第九章(最終章):裸の誓い

一方、広間の端には、王の言葉や現状に、顔をしかめる者たちがいました。

先日までの大臣や高官・官僚たちでした。


「陛下、こんな素性も知れぬ者達に政を任せるなど、危険すぎます!」

「この者たちに国の仕組みがわかるはずがございませんぞ!」


王は、ゆっくりと彼らの方へ歩み寄り、厳しい声で言いました。

「ならば、証明してみせよ。

 口ではなく、行動で。

 民と同じく、汗を流し、手を動かし、国のために働けるか――それをだ」




その日から、絹の衣をまとうことを当然としていた者たちは、

粗い作業着に着替え、農の現場や水路の開墾、

炊き出しの支援に駆り出されることとなりました。


「まさか……こんな重い荷を、担ぐのか……?」

「暑い……泥が足に……服が濡れる……」


不平を漏らしていた者たちも、やがて気づき始めます。


その苦しい、民の働きの上に自身の生活があった事を。

「……民が、我らを支えていたのだ……」




王は、彼らの労働場を回り、

疲れた者には水を手渡し、転んだ者には手を差し伸べました。


「過ちを認め、やり直す覚悟があるのならば、道は閉ざさぬ。

 私は、すべての者に、誠実である機会を与えたいのだ」


やがて、元大臣だった一人が泥だらけの顔を上げて言いました。

「……民の声を、私はずっと聞いてこなかった。ようやく、分かりました。

 陛下、もう一度、政に携わらせてください。

 今度は、誠実に――」


王は頷き。

「ならば、今度は言葉ではなく、行動で示すのだ」

と諭しました。




こうして、王の城には、身分の隔たりがなくなり、

真実を語る者には新たな役目が、過ちを認めた者にはやり直しの場が、

等しく与えられていったのです。




一人の民が言いました。

「裸の王様? いいや、あの方こそ、心を見せた王だ――」





この、はだかの王様は、ただの笑い話ではありません。


むしろ――

今こそ私たちに必要なのは、この“はだかの王様”ではないでしょうか?




~おしまい~




最後までお読みいただき、本当にありがとうございました


ここまで読んでくださった皆さまに、心より感謝申し上げます。


あなたの心にも、小さな光を灯せていたら嬉しいです。


さて、次回作は

『醜いアヒルの子~灰色の翼~』


卵の大きさ、ヒナの歩き方、羽ばたきの違い──

現実の“鳥の違い”に着目して、名作童話をリアルに描き直しました。

童話と豆知識が織りなす、ちょっぴり笑えて、じんわり温かい新解釈ストーリー。


気になる方は、ぜひこちらも覗いてみてくださいね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

はだかの王様~見えぬ衣と見える心~ 山下ともこ @cyapel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ