第22話 あずきへ

 あなたが私の肩に乗って、満足そうに喉を鳴らしていた音を、今でも時々思い出します。後ろ足をこれでもか!とバネにして、垂直に飛び上がってきた衝撃、肩にがっちり立てられた爪の痛さ。思わず笑ってしまった、興奮ぎみの鼻息。満足した後も、 私の肩や首元に体を預けてウトウトしていたこと。冬はカイロのようだったけど、春からは人間より高めの体温がじわじわと汗を呼んで、換毛期の抜け毛が首元にまとわりついて、正直鬱陶しかったこと。


 出会った頃の鳴き声と、この家で安心してからの鳴き声。顔を近づけると、首を傾けて鼻にキスをしてくれたこと。

 そしてなにより、最後の日々。力を振り絞って、肩に乗ってくれた日。異変に気づきながら、理由をつけて受診を避けていた私たちは、きっと貴女に多くの苦しみを与えてしまった。それでも最期まで、私の目の届く…それどころか、手の届く所にいてくれたこと。最期に間に合わなかった娘にも、ほんのり温もりを残してくれたこと。


 あれから何年も経って、娘の言うように、正直手触りや匂いは朧げになっているけれど、それでも、貴女がくれた幸せはひとつも色褪せてはいない。

 うちにくる運命だった。なんて言うと陳腐だけれど、どうしても都合よく考えてしまう私たちは、そうだったと思いたい。貴女は今でも、私たち家族の大切なお姫様。

 もしも、虹の橋が本当にあるとしても、その袂になんていなくていい。飽きるまで走り回ったら生まれ変わって、新しい家族からの愛情を一心に受けて、世界一幸せになるんだよ。


 ただ、ひとつだけ。できるなら、どうしてだか、人間の肩の上が好きな子として生きてほしい。


 私たち母娘と貴女が笑い合う場所が、いつだって私の肩の上だったように…。

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白黒はいつだって肩の上 うない ゆうき @mameazuamane

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