第24話「ルキナと築く、小さな家族」
家が建ってから、畑の時間はさらに穏やかになった。
朝は小さな縁側に並んで座り、ルキナと一緒に花や野菜を眺めるのが習慣になった。
「……今日も綺麗に咲いてますね」
「ふふ、そうだな。お前の耕した土が良いからだ」
ルキナはそう言って小さく笑い、小さな苗をそっと指先で撫でる。
「……私、最近よく夢を見るんだ」
「夢、ですか?」
「お前とこうして畑にいて……ハルゥと子供が遊んでる夢」
俺はびっくりしてルキナを見つめた。
ルキナは少し恥ずかしそうに頬を赤くして、視線を逸らした。
「……変か?」
「いえ、全然……俺も、同じ夢を見ます」
そう言うと、ルキナは目を見開き、それから小さく笑った。
「……ばか。そんなところまで一緒じゃなくていいのに」
でもすぐに肩を寄せてきて、そっと額を俺の肩に預ける。
「お前となら……いつかきっと、そんな未来がくる気がする」
「絶対にそうしましょう」
俺はそっとルキナの頬に触れ、その肌の冷たさと柔らかさを確かめる。
ルキナは目を閉じ、俺の手を自分の頬に押し当てた。
「……約束だ」
「はい、約束です」
「きゅいっ!」
ハルゥが縁側から飛び降り、畑の間を楽しそうに走る。
咲き誇る花々の間をくぐり抜け、小さな尾がひらひらと揺れた。
「……この子もずっとここで暮らせるんですね」
「そうだな。ここは私たちの家だ」
ルキナが立ち上がり、畑の中央に咲く一番大きな花を見つめた。
「この花がもっと増えて、ここが花で溢れたら……」
「はい?」
ルキナは小さく息を吐き、それから真っ直ぐに俺を見つめた。
「……そしたらお前に、私の剣を預ける」
胸がどくんと跳ねた。
「それは……」
「お前に預けたら、私は二度と戦に戻れない。……でも、それがいい」
ルキナの瞳が、まるで少し怯えているように細かく揺れる。
俺はそっとその手を取り、しっかりと自分の胸に抱いた。
「……預かります。絶対に剣を必要としない畑にします。だから……ずっと一緒に暮らしましょう」
「……ああ」
小さな声でそう言ったルキナの瞳が、涙で光っていた。
夜。
家の中の小さな灯りが、木の壁を暖かく照らしていた。
縁側のすぐ外でハルゥが丸くなり、時折「きゅ……」と寝言のように鳴く。
「……静かですね」
「そうだな」
畳の上で横になりながら、ルキナは俺の手を自分の頬に押し当てる。
「こんなに静かな夜を、私は知らなかった」
「これからは毎日そうですよ」
「……ふふ、そうだな」
ルキナがそっと体を寄せ、胸に顔を埋める。
「……お前の子を抱く夢も、いつか本当に見たい」
「……絶対に叶えましょう」
ルキナの体が小さく震え、それでもしっかり俺の腕を抱きしめてくれた。
「……お前となら、何も怖くない」
「俺もです。ルキナ様がいれば」
窓の外には、魔界の空にまた星が増えていた。
瘴気の空気はもうほとんど感じられない。
小さな家の中で、ルキナと寄り添いながら――
俺はこれまでの苦しみや戦いの日々を思い出し、それでもこの今を噛みしめた。
(ここが俺たちの居場所だ。剣も鎧もいらない、ただ耕し続ける場所――)
いつかこの家に、小さな足音が増えて、ハルゥがその後を追いかける日が来る。
その未来を想像しながら、俺はルキナをもう一度強く抱きしめた。
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