第22話 教会幹部の正体
俺と未可子は教会の前に立つ。
「本当にここにターナーがいるのか?」
「うん」
ターナーと対決をする事を決めたはいいが、館の中にターナーはいなかった。
どうしたものかと思っていると未可子が『教会に行けばターナーがいるはずだ』と言うのでここまで来た。
「でも何でターナーが教会に?」
「鈴木君…本気で言ってる?教会の幹部がターナーだよ?」
「えっ!?」
未可子の思わぬ発言に素っ頓狂な声をあげてしまう。
「本当に…?あの身長と体型、それからマスクでくぐもっているとはいえ、聞いたことのある声…」
未可子が呆れたといった表情で俺を見下してくる。
「えっ??未可子ずっと気付いてたの?」
「うーん。確信を持ったのは北条さんが攫われた日の翌日だねぇ。彼イザベラさんに矢で射られた肩を庇って不自然な動きしてたでしょ?」
未可子の言葉にターナーが変な体勢でドアを開け閉めしていた事を思い出す。
「だから鈴木君も気付いてるもんだとばかり思ってたよ…」
未可子の言葉に俺は急に恥ずかしくなってきた。
はい。得意気にあれこれ言っていた挙げ句教会幹部の正体に気付かずにいた間抜け者は俺です。
「とにかく!ここでターナーと決着をつけるぞ!」
「誤魔化した…」
未可子の非難がましい声は聞こえないフリをして俺は教会の扉を押し開ける。
「っ…!?」
そこには銀色に光る魔獣が3頭のそのそと動き回っていた。
「ヤル気マンマンかよ…」
俺は思わず呟く。背中を冷たい汗が流れ落ちる。
「何か…あの魔獣今まで見てきた奴と違う?」
未可子の言葉に注意深く見てみると確かに魔獣の色合いが違う。
今までのは透明なオーラを纏っていたが、目の前にいる魔獣は銀色のオーラを身に纏っている。
「本当だ…なんだか強そうだな…」
「あの役立たずどもめ…期待はしていなかったが…足止めもできんとはな…」
正面の祭壇に幹部が姿を現す。相変わらずマントと不気味な仮面をつけているが、言われてみればターナーにしか見えない。
「ターナー!お前がアルベルトさんを殺したんだろう!?」
俺は主導権をターナーに渡さないように大きな声で叫ぶ。
ターナーは一瞬動きを止めると大儀そうに仮面を外して投げ捨てる。
「やれやれ…バレてしまったか…」
ターナーは澄ました表情だ。未可子にはとっくにバレてたのだと伝えたらどんな顔をするだろうか?
「答えろ!アルベルトさんを殺したのか?」
「あの正義感が暑苦しい男か?そうだよ。俺が殺した。味方に引き入れようとしたが言うことを聞かなかったのでな。剣の腕は一流だからな…もったいないことをした」
ターナーは肩をすくめて首を左右に振る。
「アルベルトさんがお前なんかに簡単に殺される筈がない。どんな卑怯な手を使った?」
「簡単だよ。アリダ草の粉末を茶に混ぜて出した。あいつは疑いもせずにそれを飲んで、そのまま意識を失ったよ。身体が大きいからベランダから落とすのには苦労したがね」
クックックと笑いながら答えるターナーに俺は必死で怒りを抑えつける。
「なるほどね…アルベルトさんはあんたみたいな奴も最後まで信用してたんだな…」
「あぁ、バカな奴さ。薬漬けになった愚かな王の事も最後まで気遣っていたな。あんな傀儡のために命を落とすとはな…」
ターナーは心底おかしそうに笑う。
「傀儡?どういうことだ?」
「この国の王はとっくにハリス地方長の操り人形なんだよ」
「ハリス地方長…」
「あぁ、そうだ。ハリス様は地方長の中でも最も教会長に近いお方だ。帝国の歴史の中でも僅かしかいない教会長にハリス様が就任されれば、俺が次の地方長だ」
ターナーは堪えきれぬ笑いを口の端から零しながら喋る。
「そのハリス地方長が何故サイラム国王を傀儡に?」
「それはこの地方がアリダ草の栽培に適していたからさ。アリダ草は雨を嫌う。その点雨が少ないこの地方は好適だ」
確かにこの世界に来てから雨に降られた記憶がない。
「初めはビジネスとして話を持ってきたのだよ?国としてアリダ草を栽培すればちゃんと謝礼を支払うとね…」
「だが、サイラム国もポートカルネもアリダ草の製造に全く興味を示さない。どちらも帝国に逆らうつもりは無いとこちらの好意を突っぱねやがった」
ターナーが下卑た笑いを浮かべる。
「そんな時に素敵な情報を掴んだ…何かわかるか?」
俺は首を横に振る。
「サイラム国王は妻を溺愛している…という情報だよ…」
吐き気を催すような下品な笑みで俺と未可子の顔を交互に見るターナー。
「…!?…まさか…」
未可子は悲鳴に近い声をあげる。
「うふふふふふ…そうだよ。お察しの通り、サイラム王妃を病気に見せかけて暗殺したんだ」
「ひどい…」
「サイラム国王は酷く悲しんで、そしてその後抜け殻のようになったよ…そこからは簡単だ。アリダ草を吸わせ、悲しみを和らげて差し上げた。するとどうだ?王様はアリダ草の有難みを知り、進んでベルトロス派に改宗し寄進に精を出し、差し出す物が無くなったら今度は隣国を攻め取りそれを教会に差し出そうとするじゃないか!素晴らしい信仰心だろ?なぁ?」
ターナーは大袈裟な身振りで俺達に同意を求める。
「信仰のためじゃない。薬のためだろう」
「どちらでも良いのだよ。こちらの懐に金が入ればね…」
俺の言葉にターナーは事も無げに言う。
「何故そんなに金が必要なんだ?」
「頭の悪い奴だなぁ…言っただろう?ハリス様は今1番教会長に近いお人だ。ただし、教会長になるには他の4人の地方長全員からの投票が必要だ。つまりそういうことだよ」
「つまり。票を金で買うのか?」
「そうだ。そうでもしないと地方長はそれぞれ自分に投票し続ける。だから教会長は100年もの間空位が続いていた。その席にとうとうハリス様がお座りになるのだよ!」
「金で買った地位に意味や名誉があるのか?」
「意味!?名誉!?はっ!バカバカしい!いいか?教会長になれば皇帝にも匹敵する権力を手に入れることができる。そうなればこの帝国が思いのままになるんだよ!」
「神はそんな事の為に信仰を求めたのか?」
「はっ!?…はははは!あーはっはっはっ!信仰?バカバカしい。神の力なぞ今はあってないようなものだ。魔法の力は人間にもたらされた。これからは神などいなくても十分に神の力を使いこなすことができる。いいか?信仰などとは目的ではなく手段だよ」
「そうか。ターナー。お前は人の道だけではなく信仰の道も外れてしまったか…」
「偉そうに。若造が!お喋りは終わりだ!死ね」
ターナーが腕を振り降ろすと魔獣が一斉にこちらを向いた。
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