第3話 聖女と千載一遇
ロイド様を探して遺跡内を探索していると、ある気配がした。
もしかすると例の魔物かもしれない。
私は剣を構え、気配のする方へゆっくり向かう。
気配の先にいたのはオーガだった。
オーガはAランクの魔物であり、一体でも相手にするのは困難と言われる凶悪な魔物だ。
だけど、この程度でロイド様に調査依頼をするとは思えない。
これ以上の魔物がいるということになる。
「オーガが一体だけ……なら簡単に倒せるわね」
それだけならよかった。
だが、よく見ると人が襲われそうになっていた。
声を押し殺してる辺り、バレないように隠れているようだ。
もしかすると一度オーガに見つかり、逃げて隠れているのかもしれない。
だが、ここは立ち入り禁止の場所なのにどうして……
「そんなことはいい。あの人を助ければもしかすれば……!」
聖女に助けられ、魔物の居ない暗がりに誘導。
ここにいるということは、もしかすれば何かたくらむ悪い人の可能性。
であれば、私を犯そうとする可能性は高い。
浮かんでくる淫らな妄想を浮かべ、オーガに向かって襲い掛かる。
私に気づいたオーガは標的を私に定め、手に持っている片刃の剣を振りかざしてきた。
その勢いある斬撃は、通常であれば避けるので精一杯だろう。
だけど私は簡単に避け、オーガの脚に一太刀入れる。
脚をやられたオーガは体勢を崩し、膝をつく。
「エペ・セレスト!」
剣に聖なる光をまとい、巨大な剣のように見せる。
そして、地面を蹴ってオーガの頭に聖なる大剣を振りかざす。
オーガは真っ二つに斬られ、そのまま消滅していく。
「ふぅ。そこの方、お怪我はありませんか?」
物陰に隠れていた人達に声を掛けると、ゆっくりと姿を現した。
3人の冒険者のようで、その体付きはとてもたくましい。
「あぁ、助かったよ姉ちゃん」
「死ぬかと思ったぜ……あんなのがいるなんて知らなくて」
「ここは立ち入り禁止の場所のはずですが、どうしてこんなとこに?」
剣を納めるながら冒険者たちに問う。
流石に立場上聞いておかないといけない。
後で報告もあるし。
「あぁ、俺たち他の国から来たんだ。それでたまたまこの場所を見つけてな。一稼ぎできないかとここに入ったんだ」
「そうでしたか。ここは危ないので引き返してください。出口まで案内しますので」
「そうか。ところでそういうあんたは何でいるんだ?」
「私は王国からここの調査を頼まれているので」
「なるほど。あんだけ強けりゃそうか」
納得している男たち。
しかし、その顔はニヤニヤしており、私を品定めするように見ていた。
これは千載一遇のチャンス。
このまま見つかりにくい場所まで移動しよう。
ふしだらなことを考えながら、男たちを誘導していく。
そして、道を間違えたフリをして袋小路へと辿り着く。
「ごめんなさい、道を間違えてしまったみたいで。すぐ別のルートに……」
「いや、その必要はないぜ」
そう言って、リーダーと思われる大男に取り押さえられた。
他の二人はそれを見てにやにやとしていた。
「な、なんですか!?」
「こんな人が来ない場所であんたみたいなやらしい格好の美女、何もせず放っておくわけにはいかないよな!」
「せっかくだから楽しませてもらおうか」
「今日はツいてるな!」
それはこっちのセリフよ。
ついに……ついに犯される。
さぁ、早く私を淫らになるまで犯して!
そんなことを考えていると、男の一人が私の胸を荒々しく掴んできた。
「あぁん!」
「いいもん持ってるじゃねぇか。これは上玉だな」
「でかすぎず小さすぎずちょうどいい見た目だ。これはこのまま持ち帰るのも手じゃねえか」
「こっちもいいぞ」
別の男は私の臀部を触っていた。
こっちは別に特別大きいわけじゃないと思うけど、この人たちにとっては良いモノなんだろう。
無抵抗ってのも変だし、少しくらい抵抗しておこうかな。
「やっ……やめてください……」
「その割には力が入ってないなぁ。こんな状態なのによ」
「こいつ、こんな見た目だしこういうのに慣れてないんだろ」
「てことは経験もないんか? そんなの最高じゃねぇか!」
身体を好き勝手に弄られる。
これよ、これを望んでいたの!
もっと、もっと私を触って。
いじって弄んで乱して。
男たちに弄られ、それを愉しんでいるとどこからか地鳴りが聞こえてくる。
その地鳴りは徐々に近づいてきているように思えた。
「なんだ、この地鳴りは」
「なんか、どんどん近づいて来てるような……」
音を出している主がどんどん近づいてくると、私たちの居る場所の壁を破壊して目の前に現れた。
その姿は黒い身体にコウモリのような翼、鋭いかぎ爪に鋭い眼光。
それは噂でしか聞いたことのないSランクの魔物・ディアブルだ。
悪魔の上位種であり、魔人と呼ぶ人もいるくらいだ。
Aランク冒険者がパーティーを組んでやっと戦えるくらいの強さを持ち、普通の冒険者では勝ち目がない。
「な、なんだこれ……」
「に、逃げるぞ! こんなの無理だ!」
ディアブルを見た瞬間、冒険者たちは脱兎のごとく逃げ出した。
私を投げ捨てて。
「ちょ、ちょっと! ちゃんと犯しなさいよ!」
この状況に合わない叫びをあげながら男たちに手を伸ばす。
もうちょっとだったのに!
もうちょっとでようやく犯されるはずだったのに!
「なのにどうして……」
ディアブルを気にも留めず、私はその場で落ち込んでいた。
この場にいるのは私だけであり、当然ディアブルは私を標的にする。
「もう少しでやっと……」
狙いをつけたディアブルは暗黒魔法を発動し、私を襲おうとする。
「やっと処女を奪われると思ったのに!!!」
その叫びと同時に、別の壁が崩壊しディアブルに灼熱の一太刀が振るわれた。
攻撃の主は立派な鎧に、輝く両手剣。
勇者ロイドだった。
「フィオナさん! やっと見つけました!」
ロイドが助けに来てくれた。
それは本来喜ばしいことなんだけど、私は別の感情を抱いていた。
「私の……私の邪魔をして……」
身体を震わしながら立ち上がり、剣を抜く。
そしてディアブルを鬼の形相で見つめる。
「絶対に許さない……! あなたには、消えてもらうわ!」
怒りと共に聖魔法を剣にまとう。
そして金色に輝く剣を構えながらディアブルをじっとにらみつけた。
次の瞬間、私は駆け出してディアブルへ一太刀浴びせにいく。
しかし、自身の爪で攻撃を受け止めると、そのままはじき返されてしまう。
「っ……!?」
身をひるがえし綺麗に着地する。
また、はじき返された際、ディアブルがまとう黒いオーラに目が行った。
あれはもしかして……
「フィオナさん!」
「ロイド様、あれは混沌魔法だと思います!」
「混沌魔法だと!? ということは、こいつはここに封印されてた魔物ってことなのか……!」
混沌魔法は闇魔法の祖と言われており、古の力であり現代では使えるものはいない。
いたとしても禁術であるため、取得した時点で罪人となる。
それを使う魔物がいることに驚愕でしかない。
混沌魔法に対抗するには聖魔法かその上位である神聖魔法くらいになるだろう。
ただ、神聖魔法を使えるものは聞いたことが無い為、実質的に聖属性魔法のみとなる。
「こうなれば、私の魔法で浄化します。ロイド様は下がられた方が……」
「いや、光属性でもある程度やれるはずだ。聖属性と本質は似ている」
「……無理はなさらないでください」
そのたくましい肉体が傷ついてしまったら、私のことを犯せないじゃない!
それに、あいつは犯されてた私の邪魔をしたんだ。
絶対に許してはいけない。
「リュミエール・ディヴィーヌ!」
手をかざし、ディアブルに対して聖なる光を放出する。
基本的に範囲攻撃のこの術だが、調整して絞れば光線のように打つことができる。
しかし、ディアブルも対抗して混沌魔法の波動を放ち、相殺されてしまう。
「くっ……」
「はぁぁぁぁぁぁ!」
ディアブルの後ろから、ロイドが白く燃え光る剣をかざし、斬りかかろうとする。
「エペ・アルペンド!」
光と炎の融合魔法。
二つの属性を融合させた魔法はかなり高度な技術が必要になるが、勇者であるロイドにすれば少し難しい程度のものになる。
その剣はディアブルを捉え、斬りつけることができたがそれだけでは足りない。
「畳み掛けます! ジュジュモン・ディヴィン!」
一気に間合いを詰め、ディアブルの腹部に聖なる雷を直撃させた。
聖属性の攻撃をもろにうけ、苦しんでいるのがわかる。
「私の邪魔をしたのだから、聖なる裁きを受けなさい! エペ・セレスト!!」
剣を抜き聖属性の力を結晶化させ、聖なる光をまとう大剣にする。
それを思い切り振りかざし、ディアブルの胴を真っ二つに引き裂く。
「※※※※※※!!!」
ディアブルの悲痛の叫びが遺跡内に響き、徐々に消滅しようとしている。
すると、ディアブルの体から段々と混沌属性のオーラが溢れてきた。
自爆する気なの……!?
「フィオナさん! 危ない、そいつ自爆する気だ!」
「逃げても間に合いません! 私の後ろに!」
言われた通り、ロイドはすぐさま私の後ろに立つ。
こうなったらできることは一つ。
「サンクチュエール・ド・リュミエール!!」
私とロイドを守る聖なる光の結界を展開する。
本来であれば、ほとんどの攻撃を無効化することのできる鉄壁の守りなのだが、混沌魔法相手となると防ぎきるか疑問になる。
合わせてもう一つ魔法を発動させておかないと。
「エジード・ドゥ・ヴェリテ!!」
結界の前に聖属性の魔力を結晶化させた光の盾を顕現させる。
二つの魔法を発動させたと同時に、混沌属性の爆破が巻き起こる。
凄まじい闇の波動に、踏ん張るので精一杯だ。
闇の波動が落ち着いた頃には、光の盾は砕け、結界にもひびが入っている。
何とか防げてよかったが、大幅に魔力を使ってしまいその場にへたり込む。
「ふぅ……魔力をここまで使うなんて……」
「フィオナさん大丈夫ですか?」
「はい、ちょっと魔力が枯渇しただけですので。少し休めば……」
話をしている途中で体が持ち上げられる。
「えっ、あのっ、ろ、ロイド様!?」
「魔力枯渇手前ならまともに歩けませんよね? 俺はまだまだ体力残ってますので」
そう言って笑顔を浮かべるロイド。
その男らしさに少し顔が熱くなり、目線を逸らしてしまう。
ロイドに抱きかかえられたまま遺跡を後にし、歩けるようになってからは普通に歩いて街へ戻った。
そのまま自分の部屋に戻ると、ベッドに倒れ込んだ。
「うぅぅぅ……何なのよぉ……」
私の心の中は乱心していた。
不覚にもロイドのことがかっこよく見えてしまったし、その前に犯されそうになったところでお預け食らっているのだ。
変な気持ちになっていた。
「うぅぅぅ……あぁぁぁ……!」
ぐちゃぐちゃになった感情を発散するように、眠り落ちるまで自分を慰め続けた。
******
「ほう、そんなことがあったのか」
「いやぁ、あの遺跡は危ないですねぇ。危うく俺たちも死ぬとこでしたよ」
「よく貴重な情報を持ち帰った。それに、グラーマ王国の聖女様、か」
男は口角を上げ、遺跡へ行った冒険者たちを部屋から追い出した。
そして、別の者たちを男の元に招集する。
「お前らに任務をやる」
怪しい笑みを浮かべながら、男は任務を与えた。
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