【完結済】食堂で魔法『スキャン』を使ってお客さんの体の悪い部分を見つけて、それを良くするための料理を作っていたら第一王子に妃になってほしいと告白されました

久坂裕介

第一話

 やわらかな日差ひざしがそそぎ、段々だんだんと暖かくなってきた四の月の午後。ガチャリとドアが開いて、一人のおじさんがこの食堂に入ってきた。


 初めて見る顔なので常連じょうれんさんではなく、新しいお客さんだ。私は大人おとなしい性格で人見知ひとみりなので、少し緊張した。


 何度もきてくれる常連さんにはれて、普通に話をすることもできる。でも、そうじゃない新しいお客さんは苦手だ。そうは言っても、私は食堂で働いている。


 この新しいお客さんも常連さんになってもらえるように、がんばって美味おいしい料理を作らないければ。そのためにまず、元気の良い挨拶あいさつをしなくては。なので私は、がんばって元気な挨拶をした。

「い、いらっしゃいませ~!」


 すると、おじさんはヨロヨロとした足取あしどりで私の正面の木製のイスに座った。そして、「はあ~」とため息をついた。あらあら。これは大分だいぶ、体の調子が悪そうだ。するとやはり、おじさんはつぶやいた。

「はあ~。どうも最近、体の調子が悪くてね。ここにくれば、元気になる食事を出してくれるって聞いてきたんだけど……」


 なので私は、笑顔を作って答えた。

「は、はい、そうですよ。で、でもそのためには、ちょっとやることがあるんです」


 するとおじさんは、疑問の表情になった。

「え? やること?」

「は、はい。す、すみませんが、ちょっと立ってみてください」


 と私がたのんでみると、おじさんはヨロヨロと立ち上がった。上下ベージュ色の服を着ていて、背は低めだ。そして髪は白髪交しらがまじりで気弱そうな目をしていて、聞いてきた。

「えーと、こうかい?」

「は、はい、ありがとうございます」


 そして私は、右手をおじさんにかざして魔法をとなえた。

「スキャン!」


 すると私の右手は、ボウと青色の弱い光をはなった。うん、これでいい。そして私は、右手をおじさんの体中にかざした。そうすると、おじさんの肝臓かんぞうがある部分で赤い光に変わった。やっぱり。私は、おじさんに聞いてみた。

「おじさん。ひょっとして毎晩、お酒を飲んでいませんか?」


 すると、おじさんは少しうろたえた表情になった。

「え? どうして分かったんだい?」

「はい、魔法で調べてみたんです。そしたらおじさんの肝臓が悪そうなので、原因はお酒の飲みすぎかなと思ったんです」


 するとおじさんは、感心した表情になった。

「なるほど、魔法でねえ。うんうん。ちょっとわしは、酒を飲みすぎているようだ」


 なので私は、提案した。

「それでは、お酒の飲みすぎの肝臓に良い料理を作りたいと思いますが、かまいませんか?」

「うんうん。それを頼むよ」

「はい」


 と私は早速さっそく、後ろにあるせまい調理場で料理を作ることにした。お酒の飲みすぎの、肝臓に良い料理と言えば……。そう考えながら私は、右手をかまどにかざして魔法を唱えた。

「フレイム!」


 すると、かまどに炎が出現した。この炎はしばらくの間、存在する。もちろん料理を作っている途中とちゅうで炎が消滅しょうめつすることもあるが、その時は再び炎の魔法を唱える。私はそうやって、料理を作る。


 そうして料理を始めて、できあがった。私はそれを、正面のカウンターに並べた。メニューはキャベツの千切せんぎりをえたカキフライ、シジミのスープ、そして主食しゅしょくのパンだ。


 キャベツには良質りょうしつな植物性たんぱく質、ビタミンC、カルシウム、ビタミンUが含まれていて肝臓のアルコールの分解を助けたり脂肪肝かんしぼうを防ぐ効果がある。


 カキには肝臓に必要な各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸、グリコーゲン、タウリンが含まれていて肝臓を強くする効果がある。


 シジミには、たんぱく質、ビタミン、ミネラル、タウリンが豊富ほうふふくまれていて肝臓にすぐれた効果を持つ。


 そして、主食のパンだ。さあ、これらの料理を食べてもらおう! すると、おじさんは早速、食べ始めた。美味しい、美味しいと言いながら食べてくれたので、私は安心した。全ての料理を食べ終わると、おじさんは呟いた。

「ふー、美味しかった。何だか、肝臓の調子が良くなった気がするよ」


 それは良かった。でも私はおじさんに一言ひとこと、言わなければならなかった。

「ありがとうございます、おじさん。肝臓の調子が悪くなったら、またきてくださいね。でも、やっぱりお酒の飲みすぎには注意してくださいね。肝臓が悪くなると、疲労感を感じたり体がむくんだり食欲が低下したりしますから」


 するとおじさんは、右手で頭をかいた。

「うーん、そうだねえ。気を付けるよ……。で、この料理の料金はいくらだい?」

「はい。五百ゴールドになります」


「そうかい、そうかい」と、おじさんは私の目の前のカウンターの上に五百ゴールドである銀貨ぎんか、一枚を置いた。そうして、「今日は美味しい料理をありがとう」と言い残して食堂の出口に向かった。私はその背中に、「ありがとうございました」と告げた。

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