仮面令嬢の全ては親友の死から始まった

星守

冤罪

「クレアッ……!!信じて!」


薄暗い。寒い。怖い。寂しい。そんな言葉ばかり浮かんでくる。

檻の向こうに居るアリスは、痩せ細って擦り切れたボロボロのドレスかもわからない服を着ていた。折角絹のように滑らかで美しかった金髪の髪も、手入れが無いせいで酷く乱れている。泣きながら必死に冤罪だと訴えるアリスの姿は、罪を犯した者には見えない。いや、アリスは元から罪を犯すような人じゃない。


「アリス、私はアリスを信じてるよ。アリスは……罪を犯すような子じゃないって」


「クレア……私どうしたら良いんだろう……このまま飢えるか死刑されて死ぬのかなぁ」


檻の隙間から手を伸ばして、悲痛な泣き声を出すアリスの腕を強く握った。今の私じゃあ、アリスをここから解放することはできない。町で冤罪だと主張しても、混乱の中正気を保っていて信じてくれる者なんていないだろう。アリスが町の人々を沢山助けて、一緒に過ごして、築いてきた信頼も、今や意味なんてなくなってしまった。


「ごめん……アリス……何も、できなくて……ごめん」


もう、アリスの目の光は殆ど失っていた。




遡ること数週間前、私とアリス・エヴァンスは普通の暮らしをしていた。

アリスは私とは真逆で、明るくて可愛い上に、優しくてまるで太陽のようだった。振り返ってなびく絹のような金髪の長い髪は、光に当たると誰もが目移ってしまうくらいに美しかった。睫毛が長く、アクアマリンのような瞳も、皆が惹かれる要素のひとつだった。何より、冷淡で可愛げが無いと言われ、人とあまり関わる機会の無かった私にさえ向けてくれた、あの柔らかい笑顔がアリスの一番好きなところだった。

最初は私を騙そうと近寄ってきているのかと思ったけれど、一緒に過ごすうちにアリスは本心で私と居てくれているとわかった。


「クレア、今度の学園祭で劇をするんでしょう?私絶対見に行くからね!!」


「えぇ……恥ずかしいよ。私演技下手だし」


「そんなことないよ!クレアは誰から見ても演技だけは人並み外れてるぐらい凄いんだから!」


「演技……」


「あぁあぁあ侮辱したような意味じゃないからね⁈クレアの演技力はほんとに凄いから自身持ってって意味で……!」


「……ふふ、ありがとう」


休日、私たちはいつも通り町のパン屋で昼食を買おうとしていた。アリスの話はいつも面白くて、自然と笑えた。

数年後大人になったらアリスは誰かと結婚するかもしれない。私もどこかへ旅に出ているかもしれない。それでもアリスとの楽しい日常は、きっと変わらないだろう。いや、変わってほしくない。ずっとこんな日々が続くと思っていた。けれど、そんな想像もパン屋を出た瞬間に一瞬にして消え去った。


「何か外が騒がしくない?」


異変に気付いたアリスはそう言った。


「確かに、人が多い気がする」


窓からはいつもの数倍の人数の集まりが見える。

私たちがパン屋を出ると、その理由がすぐにわかった。


「アリス・エヴァンス!!国の反逆罪で捕縛する!!」


「えっ⁈」


私たちの目の前に現れた国の刻印が刻まれた鎧を着た兵隊は、周りに聞こえるほど威勢のいい声で言った。腕を伸ばして合図を送ると、周りの兵隊が一斉にアリスを囲み、身動きの取れないような力強さで腕を掴んだ。


「離してっ…何⁈急に何なの⁈」


「アリス!!」


私は必死にアリスを掴んだ兵隊を解こうとするが、女一人で兵隊には敵わず押されて地面に叩きつけられた。


「クレア!助けて……!!」


アリスの精一杯に伸ばした腕を掴もうと手を伸ばすが、兵隊はそのまま城の方へとアリスを連れ去った。


「アリス……?」


しばらくその場から動けなかった。何が何だかわからない。理解が追い付かない。隣にアリスが居ない。地面にはアリスが抱えていたパンの袋が落ちて、これから一緒に食べようとしていたパンは散らばっている。兵隊に踏まれて潰れたパンもある。町の人々も困惑している。


「アリスさんが反逆者?」


「俺達を騙していたのか?」


そんな声が聞こえる。

アリスが国に反逆した……?本当に?あのアリスが?わからない。アリスがそんなことするはずない。ずっと一緒に居た親友が、国の反逆なんて。



絶対、何かの間違いだ。

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