第2話

男の頭から数cmズレた壁に足は当たり、壁は破壊されている。男は腰が抜け、崩れ落ちた。蓮斗は梨奈の方に向かい、ガムテープを解いて梨奈を椅子から解放した。すると梨奈は男の方へと駆けていき、男の心配をした。蓮斗も男の元へ行き、尋ねる。


「何か事情があるなら聞く。話してみろ。」


すると、口を開いたのは梨奈だった。


「私とお兄ちゃんは‥‥」


梨奈が話そうとした時、男が止めた。


「俺から話す。」


男は座り直して蓮斗に目を合わせて話し始めた。


「俺と梨奈は普通の家に生まれたんだ。裕福でも貧乏でもない普通の家庭。父さんと母さんと梨奈と一緒に四人で幸せだったんだ。でも、十歳の時だ。父さんが死んだ。不慮の事故だったんだ。みんなで泣いて、また三人で頑張ろうって立ち直った。それから少し経って中学の時、母さんが新しい父さんを連れてきた。新しい父さんは過去の話を親身に聞いてくれていたみたいで、片親として頑張り、疲れていた母さんの支えになってくれていたみたいだったから歓迎した。人は変わったけれど、四人でこれから幸せになる‥‥筈だった。高校に入学する少し前に母さんが死んだ。新しい父さんは裏社会の人間で、元から母さんを騙すつもりだったらしい。俺は妹の梨奈を守るためにあいつらのグループに従った。こんなことをしたのも命令だっあ。新しい父さんあいつは俺達家族からお金や自由‥‥‥母さんまで奪ったんだ!!」


男の表情かおは怒りに満ちていた。


「どんな理由があろうと守りたかったやつをこんな目に遭わせて、関係ないお前まで巻き込んじまった。こんなこと言っても許されないとは分かっている。本当にごめんなさい‥‥‥」


男は地面に頭を擦り付けながら謝った。涙を流して許しを請う。そんな姿を見た蓮斗は動揺していた。どう声をかけるのが正解なのか分からない。半端な事を言っても目の前の彼を救うことは出来ない。


「ごめんなさい‥‥」


蓮斗が考えていると、梨奈も頭を下げてきた。

日も落ちてすっかり外は暗くなってしまっていた。月明かりが窓から差し込んでいる。蓮斗が外を見ると何かがこちらへ飛んできている。回転しながら向かってきて、窓ガラスを割った。蓮斗が飛んできた物を避けると、は床に突き刺さった。飛んできた物はだった。


「来た‥‥!!だ。」


男が言った。


「俺はあいつらにいつも命令をされている。今回は学校のやつを殺せと言われた。その様子が見たかったらしい。それが失敗してしまった‥‥後始末は当たり前だ。‥‥‥お前、こんなことしといて悪いが梨奈と一緒に逃げてくれ。」


男の言ったことに梨奈と蓮斗は驚いた。


「お前はどうするんだ。」


蓮斗が聞いた。


「俺はあいつらの相手をする。頼んだぜ。」


外には五人の男達がいるのが見える。


「お前、名前は?」


「蓮斗だ。」


「そうか。俺は綾人あやとだ。そういえば蓮斗のあの強さって‥‥」


「少し格闘技をかじってただけさ。」


「そ、そうか‥‥?まぁ、任せたぞ。」


話し終わると綾人は工場から出て男達の方へと歩いていった。綾人は男達と少し話すと、殴られ蹴られ、ボコボコにされている。綾人も攻撃しようとするが、相手は五人と多い、抵抗も虚しくやられ放題だった。


「お兄ちゃん‥‥」


梨奈が泣き始める。蓮斗は綾人を見続けていた。ボコボコにされて動けない綾人に向かって1人の男がふところから拳銃を取り出す。止めないと。その言葉が蓮斗の心の中に浮かんだ。しかし、体は動かない。

(ここで止めに行くと‥‥俺は‥‥‥裏切ることになる‥‥)

疑心暗鬼になる蓮斗の手を掴んだのは梨奈だった。


「お願い‥‥お兄ちゃんを‥‥助けてぇ‥‥」


その言葉を聞くと同時に忘れていた記憶が蘇る。


『君は正しい事のために行動出来る人間だ。正しいと思ったらそれに従うといい。その時に僕たちのことは気にしなくていいから。』


とある青年の声。その声を聞いた瞬間、蓮斗の体は動いていた。




一方その頃、綾人は‥‥‥‥


「お前は終わりだ。」

男が拳銃を向けながら言う。


俺は終わりだ。何のための人生だったんだろうか。こんなやつらに全てを奪われて、挙げ句の果てには関係ないやつも巻き込んで、何も出来ずにこんな‥‥‥‥

いや、まだ梨奈がいる。蓮斗が一緒に逃げてくれている筈だ。俺はここで、死ぬんだ。


「ゴミ共が、失せろ」


綾人が最後の抵抗を見せると男は鼻で笑い、引き金を引いた。


バンッ


銃声と火薬の臭いが辺りに広まる。煙が出ている銃口は、夜空に向いていた。

撃つ瞬間、側までやってきていた蓮斗が男の拳銃を持っている腕を掴み拳銃を上へ、夜空へと向けていた。


「こいつ!いつの間にっ!!」


男は拳銃を持っていない方の腕で蓮斗を殴ろうとする。が、蓮斗は握った手の甲でノックをするように男の顔を殴った。男は崩れ落ちて気絶した。


「てめぇ!何者だ!?」

三人の男はナイフを取り出して一斉に蓮斗へ襲いかかる。すると蓮斗は、瞬く間にそれぞれのナイフをいなし、殴りと蹴りで気絶させる。残り一人の男は逃げ腰になりながら拳銃を取り出し、蓮斗へ何度も撃つ。蓮斗は一人から奪い取ったナイフで撃ってきた銃弾を弾く。何度も撃ったせいか、拳銃の弾は切れ、男は拳銃を捨てて両手を上げた。


「降参!降参だっ!!」


それを見た蓮斗はナイフを置き、回れ右をして綾人の方へ歩き出した。それを見た男は蓮斗が置いたナイフを手に取ろうとしたが蓮斗が顔面に殴りを入れて地面に叩きつけると気絶をした。

綾人は驚いた様子で尋ねた。


「蓮斗、やっぱりただ格闘技やってただけじゃないだろ!?一体何者だお前!」


蓮斗は答えた。


「俺の本当の名前は蓮夜れんや=クロフォード。元裏社会の人間で、前の皇帝、旧帝の守護者をやっていた者だ。」

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