第7話 冷気と野菜のデスマッチ! 氷の苗床と灼熱トマト
勇者農園の勝利に沸く夏の終わり。
だが、異変は静かに――そして確実に、忍び寄っていた。
*
「……なんだ、この寒さ」
早朝、俺は畑で異変に気づいた。
空は快晴、季節は夏の終盤にもかかわらず、畑の東側の土が――白く凍っていた。
霜。しかも、普通の霜じゃない。
まるで魔法のように、一夜にして“凍結”していたのだ。
「ユウト様! ご覧ください、王都からの緊急報が!」
クラリスが駆けてくる。手には王印の封書。
「王立魔導院の報告によれば、東の峡谷“クレバス・デルタ”にて《氷の苗床》と呼ばれる魔族由来の植物が急速に拡大中。対象植物は、周囲の熱を吸収し、凍土を形成。周辺作物が壊滅状態とのことです!」
「……やっぱり魔族か。冷害なんて、農業にケンカ売ってんのかアイツら」
このままでは、王都周辺の作物が全滅しかねない。
さらに放置すれば、凍結被害は村々を襲い、国全体の食糧危機にまで発展する。
「ユウト様、わたくしも参りますわ!」
「もちろん。クラリスの水じょうろ、今回も頼りにしてるからな!」
「今回は《熱湯機能》付きですのよ!」
「え、なにその魔改造!?」
*
数時間後、俺たちは問題の地――クレバス・デルタの入口にいた。
冷気は、まるで生き物のように吹き出していた。
「これは……すごい冷気。普通の霜とは全然違う……」
氷に覆われた地面を慎重に進む。
すると、見えてきた。
それは――まるで氷のトマト畑。
透き通る果実、ツララのような茎、全体が氷でできた植物群。
中心には、玉座のように鎮座する巨大な“氷の芽”。
「……あれが《氷の苗床》か……!」
スキルを起動する。
しかし――
「……っ!?」
眩しすぎる。
どの部位も“収穫適期”の光を放っている。これは……罠だ。
「ユウト様!? どうなさいましたの!」
「これ……“偽装適期”だ。魔族のトリックで、全部収穫に見せかけてる!」
「な、なんという悪趣味な魔法……!」
その時だった。
「……よくぞ見破ったな、人間農家よ」
低く響く声。空気がさらに冷たくなる。
氷の苗床から現れたのは、銀色の髪に青白い肌を持つ――魔族の女だった。
「我は《霜晶の園丁(しもしょうのえんてい)》グラシエラ。魔王陛下に仕える氷の栽培士」
「なんで魔王軍に栽培士なんて役職あるの!?」
「野菜を支配すること、それすなわち世界を制す……魔王陛下の言葉である」
「それどこの農業系魔王様!?」
グラシエラが指を鳴らすと、氷の植物たちが唸り声を上げて動き出す。
「くっ……氷トマトが来ますわ! ユウト様、あれは……燃やさないと……!」
「よし、あれを使おう。農園裏にあった、あの激アツ素材!」
俺が取り出したのは――
「
真っ赤な果皮、常に高熱を帯びた灼熱系野菜。調理時に注意が必要なほどの熱量を持つ、農園の秘密兵器だ!
「いっけええええええええッ!!」
俺はそれを手投げ弾のごとく、氷トマト軍団に叩きつけた!
——バチィッ!!
氷にぶつかった瞬間に炸裂し、激しい熱反応が起こり、氷の植物が一気に溶けていく!
「……なに!? この温度は……ッ!!」
「冷気には熱で対抗するって、科学の基本だぜ!」
「それは……食べ物か!? 本当に食べ物なのか!?」
クラリスも続く。
「わたくしの《熱湯じょうろ・マークII》、発射準備完了ですわ!」
「何!その名前!? じょうろが戦闘ロボになってる!!」
そして、俺はスキルに集中する。
氷の苗床の“核”――そこだけ、“真の適期”が見える。
「見えた……あそこだ!」
俺の鎌が、黄金に光る芯へと向かって――
ザクリッ――!
「収穫、完了だッ!!」
次の瞬間、氷の植物が一斉に凍りつき、砕けて消えていった。
静寂。
「や、やった……!」
クラリスとハイタッチを交わす俺。
だが、グラシエラは悔しそうに叫ぶ。
「……まだ終わらぬ。氷は芽吹き、また熱を奪う。我ら魔族の“農業戦線”は、始まったばかりよ!」
「農業戦線ってなに!? もうカテゴリがバグってる!!」
彼女が消え去った後、俺たちは凍結被害の回復作業に取りかかった。
クラリスのじょうろで、溶けた土を癒やし――
俺のスキルで、根を見極め、新たな種を蒔く。
「ユウト様、わたくし……やっぱりこの仕事が好きですわ」
「ああ、俺も……戦いじゃなくて、土と向き合ってる時間が一番好きだよ」
二人の影が、夕暮れの土に重なる。
(守りたいものがある。だから俺は、農家であり、勇者なんだ)
*
そして夜。
王城の宴席で、国王が告げる。
「ユウト殿。クラリスの農業教育は、極めて有益であった。よって、そなたに“農業公爵”の爵位を授ける」
「ちょ、ちょっと待て!? それって貴族入り!?」
「それともう一つ――クラリスとの婚約を考えるように」
「えええええええええええええええッ!?!?」
次回!
「農家、貴族になるってよ!? 王女との結婚と畑の両立問題」
地位と恋と収穫の三重苦!
ユウト、畑と政略の間でまたしても苦悩!?
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