【コラボ】土門環&コルト

 親愛なる読者の皆皆さま。

 はじめまして、ごきげんよう。


 わたくしはジェーンと申します。

 今回、物語の枠を超えた対談企画の司会進行にと抜擢されました。


 ええ、何分本編での出番がありませんからね。

 ふふふ、粋な計らいというものでしょうか、十全に全うできるといいのですが。


 さて、親愛なる読者の皆皆さまは、【物語】というものをどのようにお考えでしょうか?


 ただの創作物?

 どこかの誰かの夢が詰め込まれた素敵なお話?

 それとも、自分勝手な作者によって綴られる不自由な世界?


 ふふ、えぇそうです。

 どれもがすべからく正答であり、同様にその全てが間違いと言えるでしょう。


 斯く言うこのジェーンという凡愚にも、【物語】の因果というものはなかなか手に余り、困っているのですよ。



 おや?

 そんなことより質問企画ですか?

 ふふふ、いいでしょう。


 『RE:SELECT』にも『めぐる季節は呪詛の味〜パティスリーシノノメの事件録』にも、【物語】としての輝きは確かに確認できますし。


 私の無益に等しい話など、この辺りで切り上げるのもやぶさかではありませんとも。



 気を取り直して……この場に足を運んでいただいた二人の紹介をさせていただきましょう。


 『RE:SELECT』より、獣人種兎人族のコルトさんです。

 【物語】の中では、人間種に故郷を侵略され、家族を捕らえられ、危うく彼女自身も捕まってしまったという時、ミーシャとルルーシュの助けにより、逃走。

 その後、レヴィと……ええと、あぁそうそう、タニアですね。

 この二人と出会い、《クラムローブ街》に避難。

 その後ミーシャたちと合流し、今は確か、《ディビデ山脈》の麓でミーシャの管轄の下、修行に勤しんでいるのですね。

 こうして会うのは初めてですが、どうしました?

 ものすごく顔色が悪いようですが?



「ジェ、ジェーン様! 初めまして……た、大変お世話になっております。ミーシャさんにはとても良くしてもらっていて、感謝してもしきれません」



 ええ、それは実に重畳。

 奪われる苦しみは、私も痛いほどに理解できますからね……ふふふ。



 さて、そしてもう一人。

 『めぐる季節は呪詛の味〜パティスリーシノノメの事件録』より、土門環どもんたまきさんです。

 彼女は、陰陽師の家系に生まれた【普通の女の子】でした。

 周りの人間より、ほんの少し霊感を持っているというだけの、普通の……ね。

 確か、弟さんであられる……博臣ひろおみ君でしたか、彼はこの企画の参加者のようですね。

 

 私が頂いている情報では、あなたたち姉弟は幼い頃にとある事件に巻き込まれ、その心に深い傷を負っている、と。



「ねえ、ちょっといい? 他人の紹介をするっていうのに、そんなに暗い話じゃ聞いた人がびっくりするんじゃないかしら?」



 ふむ、確かにその通りかもしれませんね。

 私としたことが、お二人の歩んできた【物語】があまりにも興味深かったもので、そこまで気が回っていなかったようですね。


 

「まぁ、ジェーンさんが言ってくれたことは事実だし、私を誰かに紹介する上で、避けては通れないものだっていうのもわかるんだけどね……でもせっかくこうして新しい出会いの場に来て、こんなに可愛い女の子と話せるのよ? もっと明るくいきましょ!」



 寛大なお言葉、痛み入りますねぇ。

 では、お言葉に甘えさせていただくとしましょうか。



「うんっ! じゃあ、私からもよろしくね? コルトちゃん」

「あ、はい! コルトですっ! よろしくお願いします!」



 ふふふ、大変微笑ましいですね。

 では、質問企画……一問目。




【あなたたちの家族について教えてください】




「これは……まあそういう質問がくるわよね。そうねぇ、うちの家って代々陰陽師を輩出してるらしいんだけどね。私が知ってるのは……おじいちゃんと弟の博臣かな! お父さんとお母さんはそういう力はほとんど持ってないって言ってた気がするわね」

「あ、あの……オンミョウジってなんですか?」

「あー、そっかぁ! そうだよねぇ! ごめんねコルトちゃん! こっちの普通があなたにとっての普通とは限らないわよね。そうね、陰陽師っていうのは星を観測して占いをしたり、まじないっていうすごい力をもって彼岸と此岸を彷徨う悪霊を祓ったりする人のことよっ」

「……ほぇ、す、凄そうです!」

「ふふっ、本当に可愛いわ! コルトちゃんの家族の話も聞かせてくれる?」

「あ、はい! コルトの家族はお父さんとお母さん、それとお姉ちゃんです。みんな優しくて、大好きでした」

「……そう、コルトちゃんこっちおいで?」

「はい?」

「……」

「あ、あの……どうして環さんはコルトの頭を撫でているんでしょうか?」

「いいの、私がそうしたくなったから」



 仲が深まったようで、喜ばしいですねぇ。

 コルトさんはそのまま環さんの膝の上でたくさん撫でてもらってください。


 では、二問目。




【姉、弟の好きなところを教えてください】



「博臣の好きなところかぁ……小さい頃は喧嘩ばっかりだったからなあ……あ、でも私が大事にしてるものを否定しないところは、ありがたかったかな。あはは、なんか照れ臭いわねこれ」

「えへへ、環さん弟さんのこと好きなんですねっ」

「んー、もしかしたら私の一方的な勘違いかもしれないけど……博臣とは心のどこかで支え合ってたと思う」

「す、素敵です!」

「コルトちゃんは?」

「コルトとお姉ちゃんは、よく一緒に魔法の練習をしてて、それが思い出です。コルトに魔法の楽しさを教えてくれたのも、生きる意味を教えてくれたのも、全部お姉ちゃんでした。コルトは、いつも笑ってて元気なお姉ちゃんが大好きです」



 いやはや、環さんの顔が若干うっとりしてきていることについて、私は言及した方がいいのでしょうか?

 いえ、面白そうなのでこのままいきましょう。


 続いて、三問目。




【家族に秘密にしていた事、もしくは言いたかったけど言えずにいた事はありますか?どちらかお答えください】




「秘密かぁ……小説を書いてたことかなぁ。でも博臣には多分バレてたんだよねぇ。知らないふりしてたみたいだけど、嘘つくの下手だから余計に腹が立ったのを覚えてる」

「ショウセツ? 書くっていうのは物語ってことですか?」

「うん、そう! 私ね、小説家になりたかったのよ。コルトちゃんの世界では、馴染みがないかもしれないけど、私たちの世界では、誰でも物語を書けたし、数えきれないほどの物語が世の中に溢れてたの。私がまだ小さかった頃、お母さんがいなくなっちゃって、寂しさとか虚しさとか、そういうのを全部吹き飛ばしてくれたのが物語だったのよ……それからかしら、私も『誰かの心を動かしてみたい』なんて夢を見始めたのは」

「コルトには、難しいです……でも、環さんがそのショウセツというものに救われて、大切にしてることは凄く伝わりました!」

「ふふっありがとう」

「コルトはですね……こっそりお姉ちゃんの服を借りてたことです……。コルトがいた村はとても小さくて、自然に囲まれた場所にあったので、戦える者はみんな狩りや採集に出かけるんです。お父さんもお母さんもお姉ちゃんも村の外に出て働いていたので、家に誰もいない時に……」

「あはは、可愛い!」

「でも、バレたらすっごい怒られるので、本当にこっそり家の中でだけ着てました」

「私だったら、寧ろ、コルトちゃんにたくさん着せてあげちゃいそう」

「……そうなんですか?」

「ふふ、本当は今すぐにでもそうしたいところなんだけどね」




 はい、そこまでですよ。

 環さん、一応はこの企画が終わるまでは我慢していただけますか?

 これが終わりましたら、多少の貸し出しは目を瞑りましょう。



「言ったわね?」

「環さん? 目が怖いですよ?」

「ごめんごめん! コルトちゃんを怖がらせる気はこれっぽっちもないから安心して!」




 これは……ミーシャには前もって伝えてた方が良さそうですね。

 まあ、どうとでもなりますか。


 気を取り直して、四問目。




【家族での思い出を教えてください】




「あ、これはコルトから話してもいいですか?」

「もちろん! 聞かせて?」

「コルトの誕生日に、家族みんなで村の外に出かけたことがあったんです。コルトたち兎人族は、とても弱い種族なので、普段はそんなことしないんですが……、村のみんなも手伝ってくれたらしくて、安全な道を調べて、コルトたち家族四人で凄く遠くまで行きました。朝早く出かけて、見晴らしのいい峠でお昼ご飯を食べて、綺麗な湖で遊んで、夜は満天の星を眺めながらお祝いしてもらいました。その時見た流れ星が忘れられなくて、コルトにとって一番の思い出です」

「すごい素敵じゃない! コルトちゃんは大切に愛されて育ったのね」

「はい、コルトもそう思います」

「私は……そうねぇ。私の家はみんな忙しくて、家族みんなが揃って何かをするっていうのがあんまりなかったの。もちろん、それを恨んでるとかではないのよ? ただ、まだ子どもだった私にとって、それはちょっと寂しくてね。だから、少しでもみんなの目を向けてもらうために、お母さんの真似をして、一人で料理してみたの。六歳とか七歳の頃だった気がする、あはは……我ながらなかなかな暴挙だったわ。キッチンをぐちゃぐちゃにして、自分も服を汚しちゃってさ。できたものは全っ然おいしくないの! あはは! そりゃそうよね、初めてやったんだもん。でも、お母さんもお父さんもその日は怒らずに笑ってたくさん褒めてくれたのよね。子どもが構って欲しくてやったことをわかってたんでしょうね……それから、博臣も混ぜて四人みんなで料理をしたの。なんてことのない普通のカレーだったけど、あれ以上に美味しいご飯を私は知らない」

「環さん、ちょっといいですか?」

「ん?どうしたの?」

「……よっ」

「コ、コルトちゃん!?」

「えへへ、コルトもたくさん撫でてもらったので、お返しです!」

「コルトちゃん、私と結婚してくれないかしら?」



 環さん?

 この私を焦らせるとは、なかなかやりますねぇ。

 ふふふ、コルトさんも無闇に環さんを刺激しないように、いいですか?



 環さんが暴走してしまわないうちに、次に行きましょう。


 五問目……はちょっと飛ばしましょう。

 六問目です。




【姉や弟といつもどんな風に過ごしていましたか?】




「どんな風に過ごしてたか? んー私は部活で帰りが遅くなることが多かったし、博臣が大人しくなってからは喧嘩もしなくなったし……私が料理できるようになってからは、大体夜ご飯は私が作ってたんだけど、たまに博臣も手伝ってくれて、その時間が結構好きだったかも!」

「一緒にご飯ですか、いいですね! コルトももっとお手伝いしておけば良かったです」

「コルトちゃんはどうだったの?」

「コルトは恥ずかしながらお姉ちゃんに引っ付いてばかりでした……お姉ちゃんがお仕事から帰ってきたらすぐに飛んでいって、疲れてるお姉ちゃんを引っ張って、魔法を教えてもらったり、外でのお話をしてもらったりしてました」

「あはは、いいのよ! 弟も妹も、好きなだけ甘えていいのよ」




 お二人とも、素敵なお話ばかりですねぇ。

 この私も、大変感服しております。


 この調子でどんどん進めていきましょう。


 次は七問目。




【ご家庭の味といえば?】




「ご家庭の味? よく食べてた料理ってことでいいのかしら?」



 問題ありませんよ。

 その料理を食べると、家族を思い出すというものです。



「あーなるほどね! それなら、私はやっぱりカレーかな。さっきも話したけど、私にとって特別だし……でも、博臣が作ってくれた甘い卵焼きも捨て難いなぁ……」

「コルトも、環さんがいうカレーというものを食べてみたいですっ!」

「もう……コルトちゃんってば……ふふっ」

「コルトは、お魚……ですね。コルトのいた村から川はとても遠くて、なかなか食べられなかったんですけど、お姉ちゃんとお父さんがお魚が好きで、毎月すごい気合いで獲りにいってくれました。料理と呼べるかどうかは怪しいですけど、塩焼きで食べる魚は本当に美味しくて……」

「あはは! コルトちゃんよだれ垂れてるよ?」

「うわぁぁ!」



 思い出は、最高の調味料というわけですねぇ。

 お二人の話を聞いていると、私も何か食べたくなって参りました。


 質問企画の時間も残り僅かです。


 さて、八問目。




【姉、弟に対して、不満に思っていた事はありますか?】




「不満ってほどじゃないけど、小さい頃お母さんを独り占めしてたことかな……ははは、これが結構厄介でねー。誰が悪いとかないのに苛立ちは募ってくし、そのせいで余計にお母さんと話しづらくなっちゃうし。あの頃はちょっと博臣に申し訳なかったなぁ」

「環さんでも、そうやって失敗しちゃうことあるんですね?」

「たーくさんあるよ! コルトちゃんに聞かせえるような話じゃないから、ここでは話さないけど、私なんて失敗だらけよ?」

「……でも、環さんは優しいです、コルトよりも強いヒトだなって思います」

「そう見えてるなら、良かったわ。コルトちゃんは何かあった?」

「コルトは実はあんまり思い当たらなくて……強いて言えば、寝るときにコルトのことを抱き枕にするのをやめて欲しかったくらいです」

「それは無理ね」

「……え?」

「それは無理なのよ、コルトちゃん」

「……」




 さぁ、もう私は進めることしか考えませんよ?


 九問目。




【姉、弟が将来こんな風になっていると思う、というイメージを教えてください】




「難しいなぁ……博臣の大人になった姿かぁ。動物が好きだったし、好かれてたからそっち系の仕事してるかもなぁなんて思ったりもしたけど、案外料理人とかになってるのも想像できるんだよなぁ」

「あ、ジェーン様が何か持ってきましたよ?」

「写真? 何? ぶっ……あはははははは! 相変わらず写真写り悪いわねー! シノノメ……パティスリー……そう、今博臣はこうなっているのね。髪は長くて鬱陶しいけど、なんだか幸せそう……」

「環さん?」

「あ、ごめんね? ちょっと嬉しくて、ね」

「泣いてるんですか?」

「……ふふ、あの無愛想な博臣が、こんなに楽しそうにしててくれてるなんて。私も食べてみたかったなぁ……なんてね」

「コルトも、環さんの気持ちはわかるのです。コルトのお姉ちゃんは、もうコルトの記憶の中にしかいませんから」

「……」

「それでも、お姉ちゃんが今も生きていたなら、お姉ちゃんはきっと村一番の魔法使いとして、みんなに尊敬されてたんだと思います。綺麗な服を着て、風と一緒に森を駆けている姿が想像できます」

「……コルトちゃんのお姉ちゃんは凄い人だったのね」

「はいっ! 世界で一番格好いいお姉ちゃんです」




 では、最後の質問です。




【あなたにとって家族とは?】




「また難しい質問が来るのかと思ったら、最後にそんな簡単な質問でいいの?」

「コルトも少し身構えてしまいましたけど、これならすぐ答えられそうです」

「ふふ……もしかしたら同じ答えかもね?」

「もしそうだったら嬉しいですね」

「じゃあ、せーので同時に言ってみようか?」

「はい!」

「せーのっ」



「「たからもの!」」



 いやはや、素晴らしい。

 締めくくりとして、これ以上ないものでしたね。

 

 私も、家族に対しては思うところはありますが、お二人を見て改めてその存在のありがたみに気が付くことができましたよ。


 では、お二人には最大限の感謝と、できうる限りの尊敬の念をお送りさせていただくとともに、この質問企画の幕を閉じるといたしましょう。



「あーちょっと待って」



 はい?



「さっき、質問一個飛ばしたでしょ? あれなんだったの?」



 さて、何のことやら……。



「へえ、そうやって誤魔化すんだぁ? コルトちゃんはあんな大人になっちゃダメだからね? 見るからに胡散臭いのに、結局中身までそのまんまじゃない!」

「あ、あの……ジェーン様はコルトにとっては雲の上のような存在なので……」



 はぁ……、いいでしょう。

 お二人のことを慮って、質問を飛ばしたというのに。

 

 では、存分に。





【お二人がもし姉妹だったら、どういう姉妹になっていたと思いますか?】




「……」

「……」

「……」

「……環さん、コルトを抱きしめる手が強いです」

「ふ、ふふ……ふふふ」

「た、環さーん?」

「まずは、環お姉ちゃんと呼ぶところから始めましょう」

「ふえぇ?」

「ほら、怖くないよー」




 さ、ここから先は–

「コルトちゃん!」

 私には手に追えそうにもありませんし……

「ちょ、環さん! 落ち着いて!」

「違うでしょ? ほら、呼んでみて?」

 こう見えて私も忙しい身ではありますので。

 ミーシャが迎えに来るとか言っていましたが、この様子では……

「た、環お姉ちゃん……」

「ハァァ! 可愛すぎっ!」

「あ、あは、あはは! 変なお姉ちゃん!」

 もうしばらくのままにしてあげてもいいかもしれませんね。



 


 

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RE:SELECT 質問企画 忍忍 @SAL室長 @nin-nin28

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