第5話 王都農園、始動! そして迫る“王女の婚約者問題”
魔野菜との戦いから数日。
俺はようやく、畑に戻ってこられた。
場所はもちろん、《勇者ユウト様農園・王都出張所》。
名は相変わらずだが、土は正直で、今日もいい具合になっていた。
「ふう……やっぱり畑が一番落ち着くなあ……」
草を抜き、ウネを整え、種を蒔く。
汗をぬぐうその隣で――シャッシャッシャと、クワを振るう音が聞こえる。
「ユウト様! 新しく借りた区画にも、根菜を植えましょう! わたくし、カブに挑戦してみたいのですわ!」
「王女がカブの挑戦って、ミスマッチすぎる……」
そう、クラリス王女はあの後正式に「農業研修」の名目で、俺の農園に通うようになった。
王都では既に噂になっているらしい。
《王女様が勇者の畑に通っている》
《二人は収穫婚を目指している》
《いや、すでにナスは抜かれたらしい》←意味不明な噂
だが、そんなのはどうでもよかった。
「クラリス、あのカブの苗、間隔が狭すぎると葉が育たないぞ」
「えっ!? で、ではこれくらいですか?」
「うん、そのへん。あとは深さを指の第二関節まで……って、俺の指じゃ分かんないか」
「いえ、ユウト様の指なら……その、大丈夫ですわ……!」
「うん? 今、なんか変な意味に聞こえたような……?」
「き、気のせいですわ! さあさあ、どんどん耕しましょう!」
そんな風に、バカみたいに平和な一日を過ごしていた――
その、夕暮れまでは。
*
「王女殿下、あまりにご無体ですぞ!」
そう怒鳴り込んできたのは、一人の貴族風の男だった。
背は高く、金色の髪、気取った口調。だがその目つきは、妙に冷たい。
「……誰?」
「貴様ごとき雑農夫には名乗る価値もないが、敢えて名乗ろう。エルヴィン・フォン・ガルネリ。第三王女・クラリス殿下の“正式な婚約者”だ」
「……へ?」
「ちょ、ちょっと待って下さいましエルヴィン様! その話はまだ、王家で協議中でして……!」
「だが、すでに王の覚えめでたく、近々正式発表がなされるはず! それを貴様……雑農夫ごときがクラリス殿下を籠絡したとは何事か!」
「いや、籠絡って! 俺は、毎日泥だらけで、畑仕事しているだけだぞ!?むしろ篭絡されたのは、こっちの方だぞ!?」
話の方向が急すぎて脳が追いつかない。
王女に政略結婚の噂があるのは知っていたが、まさか今このタイミングで目の前に出てくるとは。
「王女が農園に通うなど言語道断! 貴様は即刻、クラリス殿下との接触を禁じる!」
「はぁ……なあ、クラリス。どうなんだよ、これ」
俺の問いに、クラリスはしばし黙ってから、まっすぐ俺を見て言った。
「わたくしには……王女としての義務があります。ですが、それ以上に“農家見習いクラリス”として、ユウト様のそばにいたいのですわ!」
「くっ……そんな子供じみた戯言に!」
エルヴィンが詰め寄ってくる。
「ならば“農民”勝負しろ。もし貴様が勝ったなら、クラリス殿下との接触を“考慮してやってもよい”!」
「何その上から目線!」
「逆に敗北すれば、即刻クラリス殿下と距離を置いてもらう!」
「なんでそんな勝手にルール作ってんの!?」
だが、王女の立場を考えれば、俺に反論する権利はない。
この俺が“結果”を出せるかどうかで、すべてが決まる。
「……わかった。その勝負、受けてやる」
俺はカマを握り直し、空を見上げた。
(王女と農業を守るため……農家だって、やるときはやるんだよ)
*
「というわけで、
「えっ、何その突然の事業化!?」
「はい、国王直々の布令です。“クラリスの人生を懸けるのだから大々的に”とのこと」
「なんでそんな高圧的なプロジェクトぉぉぉ!!」
こうして俺たちは、政略・恋・農業の三重苦の中、夏の農業フェスティバルに挑むことになる。
もちろん、クラリスと共に。
次回!
「婚約者とスイカ割り勝負!? 夏の農業フェスティバル開幕!」
貴族vs農家!王女を賭けた農作物バトルの行方は!?
スイカと恋の行方は、君の心に――
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