第26話 最終話 神殺しの旅

 その後ターナーはすっかり魔力を失い、同時にベルトロス教会への忠誠心も失った。今後は教会で罪を償いながら生きていくという。


 アリダ草の禁断症状で苦しんだサイラム王は未可子の治癒魔法と娘のシャーロットの献身的な看護のおかげで元の心を取り戻した。


 正気を取り戻したサイラム王はポートカルネに謝罪し国交を回復。これにより戦争の危機は去った。


 ターナーが作ったアリダ草畑は未可子が魔法で全て焼き払った。

 また、そこで強制的に働かされていた人達も無事に解放され家に戻った。サイラム王はその人達への金銭的補償を約束した。


 騎士団長の後任にはイザベラさんが就任した。最初は固辞していたイザベラさんだったが騎士達に強く請われ結局アルベルトさんの後を継いで騎士団長になった。

 高木と二階堂は騎士団に正式入団してイザベラさんに一から鍛えなおしてもらうことになった。



 そんなこんなで今日はシャーロット姫とポートカルネの王子の結婚披露パーティーが開催される。


 サイラム王の元気な姿を見せる意味もあり市民も会場に呼ばれている。

 その中には父親を探して泣いていたアンナが父親と叔母と楽しそうに笑っている姿もあった。


 式の冒頭でサイラム王がベルトロス派からミレーヌ派への改宗を発表したことで和やかな雰囲気で式は進行する。


「ねぇ。悠介…ダートイクリプスって禁術だよね?世界を滅ぼし尽くしてしまう極大魔法…」


 周りに誰もいなくなったタイミングを見計らって未可子が話しかけてくる。


 その通りだ。ダートイクリプスという魔法は本来は人間であろうが何であろうが構わずにその存在ごと消してしまうという禁断の魔法だった。


「うん…そうだね」


「でも、ターナーも…私達も無事だった…何で?」


「わからない。でも俺は『知ってた』んだ…この魔法では人間は死なないことを…だから使った」


 俺の答えに未可子は曖昧に笑う。


「ミレーヌ様が護ってくれたのかもね」


 少し考えてから未可子はそう言ってにっこりと笑った。


 ステージ上でシャーロットとポートカルネの王子が熱いキスを交わしている。

 それを参列者が囃し立てる。シャーロットは真っ赤な顔で、それでも幸せそうに微笑んでいた。


「本当に行くのか?」


 結婚披露パーティーが終わると俺は旅支度を整えて館を出る。


 追いかけてきたイザベラさんが声をかけてくれる。


「はい。俺はどうやらベルトロスっていう神様と決着をつけなければならないみたいです…」


「ベルトロスと決着って…そんな…」


 イザベラさんは戸惑った表情を浮かべる。


「元々俺と…いや、ミレーヌと一心同体だった神がこの世界で悪さをしているんだから…見て見ぬふりはできませんよ…」


「そうか…それが君の為すべき事なら止めはしない。…もし困ったらすぐに知らせてくれよ?帝国の果てまでも助けに行こう」


 そう言ってイザベラさんは俺の背中を思い切り叩いた。


「悠介君…あの…私も…」


 北条さんが旅支度をして俺の前に立つ。


「北条さん…ごめんだけどこの旅に北条さんは連れていけない。余りに危険過ぎるから…」


 俺の言葉に北条さんは俯く。


「必ず戻るから…」


 俺は北条さんの肩を優しく抱きしめる。


 北条さんはやっと納得してくれたのか、肩を震わせながら小さく頷いた。


 俺はイザベラさんと北条さんに手を振って館の門を出る。


 目抜き通りを真っ直ぐに歩くと城門が現れる。


 見張りの兵士が両側から俺に頭を下げる。


 俺はペコペコしながらその間を通る。


 門を潜り外側から城門を振り返る。


「無事に戻って来られるかな…」


「大丈夫だよ!悠介は私が守るから!」


 俺の独り言に応えるのは未可子だ。しっかりと旅支度を整えている。


「本当かよ?」


「当たり前でしょ?私は貴方の使徒なんだから…」


 未可子は無い胸を張る。


「でも、前世ではメイリーンの目の前で俺腹刺されて死んだんだけど…」


 俺の言葉に未可子は悲しそうに目を伏せる。しまった。冗談にしてはヘビー過ぎたか?


「それは…ごめんなさい。まさか人間が神を殺すなどとは思いもしませんでした…」


 未可子は深々と頭を下げる。


「いや!冗談!ごめんね?…あれ?でもソフィアが死んで北条さんに転生して、ミレーヌが死んで俺に転生して、じゃあメイリーンは何で?メイリーンもあの後殺されたの?」


 俺は素朴な疑問を口にする。


「いえ、私はミレーヌ様の亡骸を護るためにその場を脱して、翌日にミレーヌ様の遺骸を丁重に葬った後殉死したから…だから悠介の翌日に私が産まれたんだよ!」


 未可子はあっけらかんと説明する。

 けど、かなり重い。


「殉死って…自殺ってこと?」


「うーん。現代の価値観で言えばそうなるかなぁ。でも当時はそれが当たり前なんだよ。だって私は貴方の使徒なんだから!」


 未可子はニコニコと笑っている。


「未可子はいつ頃から前世の事思い出していたの?」


「私は産まれた時からわかってたよ。自分の事も、悠介がミレーヌ様の生まれ変わりってことも…ね」


 未可子の口は笑っているが目は真剣だ。


「そんなに…ずっと見守ってくれていたの?」


「だから言ったじゃん!私は貴方の使徒なんだってば!何回 い わ せ る の ?」


 未可子はそう言って俺のおでこにデコピンをする。


「いてっ…ふふっそうだな。よし!行くか!ベルトロスを倒してこの世界に平和を取り戻すぞ!」


「うん、行こう!悠介」


 こうして俺と未可子の神殺しの旅が始まった。


陰キャの俺が噂の異世界転生してみたら無双だった話〜陽キャは全然使えない〜完


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陰キャの俺が噂の異世界転生してみたら無双だった話〜陽キャは全然使えない〜 真田 栄三郎 @tonbo123

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