暗く狭い箱の中
先日の引っ越しに伴う家の大整理で発掘した、ライブTシャツやマフラータオル類。手に取った瞬間、まるで昨日のことのように眼前にありありと浮かぶ初ライブの思い出。
――それは、私が高校生だった頃。当時住んでいた土地へは、私の好きなバンドはツアーで訪れることがなかった時代。どうしてもライブに行ってみたかった私は、初めての遠征を敢行した。初めてのライブハウス。初めての――いや、最初で最後かもしれない、最前3列目。
会場はDrum be-1。オールスタンディング、キャパは300ほど。この初ライブだけは、当時近くに住んでいた親戚(バンドには全く興味無し)についてきてもらった。
まず驚いたのが、客席とステージの近さ! そして轟音。他のバンドはどうなのか分からないが、比較的穏やかに楽しめるのが
心臓が痛いほどドクドクしている。なんだか泣きたいような、もう帰ってしまいたいような気持ちになる。開始時刻はとっくに過ぎた。時間が押すのは当たり前。緊張で吐きそうになりながら熱気を増す人々の隙間に立ち尽くしている。
……BGMが消える。照明が落ちる。会場の騒がしさが、一瞬でざわめきを飲み込んだ静寂へと変わる。体は熱いのに、サッと血の気が引くような感覚。
――――始まる。
そこからはもう、断片的な記憶しかない。ただひとつ確実なこと、それは……絶対にボーカルと目が合った。これは確かなことです。(ファンはみんなそう言う)
ライブ後のドリンクチケットで何を飲んだかは覚えていない。このときは未成年だからビールではないのは確か。
そうして私の初ライブは終わり、一泊することもなく親戚と共に帰ったのだった。
このライブハウスは、開場前は会場のすぐ目の前の公園に並んで待つシステムになっている。並ぶ前に白髪のおじいさんがやっている近くの喫茶店でコーヒーを飲んだこともあった。あの喫茶店、いまもあるのだろうか。このライブハウスには長らく行けていない。
あの「すみません、番号何番ですか?」と確認しあいながら並ぶ感じ。人見知り克服の第一歩だったように思う。今も人見知りには違いないが……必要なときにはきちんと人に声をかける訓練になった。(開場前に、お客さん同士で手持ちの整理番号を確認しあって順番どおりに並んで待つ、というライブハウス文化があるのです)
ライブチケット、今ではあの頃の2倍近くするようだ。ドリンク代も500円から600円に上がっている。600円ってちょっと払いにくそう。ここ数年、コロナ禍以降はひとつもライブには行けていない。
コロナ禍から始まった配信ライブ。現地参戦に比べると興が乗らず、数回の参加でやめてしまった。
ライブはほとんど一人で行くタイプで、フェスなんかは行ったことがない。映画も一人で行く。あんまり、趣味を誰かと共有したいという気概がない。
ここで語った具体的なバンド名は敢えて言いません。あまりにも大切すぎるものは、他の誰かの称賛も共感も、ましてや批評も無関心も、なにも受け取りたくない。あなたにもそんな大切な気持ち、ありませんか。
ではなぜわざわざ文章にしたかというと。誰にも見せるつもりもない美しい標本を、こうしてたまに取り出しては眺めて、また大事に
そう、これはただの独り言。
そしてただの備忘録。
見知らぬ土地の、小さなライブハウス。
きっとそこも誰かの標本箱のように、暗くて狭く、息もできないほどの熱気で満ちているのでしょう。
おわり。
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