Page.2 果実の滴

 その日も、男は彼女の豊かな膨らみに顔埋めて癒されていた。


 女も相変わらず優し気な表情で、彼の髪をぽんぽんと撫でている――が、なんとなしに普段とは違う雰囲気を感じ取っていた。


 いつものように、男がくいくいと腰を動かしはじめる。

 やっぱり可愛い…。女はそう思いながら、確認するように男に囁いた。


「安心おっきかな?」


 普段なら、すぐに頷くなどして何かしら肯定をするはずなのだが、その日は違っていた。


 女の問いに答えず、顔を見られまいとしているのか上げようともせず、ただひたすらに腰を動かしてしまっていた。

 心なしか、その動きは段々と激しくなっており、胸の中では震えるような小さな吐息が伝わって、小刻みに女の柔肌をほんのりと温めていた。


 もしや――と、女はおずおずと尋ねた。


「もしかして、えっちなおっき…?」


 その言葉に呼応するように顔を離すと、彼の表情は耳まで紅潮していて、今にも涙が溢れてしまいそうな程に崩れてしまっていた。


「ごめん…なさい…」


 声を震わせながら謝り、叱られた幼子のように顔を沈める。その姿に、女は胸がきゅんっと締め付けられてしまった。


「いいんだよ、そういう時もあるよね」


 心の内を面に出さないようにしながら、優しく諭す。そして、男の下腹部の膨らみを、服越しにそっと撫でてみせた。


「んっ…」


 その感触に男は堪らず声を漏らしてしまう。女がゆっくりとそれを上下に摩ると、膨らみが少しずつ、大きくなっているようだった。


「ベッドいこっか」


 女の提案に、彼はこくんと頷いた。




 無造作にブランケットなどが散乱するベッドの上に乗ると、男は膝を抱えて座り、女は上半身を全て晒した姿のまま正座で、それぞれ向かい合った。


 男の視線は、彼女のたわわなそれから外れそうもない。

 膝の隙間から覗かせる男の下腹部の膨らみを改めて見ると、はち切れそうな程になってしまっていた。


「脱ごっか…?」


 女が促すと、男は俯いたまま、おずおずとベルトを外し、座ったままズボンを脱いでみせる。

 肌に密着しているボクサーパンツの真ん中には主張の激しい膨らみ。その先端は、ほんのりと湿りを帯びているようだった。


 女はそれを見て優しく微笑む。そして、下着の裾に手を伸ばしてほんの少し下にずらし、彼に目配せをした。それで察した男は、少し躊躇いながらも、腰を浮かす。

 そのまま下着をぐいと脱がせると――彼女の目の前に、熱を帯びて聳り立つ欲望の塊が、勢いよく露わになった。


 びく、びくと脈打ち真上を向いているそれの先端からは、既に透明な雫が溢れてしまっている。


「もうこんなになっちゃってる…」


 言いながら女は、憐れむような表情を浮かべ、抑えきれなくなった欲望の象徴をじっと眺めた。


 男は彼女の視線が恥ずかしいのか少し腰を引かせるように動かすも、反動で先から雫を滴らせてしまう。


「ごめんね、苦しいよね」


 優しく声をかけながら、女はそっと抑え込むようにそれを握る。彼女のひんやりした手の感触に、それはびくんっと脈打ちながら、さらに熱く、硬くなっていった。


 彼は恥ずかしそうに視線を逸らす。その表情を伺いながら、女は握った手でゆっくりと摩りはじめた。


「んっ、ううっ!」

「我慢しなくていいからね…」


 声が漏れるのを抑えようとしているのが女には伝わっていて、何とも切ない気持ちになってくる。

 そして、少しずつ増していく悩ましい声に比例するように、扱く手を速めていった。


 次第に男は鼻息を荒くして、腰を小刻みに揺らし始めてしまう。


「えっちな動きしちゃってる…」


 ぽつりと女がつぶやく。


「だって…気持ち、いいから…」


 恥ずかしそうに控えめに俯いているその表情に反して、腰の動きはさらに激しくなっていった。


 なんていじらしいんだろう――心の中でそう呟きながら、女はそっと手を離す。

 そして、自らの豊満な膨らみを抱え、彼の聳り立つそれにあてがうと、二つの果実の間にきゅっと挟み込み覆い隠してしまった。


「ああっ…!」


 その温かく柔らかな感触に、男は堪らず身体を仰け反らせてしまう。


「私のここに、出して…?」


 そんな彼女の甘くて優しい一言が男の脳に響いて、全身に稲妻が走ったように刺激される――。

 女はその柔らかな果実で、彼の熱い欲望をふわりと包み込みながら、激しく、それでいて優しく、上下に撫で始めた。


 柔らかく重たい膨らみが彼の下腹に当たるたびに、ぱちん、ぱちんという湿った音が部屋に響く。


「はぁはぁっ…だめっ、あぁっ…!」


 あまりの刺激に、男は息を切らしながら身体を仰け反らせ、苦悶の表情を浮かべてしまう。しかし、そんな彼の意思に反して、下半身は快感を求めるかのように懸命に、何度も腰を突き出してしまっていた。


 早く解放させてあげたい――女はその一心でより一層激しく、豊かな果実で滾る欲望を擦った。


「あぁあっ…で、出ちゃうっ…」


 男は赦しを請うように、彼女の目を見て訴えかける。


「いいよ、出して…!」


 その瞳を真っ直ぐ見つめ返しながら、女は赦しの言葉を彼に与えた。


「うぅっ…うぁああっ!」


 言葉にならない叫びと共に、全身をびくんっと弾けさせ、滾った先端から濃厚な欲望の塊を噴き出す。男は彼女の赦しによって、そのたわわな果実を白く染めながら、果ててしまった――。


 止めどなく溢れる欲望を、女は豊かな膨らみで丁寧に受け止める。


「たくさん溜まってたんだね…。全部出していいからね?」


 そう言いながら絞るように双丘を動かすと、びくんと軽い痙攣と共に、最後であろう一滴が、弱々しくとろりと膨らみの上に滴った――。


 男は、全力疾走をした後のように息を切らしながら、後ろに倒れ込んでしまう。


「いっぱい出たね。すっきり出来たかな…?」

「う、うん。…ありがとう。すごく、気持ちよかった…」


 声を震わせながら、彼はどこか清々しさのある恍惚な表情で答えた。

 その姿に女も慈愛に満ちた表情を浮かべる。脇にあったティッシュ箱に手を伸ばすと、溜まったものを出し切って萎れた彼のものと、自らの豊かな膨らみを染めた欲望の証を丁寧に掬い取っていく。


「ごめん、こんなに出ると、思わなくて…」

「いいんだよ。それだけ普段頑張ってるんだから、気にしないで?」


 決まりが悪そうに謝る彼に、愛おしさを湧かせながら優しく微笑みかける。


 そして同時に――鼻腔をツンと刺激するような、彼の欲望の匂いが、密かに彼女の身体を火照らせていた。




「――シャワー浴びちゃおっかな」


 ひと通り事が終わると、女はあられも無い姿のまま呟く。


「俺も、自分の部屋で入ってくる」

「わかった。あ、ご飯あるけど、その後食べる?」

「…いいの?実はずっとその匂いも気になってて」

「ふふん、カレーだからね今日は。じゃあ、1時間後、でもいいかな」

「もちろん。じゃあまた後で」

「はーい!」


 そういって男は、いつものビジネスバッグを手に取ると、心なしか嬉しそうに部屋を後にするのだった。





「さて、私も早く入っちゃおう。……ちょっと長くなりそうだし」


 そう呟いて立ち上がると、彼女は脱いだ服を手早く片付け、颯爽と脱衣所へと向かう。


 通りがかりにふと立ち止まり、胸元に残る温もりにそっと手を添えた。そのまま、微かに鼻をすんと鳴らすと、顔をわずかに伏せ、照れくさそうに笑った。




 やがて浴室の扉が閉まり、シャワーの音が小さく響きはじめる。ときおり、水音にまぎれて、艶やかな吐息のようなものが聴こえたかもしれない。


 そのくぐもった音の奥では、彼女は火照った身体を鎮めるように、隅々まで身体を洗っているのだった――。

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