第2話 聖女フィオナ・アシュモーデ
この王国には、このような古い言い伝えがある。
聖なる力を持ちし乙女は、この国の危機を救う聖女となる、と。
私、フィオナ・アシュモーデはその一人だ。
聖魔法を使える人はごくわずかであり、今この国で聖魔法を使えるのは私だけ。
聖魔法に似たものとして光魔法が存在しているが、これも取得が難しいため重宝される。
しかし、本質が全く異なるため聖魔法を使える人物は本当に希少で、それだけで国から手厚い支援を貰える。
聖魔法に目覚めたのは5年前、私が12歳の時になる。
12歳の年の子は、自分の使える魔法やスキルを鑑定する『成人の儀』を執り行う。
そこで私は聖魔法の適正と、スキル『無垢なる穢れ』というものを持っていた。
この『無垢なる穢れ』というのは、未だによく分かっていない。
多分、魔物たちが持つような邪悪な魔力を浄化できる力なんじゃないかと言われ、より聖女として適正があると言われた。
このことが王国に伝わり、聖女候補としてここグラーマ王国で学ぶことになった。
平民出身の私が貴族の子たちと学ぶのは大変だったけど、特にトラブルも無く済んだ。
そして15の年には『聖女』の称号を与えられ、聖女として王国のために力を尽くす使命を与えられた。
それ自体には何の問題もない。
だって、活躍すればそれだけ男の人たちから称賛され、もてはやされるのだから。
そして、中にはきっと邪な気持ちを持つ男の人もいるはずで、私に言い寄って純潔を奪おうとしてもおかしくないはず。
なのにそういった人が現れないことに、私は日々不満が募っていた。
なぜこのようなことを考えているのかというと、私は男の人に犯されたいと思っているからだ。
普通に考えたらおかしなことかもしれないけど、誰でもいいから襲われて淫らに犯されたいと願っている。
そう思うようになったのは10歳の頃に見たあることがきっかけになる。
故郷の街はずれの路地裏に迷い込んだ時のこと。
私はそこで、若い二人の男女が路地裏の人気のない場所で、情熱的に交わっているのを見てしまった。
それも、最初から最後まで。
その時の衝撃が今でも忘れられない。
あんなに気持ちよさそうにしている女性を見て、疼きが止まらなかった。
それを見ながら私は初めての経験をしてしまい、
その感情は成長するにつれ歪んでいき、気がつけば誰でもいいから犯されたいと思うようになったのだ。
しかし、このことは誰も知らず、私の中に想い留めている。
それは私が聖女であるから。
聖女として活躍すれば、きっと男の人たちは称賛し、ちやほやしてくれる。
変にがっついては、おしとやかな聖女ではなくなってしまう。
話に聞いたことがあるのは、男の人は清楚でおしとやかな人を襲って汚すことに快感を持つという。
ならば純真な聖女として活躍すれば、汚したいと思う人が現れると考えた。
……だけど現実は、そうはいかなかった。
誰もが私を慕い敬服するばかりで、そのようなことに発展しなかったのだ。
徐々に装備を軽装にし、露出を多くして男の人を魅了しようともした。
しかし、それでも言い寄る人は現れなかった。
これで分かったと思うけど、私は聖女だとか使命だとかそんなのはどうでもいいの。
私は淫らに犯されたいという欲望のためだけに、聖女として活躍しているのだ。
「なのに誰も私を襲おうとしない……どうしてなのよぉ!」
これだけ犯されたいとい思ってるのに、犯されたい現実に欲求は満たされないまま不満ばかり募る。
毎晩毎晩、自分を慰めるように自分で欲を満たす日々にうんざりしている。
「……今度こそ絶対、男の人にちやほやされて、その流れで犯されるんだから!」
そう息巻く私だが、それが絶対に達成しないことを知らなかった。
犯されないすべての元凶が『無垢なる穢れ』であることを。
今日、私はダズリンの街にある冒険者ギルドへと足を運んでいた。
聖女とはいえ、一人の冒険者として日々依頼をこなして生活の足しにしている。
本来聖女である以上、国から多くの支援を貰えるのだがそれでも冒険者としての活動はやめなかった。
理由は単純。
冒険者ギルドに通うことで、屈強な冒険者とお近づきになれる可能性が高まるからだ。
男の人と交わりたい私にとって、冒険者ギルドは出会いの場としてピッタリ。
しかも、中にはマナーの悪い荒っぽい人もいるため、そういう人から強引に迫られるのも……
想像しただけでよだれが出てしまいそうだ。
でも、顔には出しちゃダメ。
清楚な聖女だからこそ汚す価値があるってものよ。
汚されるためには綺麗に見せないと。
「おはようございます聖女様。今日はどうされましたか?」
ギルドの受付嬢の前までやってくると声をかけられる。
その目からは羨望が見て取れる。
他の受付嬢も私のことを見てた。
「今日もいい依頼がないかと思いまして。私がお役に立てそうなものになりますが」
「そんな、聖女様がお役に立てない依頼なんてありませんよ! いつも本当に助かってます」
「ありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しい限りです」
そう言って受付嬢に微笑めば、周囲がざわつく。
微笑み一つで回りが湧くのにどうして誰も夜のお誘いをしてくれないのか。
「それで何かいい依頼は……」
「それならこれはどうでしょうか? フィオナさん」
聞きなじみのある男性の声が聞こえてくる。
私はゆっくり振り返り、その男の人と向かい合う。
「久しぶりですね、フィオナさん」
「えぇ、お久しぶりです。ロイド様」
ロイド・クレイモア。
Bランクの多いこのギルドで、数少ないAランク以上の冒険者。
その中でも、この国で2人しかいないSランク冒険者の一人であり、『勇者』の肩書を持っている。
ちなみに、もう一人のSランク冒険者とは私のことである。
私と同じように、たまにダズリンの冒険者ギルドに現れる。
王国に住んでいるのに、どうしてわざわざこんなところに来るのやら。
「ロイド様、今日はどうされたんですか?」
「あぁ、ちょうどフィオナさんに用がありまして」
「私に、でしょうか?」
はい来ました。
ついにお誘いですね、そうですよね?
そうだと言って、言え。
心の中が騒がしくなる中、私はいつも通りの表情を保つ。
少しの期待を抱き、ロイドの言葉を待つことに。
「あぁ、フィオナさんだからこそ、誘いたいことがあるもので」
おっしゃきたぁぁぁ!!!
これはもう、確定でしょ!
「俺と、とある神殿の調査に来てほしい」
「……はい」
ですよねぇぇぇ……
知ってましたよ、えぇ、どうせこんなことだと思ってましたとも。
いつもいつもこうだもの!
「詳しいお話を聞いてもよろしいでしょうか? ロイド様のことですから、何かあるんですよね?」
「流石フィオナさん。よく分かってるじゃないですか」
「これでも、貴方とは何度かご一緒してますのでね」
勇者であるロイドと聖女の私。
それぞれ似た使命を持っているため、一緒に行動する機会が多い。
多分、一番親しい男性が誰か聞かれたら彼になるだろう。
「ですね。それで今回なんですけど、北の森の奥に古代遺跡が発見されまして、そこに凶悪な魔物がいると報告が来てるんです」
「なるほど。それを調査して、叶うなら討伐してほしいってところですかね?」
「ご明察。俺一人でもいいんですけど、念のためにフィオナさんにも同行していただきたいんです」
「分かりました。引き受けましょう」
これはチャンスだ。
よく知ってるからわかる。
ロイドもちゃんと男であるため、よく私の胸やお尻、太ももに視線が行ってるのを知ってる。
これはつまり、その気はあるということ。
そして、古代遺跡と言うことは暗がりになるに違いない。
暗がりに男女二人、それもこんな露出の多い女性が一緒なら襲いたくなるに違いない。
「では、これから準備して向かいましょうか。ここからどれくらいかかりますか?」
「半日もあれば到着するはずです。早速行きましょうか」
私たちが遺跡調査の話をいていると、周囲から様々な声が聞こえてくる。
それは羨ましいというものから、最強のコンビだとか。
それとお似合いの二人とまで言われている。
……私としてはロイドに犯されればそれでいいだけなんだけどな。
その後、私たちは古代遺跡のある北の森へ行った。
北の森はこの領土で最も北に位置しており、凶暴な魔物が多く生息している。
並みの冒険者では危険なため、基本的には立ち入りを禁じられていた。
そのため禁忌の森とも呼ばれている。
私やロイドはそれぞれ『聖女』『勇者』であり、王国有数の実力を認められているため問題なく立ち入れる。
むしろ私たちが入ってはいけない場所は誰も行くことができない。
「始めてきましたけど、こんなに暗いんですね」
「管理が届いてない場所ですので。俺から離れないでくださいね」
「頼りにしてます」
別の意味で。
遺跡に向かう途中で、何度か魔物に遭遇したが私たちの敵ではない。
討伐しながら森の奥へ進むと、苔の生えた古びた遺跡が現れる。
「ここに凶悪な魔物がいるんですね」
「あぁ。国の調査隊が目撃したらしい。この中も軽くマッピングされてるんで、何とかなるはずです」
「分かりました。では早速行きましょう」
私は逸る気持ちで遺跡の中へと向かっていく。
もっと暗がりで密着すれば、きっとロイドも私を襲ってくれるはず。
魔物がいるかは何となくわかる。
だから、場所さえ選べばきっと……
そんな風に浮かれながら進んでいるうちに、いつの間にかロイドとはぐれてしまった。
「どうしてこうなるのよぉぉぉ!!!」
私の叫びが遺跡内に響き渡る。
遺跡内はとても古く神秘的な雰囲気がある。
人によってはそれを不気味というかもしれない。
途中までは普通に進めていた。
ロイドも一緒にいたというのに、たのしめることを考えていると、気がついたらロイドがいなくなっていたのだ。
「はぁ、どうして……とりあえず、ロイド様を探さないと」
そう思い、遺跡内を探索しながらロイドを探すことにした。
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