第24話 神代の記憶

「ん?おぉ、お前たち良くやったな。それでこそ英雄だ!」


 ターナーは上機嫌で高木と二階堂を迎える。


「はい!ありがとうございます!ターナー様」


「褒美にまたあの煙を…」


 高木と二階堂はペコペコと諂う。


「おう…まずはその女を寄越せ!早く!」


 ターナーは焦ったように高木に向かって手を差し出す。


「はっ!はい!」


 ターナーは高木の手から北条さんを奪い取る。


「ふははは!どうだ?これでもうお前らに手出しはできんだろう…バカな仲間を持つと大変だな?同情するぞ」


 ターナーは高笑いをしながら気絶しているらしい北条さんの顔をこちらに向けてくる。


『ドクン…ドクン…ドクン』


 北条さんの顔を見ると動悸が激しくなる。


「この女はベルトロス様に捧げよう。そうすればベルトロス様はまた私に新たな力を授けてくださるだろう」


 ターナーは興奮した表情を隠さずに独り言を言う。


『ドクンドクンドクンドクン』


 心臓が激しく脈打つ。そして意識が遠くなる。


 次の瞬間身体がふっと軽くなる。


「ベルトロスめ…まだ下らぬことをしているのか…」


 口が勝手に動く。俺ではない。俺は喋っていない。けれど言葉を発しているのは間違いなく俺の口だ。


「ターナーとやら。悪いことは言わぬ。その人間を置いてこの場を去れ」


 俺の口から発せられる言葉にターナーが再び怒り狂う。


「だからてめぇは偉そうなんだよ!ふざけやがって!よし、わかった。もういいお前は死ね!…モリオール!」


 ターナーの手から黒い影が俺の身体に向かってくる。


 右手が勝手に動く。


『ぱしんっ』


 軽い音を立ててターナーから発せられた黒い影は俺の右手の一払いで方向を変える。


『ドゴォッ』


「うひぃい」

「ママー」


 方向を変えた黒い影は高木と二階堂のすぐ横の壁を吹き飛ばした。

 高木と二階堂は悲鳴をあげ腰を抜かす。その股間を小便が濡らしている。


「何!?モリオールを片手で払うだと!?バカな!?」


 ターナーは動揺を隠せない。


「人間の使う魔法など所詮はおままごとだ。もう一度だけ警告してやる。立ち去れ!」



「ふ…ふふふ…なるほど。貴様もそれなりに魔法は使えるようだな。しかしベルトロス様から力を貰った私に敵う者はいない!」


「確かにそなたの魔力はベルトロスの力を色濃く受けている。そして人間にしては魔力も申し分ない。そう。『人間にしては…』だ」


 俺の口から発せられる言葉にターナーは薄笑いを浮かべる。


「はははっ!何が『人間にしては』だ!じゃあ何だ?お前は神か?えぇ?」


 ターナーの言葉に俺は笑う。


「あぁ…そうだ。私は神だ…だからそなたは私に絶対に勝てない。いいか?絶対にだ!」


「あーはっはっはっ!バカだとは思っていたがここまでとはな!言うに事欠いて自分を神だと!?周りを見てみろ。皆気味の悪いものを見るような目でお前を見ているぞ?」


 未可子は心配そうにこちらを見ている。

 イザベラは少し遠巻きにして見ている。

 騎士達も確かに少し引き気味だ。


 無理もない。何より俺自身が引いている。自らを神だなどと…しかし不思議と納得もしていた。俺が神なのであれば今この身体が勝手に動く事にも合点がいくのだ。


「ターナーとやら。とにかくその人間をこちらに返してくれ。話はそれからだ…」


「うるさい!この女はベルトロス様への供物だ」


 聞き分けの悪いターナーに俺の身体はゆっくりと近付いていく。


「来るな!この女を殺すぞ!?」


 叫ぶターナー。


「ベルトロスへの供物なのだろう?お前にはその人間は殺せない」


 尚もゆっくり近付く俺の身体。


「来るな!来るな!」


 ターナーの声が裏返る。


「仕方ないのだ。私は何度も警告をした『立ち去れ』とな。しかしお前は警告を無視した」


 俺の身体がターナーの腕を掴む。


「なっ!?結界を通り抜けて…」


『ばきゃっ』

「ぎゃああぁああぁ!」


 俺が少し力を入れるとターナーの腕が関節とは逆方向に折れ曲がる。

 悲鳴をあげるターナーの手から北条さんの身体を奪い返す。


「ぐっ…貴様ぁあ」


 ターナーはそれでも俺を睨み返す。激痛だろうに大した精神力だ。


「ベルトロスのために死ぬか…それも良いだろう」


 俺はターナーの眉間に人差し指を当てる。


 ターナーは身の危険を察したのだろう。俺の指を見ながらガクガクと震える。


「ひっ…嫌だ…嫌だ!死にたくない!嫌だ!」


「仕方ないのだ。許せよ。人間…」


 俺は人差し指に力を込めようとする。


「ミレーヌ様!いけません!」


 その時、そう言って俺とターナーの間に身体を割り込ませて来たのは…未可子だった。

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