ショートショートとか

福江 ハト

竹林整備

もう3週間も前のことだが、とある活動に参加した。


集合場所は、周り一面が木に埋もれた駅だった。

朝8時30分の集合は、大学生らしく怠惰な生活を行う僕にはとても早くてまだ眠気が残っていた。

手の指を少し外に出すだけで氷に触ったような冷たい空気が充満しており、ポケットに手を突っ込んだまま駅の前で待っていた。


周りには、同じく活動に参加するサークルの知り合いたちが互いに背中を擦りながら暖をとっている。

混ぜて欲しいけど、混ざっていいのだろうか。


背の高い木に少し空いた隙間からチラチラと光が差し込む。

光が当たると少しあったかいのだが、風がふくと猫じゃらしみたいにフラフラどこかへ行ってしまうのでなかなか暖にするには難しい。


駅前に入っては出る車を眺めていると灰色の大きな車が一台止まった。


「森の家」の参加者さんですか?


出てきた男の人が聞いてくる。

青い作業用のモンベルのジャケットは薄着なようで、暖かそうだ。


 はい。


返事をすると、白い息が出てきた。





車に乗って、移動する。

3人がけのはずだが、半分ほど荷物で埋まっている席に座ると、荷物の間に赤いクマを見つけた。

赤、というより紫を隠し味に入れたみたいなマゼンダだ。


なんとなく手にとって撫でてみる。

車のヒーターに温められたのか、とても暖かかった。

見た目よりも毛はふわふわでトリミングされたトイプードルみたいな感触だ。

中のワタはしっかりと詰まっているが、硬すぎず、いい感じで抱きしめられる。

大きさだって、膝の上において抱きしめると丁度頭もとが腕あたりにきて、抱きしめやすかった。


これは、寝る時に欲しいな。

周りの目を忘れて、クマに抱きつく。

寝そべって上を見上げる体制をとるクマの魅力に、すっかり取り憑かれてしまった。


「それ、そんなにいいんですか?」


隣の1つ年下のサークルメンバーが聞いてくる。

いけない、いけない。

こんないいものを独り占めしてはバチが当たると、僕は無言でクマを彼女に渡し抱きしめるようにジェスチャーする。

そっと、腫れもを触るようにクマを撫でた彼女は 無言でクマを抱きしめた。


気に入ったようだ。

車の中で始まる他のメンバーの自己紹介そっちのけで、2人でひたすらクマを愛でていた。


細い田舎道を通って、いろいろとアトラクションみを感じる道を通って1つの民家に着いた。

昔、この家でソーメン食べたかも知れない。

なんてありもしない記憶を回想しそうになるくらい、温かみのある古き良き和式の家だ。


ところどころ、流木が置いてあるのは、家主の趣味だろうか。

玄関の横には木をくり抜いて作った魚の入りそうな器が、1本の木に3個くらい螺旋階段みたいにくっついている。

先端の器にくっつく翡翠っぽい青い鳥がじっとこちらを伺う。


門番だろうか。かわいいな。


玄関に入ると奥には土間みたいなところ、隣は結構な段差がある畳部屋。

1部屋はどっしりした茶色い木の広い机が占めている。

その隣に目を向けると、こたつがあった。


さて、読者の方々。

もし、あなたが今、寒い風に当たって冷えている状態で目の前にこたつを見つけたらどんな行動をとるだろうか。


解答___さっさと靴を脱ぎ、段差の補助で置いてある丸太を軽く上がってこたつに手を突っ込む。


暖かい。


何やらお茶の準備をしている土間のお姉さんに声をかける。


こたつ入ってもいいですか。


快く許可をもらったところで毛布をあげ入室。

あったかーい。

やはり、こたつはノーベル賞を取れるくらいは素晴らしいものではないだろうか。


こたつで溶けている間に、お茶の準備が整って、渋々広い机に移動する。

でも近くに石油ストーブがあって、あったかーい。


どうやらここでは、お茶の器とか好きに選んでいいらしい。

なんか紫っぽい花が1つ描かれたシンプルなカップを選び、お菓子も取る。

全員が器とお菓子を選ぶと、車を運転していた青ジャンのお兄さんの活動紹介が始まった。


どうやら森の整備や海の整備を行う活動の主催や企画、運営・・・なんでもしているらしい。

今日は近くの竹林を持っている知り合いに頼まれた竹林整備らしい。


あまり、やることを聞いてこなかったので、そうなんだーと思いながらお茶を啜る。

まるで無印みたいなちょっとおしゃれで落ち着く感じのお店で炊かれているアロマみたいな香りが口に広がる。


少しの甘さと、少しのほろ苦さ。

飲むと、お茶が体の中を通って、ポカポカとしてくる。


お茶、うまー


お茶にニコニコしていると、お茶をくれたお姉さんがお茶の説明をしてくれる。

何やら、自家栽培のローズマリーやらレモングラスやらをブレンドしたお茶らしい。


ハーブはリラックス効果があるというから自己紹介を控える僕たちにはちょうどいい。

体もポカポカするし。


どんぐり型にくり抜かれたケーキも口に入れる。

ほろ苦さに染まった口に、優しい甘さのケーキはちょうどよかった。


自己紹介も終わり、今日の参加メンバーに3名ほうど竹林整備のプロがいることがわかったところで現場に車で移動することになった。

竹林整備のプロたちはどうやら大学のサークルで竹林整備をしていたそうだ。


 ・・・いいな。


僕もお茶を作るサークルに大学の青春を捧げているけれど、最近活動が少ないから体を動かしたい。

 

あと、運営の人と思っていたお姉さんは、実は、遠くからやってきた中学生だった。

中学生と言われた時、全員で「は?」と驚いてしまった。

中学生にはとてもじゃないが見えなかったからだ。

 

最近の中学生って、めっちゃ大人っぽくてすごい。

めちゃくちゃ、大学生かと思っていました。


竹林は畑の真隣にあった。

整備をしばらくしていないためか、道が草で覆われ、お姉さんがナイフでいろいろ切りながら道を作ってくれた。

 

中に入ると確かに、整備されていたのだろう。

道っぽいところと、焚き火の跡。

椅子がわりの横に転がした丸太があった。


竹林は倒壊した竹が他の青々しいたけに引っかかっていたり、青い竹の中に枯れた薄肌色の丈が混じっていたりと綺麗とは言えない状態だ。

特に倒壊した竹は、食堂の返却コーナーのおけに乱雑になげこまれた箸みたいで、几帳面の気質がある自分からしたらとても直したい。

 

お兄さんは、背負っていた銀行強盗が持ってそうな鞄を下ろして、中を開いた。

カバンの中からナタやノコギリ、バールを出して、好きな道具を使ってくれという。

中身も強盗の必需品だった。


バールは切った竹についている細い枝を取るのに使うそうだ。

お兄さんがバールを枝の根元目掛けて振ると、細い枝はスパーンッと飛んでいった。


その勢いは、目で追うことができないほど。

細い枝でも、絶対頬を掠れるくらいの威力がありそうだ。


とりあえず、自分はノコギリをもらい、竹の切り方を習う。


根本を切る場合は倒す方向の反対側を半分まで切ったあと、倒す方向にノコギリを入れて竹が自分の重さでビキビキ言うまで切るらしい。

この方法がうまく決まると、切り口がLみたいな形になる。


あとは3mくらいの感覚で竹を分解して、間がいい感じにあいた2本の竹にもたれかかるように積み重ねる。

こうすると、防波堤みたいになって、嵐などで竹が倒壊した時に、地面を滑り落ちていくのを塞げるらしい。


ほへ〜、知らんかった。


ちなみにデモンストレーションで竹を切った時、倒れ方が思ったよりも激しく、枝が飛んで危なかったので、竹が倒れそうな場合は命を守るためにも避難勧告が出すことになった。


避難勧告ができたら、全速力で逃げた方が良さそうだ。


特に、竹のエキスパートのお兄さん、お姉さんたちが武器、・・・道具を取った瞬間から目をギラギラさせている。

社会人のこの方達は、久々の竹林整備に心が疼いているそうだ。

 

「君も、やってみればわかるよ。あまりの爽快感に飛ぶぞ。」


いや、ノコギリを持ちながら目を見開いてそんなことを言わないでほしい。

危ない人に見える。


それにしても、竹林整備ってそんなに中毒性があるのだろうか?

疑問と恐怖を持ちつつも、持ち前の好奇心と冒険心で僕は竹林の奥地へと向かった。





 

結論・・・竹林整備はまじで沼。

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