王手は、いつも心の奥で鳴っていた

のっち

第1話「負ける役なんて聞いてない!」

将棋って、テレビの中だけの世界だと思ってた。


「いずもちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど」


父の会社の飲み会帰り、その言葉で全部が始まった。


「小学生将棋大会の団体戦、出てみない? 人数足りなくてさ」


はい? 将棋ってアレでしょ、木の板に駒が並んでて、おじさんたちが指してるやつ。なんで私が。


「心配しなくていいよ。いずもちゃんは“出るだけ”でいいから!」


……「出るだけ」ってなんだ。


そして大会当日。


「へー、この子が“当て馬”?」


そう言ったのは、髪をツンツンにした男子の先輩。たぶん同じ小学校の4年生。


「ちょっと輝、それ言い方」


笑顔でフォローしてくれたのは、もう一人の先輩。優しそう。でも将棋盤を前にした目は、ちょっと怖かった。


その日から私は、負ける役として戦うことになった。


勝つのは先輩たち。負けるのは私。それでチームは勝つ。


でも——


「勝った……?」


3年目、手が震えるような勝利をおさめたとき。

その瞬間から、私の中で何かが変わり始めたんだ。

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王手は、いつも心の奥で鳴っていた のっち @yu-ki0222

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