わたしの先生は幼馴染

空華

第0話 最初の春

桜が咲き、風に舞って、少しずつ散り始める頃。

私は、人生で初めて、高校に入学する。


鏡の前で、制服の襟元をそっと整える。

ブレザーの紺色がまだ少しだけ肌に馴染まないけれど、それでも胸元のリボンを結び終えた私は、ようやく高校生になったのだと、少しだけ実感する。


春の光が、カーテンの隙間から差し込んでくる。

窓の外には、ひらひらと舞い落ちる桜の花びら。

それを眺めながら、私はそっと自分に問いかける。


やっと――

やっと時間を追い越した。


始めての、高校生。

前の人生では、たどり着けなかった場所。


制服の袖に腕を通した瞬間、

胸の奥で、何かが静かにほどけていくような気がした。


私は、時森詩望として生きていく。

そう決めたはずだった。

この15年で、私は変わった。

新しい家族に囲まれ、新しい名前で、新しい時間を歩いてきた。

もう、あの春の日には戻れない。


でも。

それでも、心のどこかに、まだ水樹陽菜がいる。

あの時、言えなかった想いと一緒に。

もう過去だとわかっているのに、どうしても捨てきれない。

彼への気持ちだけが、今も、私の中で息をしている。

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