『俺達のグレートなキャンプ56 野生の熊を蜂蜜トラップで撃退!』

海山純平

第56話 野生の熊を蜂蜜トラップで撃退

俺達のグレートなキャンプ56 野生の熊を蜂蜜トラップで撃退


山々に囲まれた静寂なキャンプ場。他のキャンパーたちが穏やかに焚き火を囲む中、一際賑やかなテントサイトがあった。そこには、いつものように石川が両手を大きく広げ、まるで世界征服でも宣言するかのような壮大なポーズを決めている。

「今回のグレートなキャンプは史上最高だ!」石川の声が山間に響く。その目は異様なまでに輝いており、まるで宝物を発見した海賊のような表情だった。

隣で千葉が期待に胸を膨らませている。彼の瞳はキラキラと星のように輝き、まるで子供がクリスマスプレゼントを待つような純粋さがあった。「石川さん、今度は何をするんですか?」声には抑えきれない興奮が込められている。

一方、富山は既に頭を抱えていた。長年の経験から来る嫌な予感が背筋を駆け上がる。彼女の表情は、台風が来ることを察知した気象予報士のような深刻さを湛えていた。「また始まった...」小さくため息をつく。

「聞いて驚け!」石川が人差し指を天に向ける。「野生の熊を蜂蜜トラップで撃退する!」

「!?」

千葉は目を丸くして飛び跳ねる。「うおおお!それは確かにグレートだ!」彼の興奮は頂点に達し、まるで宝くじに当選したかのような狂喜乱舞ぶりだった。

富山の顔は一瞬で青ざめた。血の気が引いて、まるで幽霊でも見たかのような表情になる。「ちょっと待って!熊って、本物の熊ですよね?」声が上ずっている。

「当然だ!このキャンプ場、熊出没注意の看板があっただろう?」石川が得意げに胸を張る。「俺達のグレートなキャンプで熊を撃退して、他のキャンパーたちのヒーローになるんだ!」

富山が頭を抱えながら割って入る。「ちょっと待って!それキャンプですることなんですか?普通キャンプって、焚き火したり、バーベキューしたり、のんびり過ごすもんじゃないんですか?なんで熊と戦うんですか?」その声は完全に呆れ果てており、まるで常識を失った世界に放り込まれた人のような困惑ぶりだった。

千葉が手を叩く。その音は乾いた拍手のようで、彼の興奮がいかに高まっているかを物語っていた。「さすがです!どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる!」

「楽しくなる場合じゃない!」富山の叫び声が森に響く。彼女の髪が逆立っているように見えるのは、決して風のせいではなかった。

石川は既に作戦を練っていた。彼の頭の中では、まるで軍師が戦略を立てるかのような計算が進んでいる。「蜂蜜を使った完璧な作戦がある。明日、町で材料を調達するぞ!」

翌日、三人は車で町へ向かった。石川の運転は普段以上に荒く、まるで救急車が病院へ急ぐかのような速さだった。彼の興奮は最高潮に達している。

「石川さん、運転気をつけて!」富山が助手席で必死にシートベルトを握りしめる。顔面蒼白で、まるでジェットコースターに乗せられた高所恐怖症の人のようだった。

「大丈夫だ!今日は運命の日だからな!」

スーパーマーケットに到着すると、石川は軍隊の補給係のような真剣さで買い物カートを押し始めた。「まずは蜂蜜だ!大量に必要だ!」

彼らが向かった蜂蜜売り場は、まるで石川の個人的な戦場と化した。棚に並ぶ蜂蜜瓶を片っ端からカートに入れていく。その様子は、まるで食料危機に備えて備蓄している人のようだった。

「石川さん、そんなに買ってどうするんですか?」千葉が驚く。カートは既に蜂蜜瓶で満杯になっている。

「アイス蜂蜜ボール用、落とし穴用、おとり用...色々必要なんだ!」石川の目は真剣そのものだった。

レジの店員は、大量の蜂蜜瓶を見て困惑している。「あの...何かのお祭りですか?」

「熊退治です!」千葉が無邪気に答える。

店員の表情が凍りついた。まるで地球外生命体と遭遇したかのような驚きの表情だった。

「熊...退治?」

「はい!蜂蜜トラップで!」

店員は無言で作業を続けた。彼の手は微かに震えていた。

キャンプ場に戻ると、石川は即座に作戦の準備を開始した。まるで軍事作戦の指揮官のような厳格さで指示を出す。

「千葉、氷を砕け!富山、蜂蜜を温めろ!」

「どうして私が...」富山がぶつぶつ言いながらも、長年の付き合いから来る諦めの境地で作業を始める。

石川は器用に蜂蜜と氷を混ぜて丸い球を作っていく。その集中力は、まるで芸術家が傑作を創造するかのような真剣さだった。「これがアイス蜂蜜ボールだ!投げつけて熊を混乱させる!」

「混乱って...」富山が呟く。

一方で、千葉は穴掘りに夢中になっていた。汗を流しながら、まるで宝探しをする冒険家のような情熱で土を掘り続ける。「石川さん、この穴で大丈夫ですか?」

「完璧だ!そこに温めた蜂蜜を入れる!」

富山が不安そうに見つめる中、石川は熱した蜂蜜を穴に注いだ。湯気が立ち上がり、まるで温泉のようだった。「これで熊が落ちたら、蜂蜜風呂で動けなくなる!」

「蜂蜜風呂って...」富山の表情はますます困惑した。

隣のテントから中年男性が心配そうに顔を出す。「すみません、何か大きな音がしますが...」

「熊対策です!」石川が胸を張って答える。

「く、熊?」男性の顔が青ざめる。

「はい!蜂蜜トラップで撃退します!」千葉が誇らしげに説明する。

男性は慌ててテントに戻った。その足取りは、まるで地震から逃げるかのような慌てぶりだった。

夜が更けると、三人は作戦の最終確認をしていた。石川の目は暗闇の中でも異様に光っている。まるで夜行性の動物のようだった。

「いいか、熊が来たら段階的に攻撃する。まずはアイス蜂蜜ボールで牽制、そして落とし穴に誘導だ!」

「了解!」千葉が敬礼する。

「私は見てるだけでいいですか?」富山が弱々しく尋ねる。

「ダメだ!チームワークが大事だ!」

そのとき、森の奥からガサガサと音が聞こえてきた。三人の体が一瞬で硬直する。空気が張り詰めて、まるで時が止まったかのような静寂が流れる。

「...まさか」富山が青ざめる。

「来たな...」石川の声が低く響く。

茂みから現れたのは、想像以上に大きな熊だった。その体躯は圧倒的で、まるで小さな車のようなサイズだった。熊の目は暗闇の中で鈍く光り、三人を見つめている。

「でけえ...」千葉が震え声で呟く。

熊は蜂蜜の匂いに引かれて、ゆっくりと近づいてくる。その足音は重く、地面を踏みしめるたびに鈍い音が響いた。

「作戦開始だ!」石川が叫ぶ。

最初のアイス蜂蜜ボールが熊に向かって飛んだ。しかし、熊は予想以上に敏捷で、まるでボクサーのようにひらりと避けた。

「え?避けた?」千葉が驚く。

「しぶといな...」石川が歯を食いしばる。

熊は怒ったような表情で三人を睨みつける。その目は完全に敵意を示していた。

「うわあああ!」富山が叫ぶ。

石川は次々とアイス蜂蜜ボールを投げつけるが、熊は器用に避け続ける。まるでドッジボールの名選手のような身のこなしだった。

「なんで避けるんだ!」石川が叫ぶ。

熊は一つのアイス蜂蜜ボールを前脚で叩き落とした。それは見事な一撃で、まるで野球選手のバッティングのようだった。

「バッティング上手い!」千葉が思わず感心する。

「感心してる場合じゃない!」富山が怒鳴る。

熊はゆっくりと歩いて落とし穴に近づく。三人は固唾を飲んで見守った。

「落ちろ、落ちろ...」石川が祈るように呟く。

しかし、熊は穴の前で立ち止まった。鼻をくんくんと動かして穴を嗅ぐ。そして、まるで「この程度の罠で俺様が引っかかると思うか?」と言わんばかりに、穴を大きく迂回した。

「賢い...」千葉が呟く。

「賢すぎる!」石川が叫ぶ。

熊は今度は直接三人に向かって歩いてくる。その歩き方は威圧的で、まるで王者の風格を持っていた。

「どうしましょう、どうしましょう!」富山がパニックになる。

「最後の手段だ!」石川が鍋とフライパンを取り出す。

「音で撃退作戦?」千葉が理解する。

「そうだ!みんなで大きな音を出すぞ!」

三人は必死に鍋やフライパンを叩き始めた。カンカンガンガンと大きな音が森に響き渡る。

しかし、熊は音に慣れているのか、少し耳を振る程度で全く動じない。それどころか、まるで「うるさいな」と言わんばかりに、さらに近づいてくる。

「効いてない!」千葉が叫ぶ。

「なんで効かないんだ!」石川が困惑する。

そのとき、富山が突然大声で歌い始めた。「ドーレーミーファーソーラーシードー!」

その歌声は音痴で、まるで猫の鳴き声のような不協和音だった。

熊が突然立ち止まった。耳を振り、明らかに嫌そうな表情を見せる。

「おお!効いてる!」石川が興奮する。

「富山、続けろ!」千葉が叫ぶ。

富山は必死に歌い続ける。「きーらーきーらーぼーしー!」その歌声は恐ろしく音痴で、まるで拷問のようだった。

熊はついに耐えられなくなったのか、後ずさりを始める。しかし、まだ諦めていない様子で、時々立ち止まって三人を睨みつける。

「まだ諦めてない!」千葉が指摘する。

「しぶとい熊だ!」石川が歯を食いしばる。

そのとき、石川にひらめきが降りた。「そうだ!蜂蜜を熊に直接ぶちまけるんだ!」

「え?」富山が歌を止める。

「蜂蜜でベトベトにして動けなくするんだ!」

石川は大きな蜂蜜瓶を抱えて熊に向かって走る。その勇姿は、まるで戦士が最後の突撃をするかのような迫力があった。

「石川さん、危険です!」千葉が叫ぶ。

石川は熊に向かって蜂蜜瓶を投げつけた。瓶は熊の頭に直撃し、蜂蜜が熊の全身にかかった。

熊は蜂蜜まみれになって、まるで蜂蜜の妖怪のような姿になる。そして、自分の体についた蜂蜜を舐め始めた。

「あ、蜂蜜を舐めてる...」千葉が呟く。

熊は蜂蜜の味に夢中になり、三人のことを完全に忘れてしまったようだった。ペロペロと蜂蜜を舐めながら、まるで幸せそうな表情を浮かべている。

「えーっと...成功?」富山が困惑する。

「いや、これは想定外だ...」石川も困惑している。

熊は蜂蜜を舐め終わると、満足そうに三人を見つめた。そして、まるで「美味しい蜂蜜をありがとう」と言わんばかりに、軽く頭を下げて森の奥へ帰っていった。

「帰った...」千葉が呆然とする。

「お礼をされた気がする...」富山が苦笑いする。

「これも俺達のグレートなキャンプだ!」石川が無理やり明るく言う。

翌朝、他のキャンパーたちが集まってきた。昨夜の騒動を聞きつけたようだった。

「本当に熊を撃退したんですか?」中年男性が驚く。

「撃退というか...」石川が言葉を濁す。

「蜂蜜をあげて帰ってもらいました」千葉が正直に答える。

「それはそれで平和的解決ですね」女性キャンパーが感心する。

「でも危険でしたよ」富山が苦笑いする。

「今度は何をするんですか?」子供が目を輝かせて尋ねる。

石川の目が再び異様に光った。「次回は...宇宙人を呼び寄せる!」

「また始まった...」富山が頭を抱える。

「宇宙人!?」千葉が興奮する。

「やめて!もう十分グレートです!」富山の叫び声が森に響いた。

こうして、石川達の第56回グレートなキャンプは、予想外の平和的解決で終わった。熊は蜂蜜をお礼にもらって満足し、三人は無事に生還した。

しかし、石川の奇抜なアイデアは止まることを知らない。次回の宇宙人召喚作戦で、果たして三人はどんな騒動を巻き起こすのか?

富山の心労は続く...

〜完〜

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『俺達のグレートなキャンプ56 野生の熊を蜂蜜トラップで撃退!』 海山純平 @umiyama117

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ