季節が終わるたび、君はかたちを失う

《夏》のレポートを各々書き上げていく、どれくらい観測されたか、見つけてもらえたか、天球場の様子など。

 私たちはまた《夏》が来るまでまた長い間待たなければならない。

「あー……アタシは何万字書けばいいんだよ」

 大量のレポートとにらめっこしながら、アンタレスは呟く。

「アンタレスは6月から8月の終わりくらいまでだもんね」ベガがそう言うとアンタレスはまた、あ゙ーと唸る。

「毎年、書いてるでしょ嫌なら手書き辞めたらいいじゃない」私がそう言うと、「デネブはいいだろうがまだしばらくいるだろ、ベガだってアルタイルだって」

 確かに私たち《夏》の星座は見どころが《夏》なだけで秋までは天球聖女学院にいるが、天球場にいるのは《秋の星座》たちや《秋の大四辺形》たちにフォーカスされるのだ。

「わ、私たちだってまだ一応は秋の天球場には顔を出すよ」アルタイルのフォローにアンタレスは牙を剥く。私はドタバタと談話室が騒がしくなるのが苦手なので談話室をそっと抜け出す。


 私は廊下へ足へ踏み出すと、ふわりと浮く。

 外は銀河系が広がっている、私たちは人間ではないのだ、なんといえばいいのだろう。

 星の具現化といえば良いだろうか、《逸話》のことも観測のことも全てこちらが地球とコンタクトを取っているのだ。

 黒いスカートがふわふわとたなびく、私の青い髪と白鳥の羽のような髪飾りも具現化した時のものだ。

 窓ガラスに映る私は外の私は布を纏ったガスのような存在である、しかし寄宿舎内の私は人間の姿である、そう私たちは一歩、外へ出ると星そのものになってしまう。

 人の形を模しているのは、ベガとアルタイルを見守る為。ここにいる子達は皆、人の形を取って、遠い遠い星へ私たちのありのままの姿を天球場で投影したものを送って発信している。

 私の逸話にベガ達は関係は無いけれど私はこの2人の行き先を見守る権利はある。勝手に思っている。

 談話室の騒ぎ声に耳を傾けていると、廊下の向こうから私と同じ気配を感じた。

「フォーマルハウト……」私の声にみなみのうお座のフォーマルハウトは足を止める。

「久しぶり、談話室に入ろうとしたけど……まだ使ってるみたいだね」「ごめんね、もう少ししたら空くと思う」私たちは談話室の外で他愛のない話をして、フォーマルハウトはとりあえず食堂へ向かうと言って去っていった。

 私は、談話室のドアをノックしてベガ達を出してフォーマルハウトに使っていいよと教えて、談話室をあとにした。

 アルタイルとベガは先に2人で廊下の向こうへ歩き出した、アンタレスもぶつくさ言いながら2人の後を追う。

 私も、3人の後へ続こうとしたが、目線を感じて振り返って。

 その目線へ。私は見ているぞという意味を込めて

「あの二人を変な目で見るのだけはやめてね」と忠告を残し、3人と同じように長く続く廊下の暗がりに溶けた。

 残ったのは、談話室にいる《秋》唯一の明るい等級生である、フォーマルハウトだけであった。デネブが天球の外に向けた者への発言も彼女は聞いていた。

「おー怖、さすが白鳥座のデネブだ」彼女の愉快そうな呟きもまた闇に消えた。

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七月七日の寄宿舎 なつろろ @a0m_

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