はだかの王様~見えぬ衣と見える心~
山下ともこ
第一章:偽りの衣
王宮の大広間に、きらびやかな絨毯が敷かれ、
金銀で飾られた燭台がまばゆい光を放つ玉座の間。
けれど、玉座に腰かけた王の目は、その豪奢さに宿るはずの誇りではなく、
深い疲れと沈黙を湛えていました。
――また、新しい服か。
侍従が差し出した帳簿には、
「王のための礼服・冬用」と書かれた品がずらりと並びます。
金糸、宝石、異国の織物。
どれも王の名のもとに調達されたものでありながら、
王自身はそれらを望んだ覚えがありませんでした。
「このような贅沢を、私はいつ求めただろうか……」
誰に聞かせるでもなく、王は静かに呟きました。
大臣たちは言います。
「王のお姿は国の威厳。国民は陛下の装いに希望を見出しております」と。
側近たちは言います。
「これも国政の一環。陛下の堂々としたお姿に、民は安心することでしょう」と。
しかも、どんなに素晴らしい服も装飾品も、
「一度、身に着けた物を再び身につける事は、王の品格が疑われます」
と、大臣達は持ち去って行くのです。
かなりの金額が掛かっているものであろうに…
あの服や装飾品の行方はどうなっているのか?
街に暮らす民の暮らしが苦しいことは、ちらちらと王の耳にも届いていました。
麦の価格は上がり、職人たちは税に追われ、
子を抱える母親は井戸端で泣いていると聞く…。
「街を視察したい」
と述べると、大臣たちは
「ご安心ください。民の声は届いております。王のお心も届いております。」
「王自ら街へ足を運ぶことは危険です」
と、王宮を出る事を制してくるのです。
「民の生活は本当に大丈夫なのだろうか…」
王は静かに立ち上がりました。
窓の外、王城の高台からは遠くに街が見えます。
その小さな屋根のひとつひとつに、人々の暮らしがあるというのに、
自分は――ただ、飾られるだけの王にされているのではないか…。
「私は、この国の王である前に、人の子の一人であるはずだ。
真実を、見なければならぬ」
王が鬱々とした日々を過ごしていた頃、王のもとに、一風変わった噂が届きました。
「愚か者には見えない服」を仕立てるという、不思議な仕立て屋の話でした。
続く~第二章へ~
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