第5話

「佑耶、どうしたの?」


佑耶はどうして立ち上がらないんだろう。


一緒に帰ろうと私を探しに来たのは佑耶なのに。


「美咲は何を願ったんだ?」

「え?」


佑耶からの突然の問いかけの意味が、私は一瞬本気でわからなかった。


「願い事だよ、願い事。ほら、今日クラスで配られただろ。七夕用の短冊」


佑耶はどうして、私にそんなことを聞くのだろうか。


「また今年も、いつもと同じことを書いたのか?」


嫌だなあ。


佑耶は意地悪だ。



去年も一昨年も、その前の年も、その前の前の年も。



物心ついたときから毎年同じことを書いてきたのに、未だに私の願いは叶っていないと知ってるくせに。



そんな聞き方をするのは卑怯だ。



「……叶いっこないから書かなかった。」



何も書いていない短冊が1枚、今も綺麗に鞄の中にしまってある。



短冊に願い事を書いて笹に掛ければ願いが叶うとか云うけれど、そんなの私は信じない。



去年までは信じてた。



信じようと思ってた。



だけど。



もう、信じられない。



七夕なんて信じられない。



佑耶なんて信じられない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る