第五話:焦燥する令嬢たちと、ラブコメの加速

「選ばれなかったら不幸になるぞ~!」

座敷童の警告。

そして、私の不用意な失言。

麗華は、その瞬間、全てを悟った。

私の、あの焦った顔を見た時、

彼女の瞳の奥に、

新たな、燃え盛る炎を見た気がする。

この花婿争奪戦は、

私の想像を遥かに超え、

もはや、全面戦争へと突入した。


学園では、悠真くんを巡る攻防が、

日に日にエスカレートしていった。

麗華は、もはや手段を選ばない。

生徒会が主催する清掃活動中。

麗華は、わざとらしく悠真くんの隣に立ち、

「藤堂様、こちらの道具、重そうですわね。

わたくしがお持ちしますわ」

そう言って、悠真くんの手から道具を奪い取るふりをして、

彼の指先に、自分の指を絡ませた。

その瞬間、悠真くんの顔は真っ赤になり、

慌てて手を引っ込める。

その一部始終を見ていた私の胸は、

嫉妬の炎で燃え上がった。

ふざけないで。悠真くんに触れるのは、私だけのはずなのに。


廊下を歩けば、麗華は悠真くんと、

腕が触れるか触れないかの距離を保つ。

まるで偶然を装うように、

彼の耳元で囁くのだ。

「藤堂様…最近、お疲れのようですが、

わたくしで癒せるものなら…」

その甘い声が、私の耳にも届く。

悠真くんは目を白黒させ、

「い、いえ、そんなことは…」と、

声にならない声を出す。

彼の戸惑う姿は、私にとっては、

たまらなく愛おしい。

同時に、彼を奪い取ろうとする麗華への怒りが、

私の心の奥で、渦巻いた。


麗華の攻勢は、学園外にも及んだ。

週末、悠真くんが「少し買い物に行ってきます」と、

家を出ようとした時のこと。

屋敷の門前に、高級車が止まっていた。

中から現れたのは、麗華だった。

「藤堂様、お誘いした研究会の資料、

いくつかお持ちしたのですが、

よろしければ、今からご一緒に、

わたくしの別荘で確認されませんか?」

彼女は、完璧な笑顔で悠真くんに迫る。

悠真くんは、目を泳がせ、

私に助けを求めるような視線を送ってきた。

その視線に、私はぐっと唇を噛み締める。

家のため、という大義名分はもういらない。

彼を、誰にも渡したくない。

この独占欲は、私の本心なのだ。


私は、彼の隣に立ち、麗華に微笑んだ。

「鳳凰院さん。悠真くんは、この後、

私と、大切な予定があるのよ」

私の言葉に、麗華の目が、

わずかに見開かれた。

「あら、そうでいらっしゃいましたの?

それは失礼いたしました」

そう言いながらも、彼女の瞳は、

私への敵意を露わにしている。

そして、悠真くんの腕を、

するりと掴み、耳元で囁いた。

「では、また改めて、

わたくしからお誘いいたしますわね。

今度は、お二人では邪魔できませんわ」

その挑発的な言葉に、私の血が沸騰する。

悠真くんは、顔を真っ赤にして、

私の後ろに隠れるように身を寄せた。


麗華の挑発を受け、私は決意を新たにした。

家に戻ると、私は早速、

悠真くんのための「身体を張る取り合い」を仕掛けた。

夜、彼が自室に戻ろうとした時。

私は、バスルームから出てくる彼を待ち伏せた。

シャワーを浴びたばかりの彼は、

髪から水滴を滴らせ、

薄いTシャツの下に、鍛えられた体が透けて見える。

私の心臓が、大きく跳ねた。

顔が、熱い。

こんな姿の彼を見たのは、初めてだった。


私は、彼に近づき、

そっと、彼の腕に手を伸ばした。

彼の肌は、熱くて、滑らかだ。

「悠真くん…」

私の声は、甘く、誘うような響きだった。

彼の目が、大きく見開かれる。

そして、彼の顔が、

みるみるうちに赤く染まっていく。

「桐生院さん…その…」

彼の言葉が途切れる。

心臓が、ドクン、ドクン、と激しく鳴る。

この緊張感。このドキドキ。

これが、私にはたまらない。

麗華だけに、彼を独占させてなるものか。


私は、彼の腕に、自分の体をそっと密着させた。

彼の温かい体温が、

私の肌に直接伝わってくる。

「今日の清掃活動、お疲れ様でした。

悠真くんの頑張り、私、見ていたわ」

そう囁き、彼の耳元に、

自分の顔を寄せる。

私の髪が、彼の濡れた肌をくすぐる。

彼の息遣いが、荒くなるのがわかる。

「え、あ…ありがとうございます…」

彼の声が、ひどく震えている。

その戸惑う声に、私の胸は甘く疼いた。


そして、私の身体は、

さらに熱を帯びていく。

理性では抑えきれないほどに。

「あなたには…私しか、いないのですから」

半分は本音。半分は、

彼を誘惑するための言葉。

彼の手をそっと取り、

私の指を、彼の指に絡ませる。

熱い。彼の指先から伝わる体温が、

私の身体を、さらに熱くする。

もう、止められない。

私の秘めたる欲望が、

暴走しかけているのを感じる。


その時、リビングの照明が、

激しく点滅し始めた。

ガタガタと、食器棚の食器が揺れる。

テーブルの上の花瓶が、

今にも倒れそうだ。

座敷童の力が、コミカルに暴走している。

悠真くんの心の動揺が、

最高潮に達しているのだ。

彼は、顔を真っ赤にしたまま、

「わ、私は…その、どうすれば…」と、

言葉にならない声を出していた。

私の仕掛けた「身体を張る取り合い」に、

彼が、純粋にドキドキしている。

それが、私には、たまらなく愛おしい。

そして、同時に、

「よし、このままいける!」と、

闘志が燃え上がった。


麗華は、学園内で悠真くんを狙い続ける。

体育祭の競技。

麗華は、悠真くんとペアになるよう、

巧妙に生徒を誘導した。

二人三脚で走る悠真くんと麗華。

麗華は、わざとらしく体勢を崩し、

悠真くんにぴったりと寄り添う。

その度に、悠真くんの顔が赤くなるのが、

離れていても分かった。

私の身体が、熱を持つ。

「私だって、普通の女の子なのだから…」

私は、自分に言い聞かせた。

悠真くんの好意を引くために、

私も行動しなければ。

放課後、私はこっそり、

手作り弁当を悠真くんの机に入れた。

彼がそれを開けた時の、

驚いた顔を想像するだけで、

私の胸は、甘く疼いた。


悠真くんが、生徒会室に顔を出した時、

私は彼に、補習を申し出た。

「悠真くん、最近、少し学業が、

疎かになっているようだから。

私がお手伝いして差し上げましょう」

これは、生徒会長としての義務。

そう言い聞かせながら、

二人きりの補習室で、

彼と向き合う。

静かな空間。

私の吐息が、彼の耳元に届くほどの距離。

「わからないところは、遠慮なく聞いてちょうだいね」

そう言って、彼の手に、私の指が触れる。

彼の体が、びくりと震えた。

その反応が、私を、さらに大胆にさせた。


学園内で、悠真くんの「取り合い」が日常化し、

周囲の生徒たちも巻き込んだ、

コミカルな騒動が頻発する。

時には、麗華と私が、

悠真くんの隣を奪い合うように、

肘をぶつけ合うこともあった。

悠真くんは二人の間で振り回され、

隙を見ては逃げ出そうとする。

「僕は、ちょっと飲み物を…!」

そう言って、教室から駆け出そうとするけれど、

すぐに廊下で待ち構えていた麗華に捕まり、

引き戻される。

「あら、藤堂様、どちらへ?

わたくしと、まだ話がありますのに」

麗華の甘い声に、悠真くんの肩が震える。

別の時には、麗華から逃れた悠真くんが、

私の後ろに隠れるように身を寄せ、

「桐生院さん、助けて…!」と、

小さな声で訴えてきた。

そんな時、私は優雅な笑みを浮かべ、

麗華に向き直る。

「鳳凰院さん。悠真くんは、

私と生徒会の仕事がございますから。

邪魔をなさらないでくださる?」

上品な言葉遣いの中に、

確かな牽制の意を込める。

麗華は、私の言葉に一瞬たじろぐが、

すぐに負けじと、

「あら、わたくしは、

藤堂様の健康を気遣っているだけですわ」

と、皮肉たっぷりに言い返す。

悠真くんは、二人の会話の板挟みになり、

目を白黒させていた。


座敷童の力も二人の感情に呼応するように、

コミカルな形で発動し、

予想外のハプニングを引き起こす。

教室のロッカーが勝手に開いて、

中のものが散乱したり、

体育館のボールが、勝手に二人の間に転がってきたり。

悠真くんは、そのたびに、

「ひぇっ!」と小さな悲鳴を上げる。

彼は、学園中を逃げ回り、隠れ場所を探すが、

どこへ行っても、まるで二人の令嬢の、

レーダーに引っかかるかのように、

すぐに捕まってしまう。

図書室の片隅で参考書を読んでいれば、

麗華が隣に座り、吐息がかかる距離で、

「藤堂様、この部分がどうしても分からなくて…」

と、わざとらしく体を寄せてくる。

慌てて逃げ出せば、今度は私が、

廊下で彼を待ち伏せ、

「悠真くん、最近、運動不足ではないかしら?

私と一緒に、少し歩かない?」

そう言って、彼の腕を、

まるで恋人のように、そっと掴むのだ。

悠真くんは、二人の間で、

完全に振り回されっぱなしだった。


そして、その日の放課後。

麗華が、瑠璃と悠真くんの前に現れた。

その瞳は、涙で潤んでいたけれど、

その奥には、悲壮な決意が宿っていた。

「私は悠真様を諦めない!

私の家のためにも、

あなたたちを、潰すしかないのよ!」

彼女の言葉は、私の心を深く揺さぶった。

いよいよ、本当の戦いが始まる。

私の心が、焦燥と、

そして、奇妙な興奮に震える。

この花婿争奪戦、

私が、必ず、勝ってみせる。

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