天盾の守護者
ぴちあぷ
第1話
とある日、この街の“皇帝”が何者かに命を奪われた。皇帝とは、最も強大な力を持ち、街を支配する“皇帝”。その座を狙う者は後を絶たず、ついには裏社会の手によって命を落とすこととなった。だが、皇帝の座を継いだのは襲撃犯ではなく、前皇帝の一人息子だった。当時彼はまだ中学生、幼い皇帝の誕生であった。幼き皇帝にとって、裏社会の脅威はあまりに大きかった。警護や支援の人員も激減し、このままでは父と同じ運命を辿るのは時間の問題だった。そこで彼が選んだのは、なんと裏社会の人間を自らの“守護者”として迎え入れること。常識を覆す決断だった。
そしてその3年後、皇帝は命を落とした。
さらにそこから6年後........
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白いシャツの上に黒のブレザーを着て、緋色のネクタイを締める。高校2年生の
蓮斗はこの街の公立高校に通っている。
今日も地下鉄に乗って登校する。人混みの中、押し潰されながら電車に揺られる。
駅に着くとそこから10分程歩いた所にある高校。
門を通って校舎へと歩く。
「お~い!!蓮斗!」
後ろから元気の良い声が聞こえる。
「朝から元気だな。お前は。」
爽やかな少年、
「空元気でもいいから無理にでも気分上げなきゃやってらんねーぜ!!」
和孝は蓮斗の背中をバシバシと叩きながら笑っていた。
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授業中。歴史の授業で、教師が黒板に音をたてながら文字を書いている。
「お前ら、この街のトップは知っているな?一番力を持っている者が"皇帝"となり、この街を治める。皇帝の親族は貴族と呼ばれ、身分が高くなるんだ!ん?お前聞いているか!!?」
教師が余所見していた女子を叱った。その隣の女子が手を上げた。
「でも先生~!皇帝って何年か前に死んじゃいましたよね~?怖い人たち?でしたっけ?今の皇帝ってその怖い人がやってるってことですか?」
教師はため息を吐いて小声で話し始めた。
「明言はされてないがな...多分...そうだ。俺は早く皇帝の選定と監視をするための機関を作るべきだと思うんだけどな。あ、あんまこういうこと言うんじゃないぞ?消されたりするかもしれないからな。」
教師の話が終わると同時にチャイムが鳴った。昼休みに入った。席に着いたまま欠伸をしていると横に和孝が来た。
「なぁ、少し着いてきてくれねぇか?」
「どこに?」
「職員室。」
「なんで?」
「朝提出だった課題、今終わったから。」
少し、少しだけだ。面倒くさいと思った。相当顔に出ていたのか?
「蓮斗お前、すげぇ嫌そうな顔してんな。そこまでか?」
和孝に言われてしまった。和孝に強引に手を引かれ、教室から連れ出された。
昼休みに入ったばかりで人通りの多い廊下を歩いていると、とある男子とぶつかった。ごめん。と、一言謝ったがあっちは振り向きもせずに去っていった。
具合でも悪いのだろうか?そう思っていると和孝が口を開いた。
「今のあいつ、あんま関わんない方がいいぜ。知り合いのやつから話聞いたんだけどさ、中学生の時は明るくて普通のやつだったのに高校から様子がおかしいらしい。噂では裏社会のやつらとつるんでるとか言われてるぜ。ま、体格は良いっぽいし是非ウチの部活に来てくれないかなとか考えてるんだけどさ。」
「裏社会か...」
「蓮斗?どうかしたか??」
なんでもない。と和孝に返事をした。
「あぁ、さっきのあいつの双子の妹がウチのクラスにもいるぜ。
「ふ~ん。」
「興味ないな!?まぁいいや!腹減ったから早く先生に渡して戻るぞ!急げ!」
蓮斗と和孝は職員室へ急いだ。
昼休みが終わり、午後の授業が終わる。放課後、人がいない静かな教室に蓮斗は1人で居た。夕暮れの光が窓から差し込んでいて、外からは部活をしている人たちの声が聞こえる。蓮斗は少し考え事をしていてこんな時間まで教室にいた。
「あの時、、」
そう呟いて頭を振った。バッグを持って帰ろうとする蓮斗。ふと、教室の端にある机の上に紙切れがあるのが見えた。紙切れには『この席の娘は預かった。返して欲しければこの場所へ来い』と、文と地図が書かれていた。ここの席は、梨奈の席だ。昼休みにぶつかったやつの妹。
ただの悪戯かと思い、紙切れを丸めてゴミ箱に捨てて帰った。
部活動をしていない蓮斗は正門の近くで練習をしている陸上部を尻目に帰路に着く。すると、陸上部の和孝が目に入った。昼休みの和孝が言ったことを思い出す。
「裏社会...」
蓮斗は帰路を外れてとある場所へと向かった。
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街の外れにある廃工場。紙切れの地図に書かれていた場所。重い大きな扉を押し開ける。中に入る。足音が鳴る度に工場内へ響く。蓮斗が見回すと工場の奥に動くものが見えた。近づいてみると、それはガムテープで椅子に括り付けられた梨奈だった。
「蓮斗くんだよね!助けてくれない!?」
梨奈は暴れてガムテープを解こうとしていた。
「犯人は?近くにいないのか?」
蓮斗が尋ねると梨奈は黙り込んだ。不思議に思いながらもガムテープを解こうとしたその時。背後から駆ける足音が聞こえ、振り向くと、男がナイフを持って突っ込んできている。蓮斗が咄嗟に避けると男はナイフを振って蓮斗を襲おうとする。
「落ち着けっ!どうしたんだ!」
振り上げた腕を掴んで止める。しかし、振りほどかれてしまった。男は何か悔しそうに歯を噛みしめながら言った。
「俺は...」
途端に男は蓮斗目掛けて物凄い速さで距離を詰めてきた。
(この速さは…?)
普通の人じゃ出せない速度。ナイフを構えて蓮斗を追う男。
「なんでっ!なんでだよぉ!!」
男はそう言った。椅子に括り付けられている梨奈も目を見開いて唖然としている。
「なんで避けられるんだよぉ!!」
蓮斗は目で追うのもやっとの速さの攻撃を躱していたのだ。
「はぁ...!はぁ...!」
男は当たらないナイフを振り続け、息が切れてきていた。猛攻が止んだ。再度、落ち着けと声をかける。すると男は、
「お前に...何が分かるんだっ!!」
そう言ってナイフを構えて向かってくる。すると蓮斗も構えた。拳を構え、左足を前へ出して床を踏みつける。床は蓮斗の踏み込みで凹む。向かってくる男に向かって右拳を突き出す...‥‥フリをした。男は右拳を突き刺すようにナイフを前に出した‥‥‥が、蓮斗は右手を止めて右足を後ろから前へ出し、男の握っているナイフを上へ蹴り上げた。ナイフは回転しながら上がり、工場の天井へと突き刺さった。男も梨奈もきょとんとしていた。蓮斗は男に言った。
「なぜだ‥‥なぜ妹をこんな目に遭わせてんだ!!」
蓮斗は男と話し合おうとした。しかし、男は
「お前は知らなくていい‥‥」
そう言って今度は拳で蓮斗を襲う。蓮斗はナイフの時と同様に攻撃を躱しながら男に呼び掛ける。
「お兄ちゃん...もう止めて...」
梨奈が泣きそうな声で言っている。
「何かあるんだったら話は聞くっ!!だからもう止めろっ!!」
蓮斗が呼び掛けても猛攻は止まる気がしない。そんなことをしていると、蓮斗は壁際に追い詰められてしまった。その事に気づいて気を抜いた一瞬の隙に男に首を掴まれてしまった。そのまま男は反対側を向き、顔を殴られ蓮斗は向こうの壁まで飛ばされてしまった。
「お前に何が分かるんだ!!」
男は息を荒くしながら叫んだ。それを聞いた蓮斗はゆっくり立ち上がる。
「そうか。じゃあもういいよ。」
男は蓮斗から漏れる何かの気配を察知し、身構えた。しかし、その時には遅かった。蓮斗は地面を蹴り、反対側に居る男の目の前まで来ていた。この距離を一瞬で。先程の男の速度の二倍、三倍‥‥いや、十倍はあるであろう速度で男との距離を詰めていた。そして空中で構え、男の頭目掛けて右足を振った。爆発音のような音が工場内に鳴り響いた。
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