月の浜辺の鎮魂歌
木沢 真流
第1話
あるところに、愛を知らない一匹のオスの狼がいました。狼は他の狼が持っている花がうらやましくて仕方ありませんでした。いつもきれいで、にっこりと微笑みをくれる花。自分にそのようににっこりと微笑んでくれるものは何もありませんでした。
あるとき、狼は他人の狼が見ていない隙に、どうしてもほしくなった花をむしりとってしまいました。手に取った花が美しく、それをぎゅっと抱きしめました。
巣に持ち帰ると、隣に寝かせ、目が覚めたらこの美しい花があるのかと思うと嬉しくて仕方がありませんでした。狼は目を閉じるとそのまま夢の世界に入りました。
目が覚めると、目の前には昨日の花はありませんでした。代わりに萎びて枯れて変わり果てた残骸が残っているだけでした。目を覚ました時に、あの美しい花が見られると思った狼はひどく落胆し、その残骸を外に捨てました。
その後も何回か同じことを繰り返しましたが、何度やっても同じ。自分に微笑んでくれるものはいないんだ、狼はそう思うと耐え難い孤独が押し寄せました。
そんな狼にも春はやってきました。想いを寄せるメスの狼が現れたのです。2匹は結ばれ、2人の間には美しい花が咲きました。その花はいつも自分に向かってにっこりと微笑んでくれる、今までずっと狼が欲しかった美しい花でした。
不幸にも病気で亡くなってしまったメスの狼の分も、オスの狼は必死に生きました。自分に微笑んでくれる花がいつまでも美しくいられるよう、必死でした。
そんなある時、事件が起きました。
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