第一話

ある夏の朝だった。


うだるような暑さで、鳴く虫も吹く風もなく、照りつける日の下、静けさだけが監獄中に満ちていた。


なんでもない、つまらないいつも通りのただの夏の日、


その時の私は知る由もなかったが、島の南東の砂浜に、一人の青年が漂着していたのだった。



* * *



8時。皆が畑に集まり始める。


どうせ娯楽のない私たちだけれど、朝だけは、似たような音楽で多少は彩ることにしている。誰かが持ち出してきたバケツと、蔓草のつるを張った奇妙な弦楽器で、みんなは手を叩く。


けれど、その音すらも、夏の果てしない日の中では悲しげに聞こえる。


みんなは笑顔で手を叩いている、でもその中に本心で笑っているものがどれだけいるだろうか。




しばらく演奏すると、みんなが自然にてんでんばらばらに散っていく。そうすると演奏は止み、今日の仕事が始まる。


私は土に目を向け、注意を向ける。


そうすることで、何かがあるように錯覚するために。



* * *



正午。少しばかりの休憩のため、皆は鉄塊の中に入っていく。


なんだか、私は何もする気がなくて、畑の外側に立ち尽くしていた。






小さな音がしたのは、その時だった。


背後から、「コツン」という音がした。


後ろにあるのは小さなコンテナだけで、人はいない。


私は少し逡巡したが、恐る恐るコンテナの中を覗き見た。




そして、私はショックを受けた。


中に人がいたからではない。


その人が、この監獄の中で見たことがない人だったからでもない。




その人は、亡くなった幼馴染にひどく似ていたのだ。




彼は、酷く衰弱しているようだった。


「あなたは誰?…立てる…?」


私は聞いた。青年は顔を上げ、わずかに瞳孔を見開いたが、私が差し伸べた手を素直をつかんだ。



* * *



青年は、名をレナンと言った。


レナンは、本当に私の幼馴染に似ていた。

よく見れば奥二重などの違いはあるものの、少し癖のある黒髪に透き通るような群青の瞳が本当によく似ていた。


私は、その面影に悲しみを感じることはなかった。


彼は、彼の人生を歩み、終わらせたのだ。


それは祝福すべきことで、嘆くべきことではないのだ。


けして、けして。


嘆くべきことなどではない。


絶対、悲しむようなことではないのだ。











……それでも、レナンがこの島に来た、そのはじめの日の夜だけは、私が涙を流した事は、ここに述べておく。



* * *



レナンは、島の人々とよく話した。


彼は気さくで、とても話しやすかった。


ただ、かなりの時間は私と話していた。

レナンと話していて楽しかったし、外の世界の話を聞いたりもした。

だが、そのたびにレナンは、言葉を濁して話題を変えてしまう。


この島で、外のことを話さずに大した話題が続くわけもなく、たまにはひと言も発さずに2人で地面に寝転がっているだけの時もあった。


時は過ぎていった。

冬が来て、春が来た。


冬に寒さで亡くなってしまった2人の供養をしながら、私は後どれだけ生きられるのだろうとふと考えた。


一瞬燃え上がるように思いが沸き、私は死にたくないと心の底から思ったが、次の瞬間にはその感情は消えていた。


どうせ、この監獄の中で、そう長く生きることなどできない。


私は大きく伸びをして、いつも通りの私に戻ろうとした。





その時だった。


墓を茫然自失と言った体で見つめていたレナンが、私に話しかけたのは。





「___君は、この檻から逃げたいか?」

















_________

かなり駆け足な構成なので近いうちに書き直すかもです

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それは、見果てぬ夢 パチデス @Pachi-Dess0911

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