……」
隣で、グルド・トロルが腕を組み、まだ不満げにぼやいている。
「まったくよ。せっかく用意した村焼き討ちセットを、祭りに変更とかよ……火薬の賞味期限も人件費も、どうしてくれるんだ」
アリシアは必死に説明する。
「だから、お祭りにして花火を打ち上げる演出にしたんです! 勇者様を盛り上げるイベントにすれば、勇者育成計画として予算申請が通りますから!」
「勇者様がメンタルブレイクして計画が破綻するよりは、ずっとマシでしょう!」
グルド・トロルは鼻を鳴らし、渋々頷いた。
「……ま、仕方ねぇな」
アリシアは大きく空を仰ぐ。花火の残り火が空に霞み、彼女の瞳をきらりと照らした。
(理想の勇者様を育てるんだもの。こんなところでつまずいていられない)
そう決意を固めながら、彼女は王都への道を急ぐのだった。
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