第5話 王都農園、始動! そして迫る“王女の婚約者問題”



 魔野菜との戦いから数日。

 俺はようやく、畑に戻ってこられた。


 場所はもちろん、《勇者ユウト様農園・王都出張所》。

 名は相変わらずだが、土は正直で、今日もいい具合になっていた。


「ふう……やっぱり畑が一番落ち着くなあ……」


 草を抜き、ウネを整え、種を蒔く。

 汗をぬぐうその隣で――シャッシャッシャと、クワを振るう音が聞こえる。


「ユウト様! 新しく借りた区画にも、根菜を植えましょう! わたくし、カブに挑戦してみたいのですわ!」


「王女がカブの挑戦って、ミスマッチすぎる……」


 そう、クラリス王女はあの後正式に「農業研修」の名目で、俺の農園に通うようになった。

 王都では既に噂になっているらしい。


《王女様が勇者の畑に通っている》

《二人は収穫婚を目指している》

《いや、すでにナスは抜かれたらしい》←意味不明な噂


 だが、そんなのはどうでもよかった。


「クラリス、あのカブの苗、間隔が狭すぎると葉が育たないぞ」


「えっ!? で、ではこれくらいですか?」


「うん、そのへん。あとは深さを指の第二関節まで……って、俺の指じゃ分かんないか」


「いえ、ユウト様の指なら……その、大丈夫ですわ……!」


「うん? 今、なんか変な意味に聞こえたような……?」


「き、気のせいですわ! さあさあ、どんどん耕しましょう!」


 そんな風に、バカみたいに平和な一日を過ごしていた――


 その、夕暮れまでは。



「王女殿下、あまりにご無体ですぞ!」


 そう怒鳴り込んできたのは、一人の貴族風の男だった。

 背は高く、金色の髪、気取った口調。だがその目つきは、妙に冷たい。


「……誰?」


「貴様ごとき雑農夫には名乗る価値もないが、敢えて名乗ろう。エルヴィン・フォン・ガルネリ。第三王女・クラリス殿下の“正式な婚約者”だ」


「……へ?」


「ちょ、ちょっと待って下さいましエルヴィン様! その話はまだ、王家で協議中でして……!」


「だが、すでに王の覚えめでたく、近々正式発表がなされるはず! それを貴様……雑農夫ごときがクラリス殿下を籠絡したとは何事か!」


「いや、籠絡って! 俺は、毎日泥だらけで、畑仕事しているだけだぞ!?むしろ篭絡されたのは、こっちの方だぞ!?」


 話の方向が急すぎて脳が追いつかない。


 王女に政略結婚の噂があるのは知っていたが、まさか今このタイミングで目の前に出てくるとは。


「王女が農園に通うなど言語道断! 貴様は即刻、クラリス殿下との接触を禁じる!」


「はぁ……なあ、クラリス。どうなんだよ、これ」


 俺の問いに、クラリスはしばし黙ってから、まっすぐ俺を見て言った。


「わたくしには……王女としての義務があります。ですが、それ以上に“農家見習いクラリス”として、ユウト様のそばにいたいのですわ!」


「くっ……そんな子供じみた戯言に!」


 エルヴィンが詰め寄ってくる。


「ならば“農民”勝負しろ。もし貴様が勝ったなら、クラリス殿下との接触を“考慮してやってもよい”!」


「何その上から目線!」


「逆に敗北すれば、即刻クラリス殿下と距離を置いてもらう!」


「なんでそんな勝手にルール作ってんの!?」


 だが、王女の立場を考えれば、俺に反論する権利はない。

 この俺が“結果”を出せるかどうかで、すべてが決まる。


「……わかった。その勝負、受けてやる」


 俺はカマを握り直し、空を見上げた。


(王女と農業を守るため……農家だって、やるときはやるんだよ)



「というわけで、特別事業夏の農業フェスティバルが発足したわけですが……」


「えっ、何その突然の事業化!?」


「はい、国王直々の布令です。“クラリスの人生を懸けるのだから大々的に”とのこと」


「なんでそんな高圧的なプロジェクトぉぉぉ!!」


 こうして俺たちは、政略・恋・農業の三重苦の中、夏の農業フェスティバルに挑むことになる。


 もちろん、クラリスと共に。


 次回!

「婚約者とスイカ割り勝負!? 夏の農業フェスティバル開幕!」

貴族vs農家!王女を賭けた農作物バトルの行方は!?

スイカと恋の行方は、君の心に――

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